ハイアイアイ通信 5号


Mar.16,1999

 収容所から出され、体力も回復した私はいよいよ島を案内してもらうことになった。所員が交代で行なっている鼻行類たちの「医療活動」に同行するのだ。
 随分と古そうな5人乗りくらいのボートにテントや10日分の食糧、鼻行類たちのための「医療用品」などを積み、私の他レイとジョシュアという所員の3人とで出発した。向かった先はハイダディファイ島、ハイアイアイ諸島最大の島である。この島の東側にある河口から上陸する。すでに先に島で医療活動をしている所員が10日間の任務を終え、そこに下りてきて待っている筈なので、そこで彼らと交代し、彼らがいま我々の乗っている船で帰るのだのだという。
 なかなかよくできたシステムだと感心したが、ふと船の積み荷に通信装置の類が含まれていなかったことを思い出し、「すると次の交代要員が来ないかぎり戻れないってこと?」と聞くと「ま、そういうことになるかな」とあっさりと言われてしまった。しかしここには猛獣の類や毒ヘビなんかはいないし、もし危険があるとすれば高いところから落ちる、といったことぐらいだから何も心配はない、食べる物もなくなったらその辺で魚を捕るとか、果物なども食用になる物が多いので一月ぐらいはやっていけるしね、ということだった。
 それを聞いて少しは安心し、そもそも研究所のあるマイルーヴィリ島に戻ったところでそこから先はどこにも行けない訳だし、どのみち絶海の孤島にいることには変わりがないのだと思い、変に自分自身で納得してしまった。もう最近ではいつ日本に戻れるか、などということはあまり考えないようになってしまった。せめて3年以内に帰らないと失踪宣告を受けてしまい、そうすると法律上は死んだことにされてしまうのだなぁ、などと他人事のように考えるのだった。
 さて、そうこうしているうちに目的の河口に着いた。思ったより大きな川で水量もなかなかである。釣りをしたらどんな魚が釣れるだろうか、などと考えていると岸に座って釣りをしている人間がいた。交代を待っている所員たちらしい。
 彼らは開口一番「遅いぞ」、どうやら1日我々が来るのが遅れたようだ。「そうだったかな」とレイは首をかしげたが、待たされていた方もその間に大きな魚が釣れたと、かえって喜んでいるようでもあった。それでも早く家に戻りたいのには違いなく、我々に引き継ぎを済ませるとそそくさと船に乗り込んで去っていった。
 さあ、いよいよ鼻行類たちの生きている様を目の当たりにできるのだ。そう思うと背中の大きな荷物も苦にならなかった。岸辺から木立の中へ続いている小道を我々は進んだ。(つづく)


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