鼻行類ゼミ第1回

序論

Jan.31,1999

 ようやく第1回を迎えた「鼻行類ゼミ」ですが、まぁ、今日は出席者も少ないことですし、軽く流しましょうや。インフルエンザですか、皆さん。インフルエンザといえば、ハイアイアイに西洋人が上陸してからわずか数カ月で住民たち(フアハ-ハチ族)を全滅に追い込んだ恐ろしい病気ですからねぇ、せいぜいお大事に。
 ところでこの「フアハ-ハチ族」ですが、ポリネシア=バイエルン混血民族で、何といってもドイツ語で「ハチ(Hatschi)」というのは「ハクション」ってことらしいですな。『鼻行類』の参考文献にも記されているようにハクション族だけに鼻づまりで絶滅してしまうわけで。
 さて舞台となるハイアイアイ群島について。右にあるのがそれですが、この島々は全くの偶然から発見されたんですね。第二次大戦中に日本軍の捕虜収容所から脱走したスウェーデン人のエイナール・ペテルスン=シュムトクヴィストって人が流れ着いたのがハイアイアイ群島の一つ、ハイダディファイ島(地図中一番大きな島)だったというワケ。
 一応、公式な記録によるこの島の発見はこの時ということになっているのだけれど、実はそれ以前にも西洋人がこの島を訪れていると考えられる記録が残ってる。ドイツの詩人、クリスティアン・モルゲンシュテルンは「ナゾベーム(Das Naosbem)」という、明らかに鼻行類の1種であるNasobema lyricumを描写したと思われる詩を残している。この詩が書かれたのは1890年代、先のシュムトクヴィストがハイダディファイ島に流れ着いたのよりも50年ほど前の事だ。モルゲンシュテルンがどうして鼻行類の存在を知ったのかは謎に包まれているのだけれど、彼の友人で貿易船の船長をしていたアルプレヒト・イェンス・ミースポットが鼻行類の存在を知らせたか、更には生け捕りにして持ち帰った鼻行類を彼に見せたのかしたのだろうとも言われている。
 この船長さんだけど、最期には精神錯乱の状態になって若くして死んでしまった。きっとこの世に鼻で歩き回ったり、飛び跳ねたり、挙げ句の果てに耳で羽ばたいて飛び回ったりする哺乳類が存在する事実を受け入れ切れずにおかしくなってしまったのだろうね。
 さて、島の事に話を戻そう。ハイアイアイは全部合わせても総面積1,690平方キロくらいで、しかも離島だから普通に考えれば生物相は単純なものになっている筈なんだな。ところがそうはなっていない。で、この島々の起源をちょっと見てやる必要がありそうだ。
 ハイダディファイ島には活火山があるが、この島は火山起源の島ではない。おもに石灰岩と変成粘板岩から構成されている。ふつう大洋の真ん中にある離島というのは火山島で、玄武岩質で構成されている。石灰岩と言うのは珊瑚やなんかの死骸から出来るものだから珊瑚礁の島でも見られるけど、変成粘板岩は大陸があるところにしかない。粘板岩というのは大陸があって、そこで侵食された岩石が細かい粒子となって堆積して出来るもの。つまり川が地面を削って流れていき、河口でどんどん積もっていくうちにできるんだね。それが熱や圧力なんかの影響で変成すると変成粘板岩。この場合は火山があるから上がってきたマグマの熱で変成作用を受けたんだな。
 で、そういう地質学的なこととか、植物相なんかから色々考えるとハイアイアイはもともと大陸の一部で、それがある時期(白亜紀後期あたり)に大陸から分離し、その後の地殻変動によって群島の形になったのだろうと思われている。そうすると離島にもかかわらず生物相が複雑であることの説明がつく。
 で、こういう島に様々な特徴を持った鼻行類たちが生息しているのだけど、それについては次章「総論」の部分から記述が始まる。

 えーと、そろそろ時間も押してるし、今回はこの辺にしときますか。次回は「総論」の部分、ちょっと内容も重いから2回に分けることになるかもしれないけど。あ、ちゃんと各自予習しておくようにね。今日も全然準備しないで参加してる人もいたようだけど、そういうのは迷惑なんだよね。そう、君だよ。え、ジャズ研のライブがあったから忙しくて?そんな言い訳は聴きたかないね。大体いつも君は(以下略)


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