ハイアイアイ通信 2号


Oct.15

 いつの間にか眠っていた。単に疲れていたからだったのか。いや、それにしては変だ。
 目を覚ますとさっきとは違う部屋にいるようだった。全体に白っぽい部屋で、ちょっと病室のようでもある。6畳ぐらいの広さで、ベッドと小さな机、薄っぺらな雑誌が10冊ほど入った本棚。テレビのようなものもある。窓はあるが、何故かはめ殺しになっていて開かない。ドアが2つある。一つはバスルームになっていて、もう1つは鍵がかかっている。他に出口はない。ということは私はすっかり閉じ込められているというワケなのか。
 しばらくどういうことなのか考えていたが、さっぱり分からない。不安になりはじめた頃、不意にテレビの電源が入った。そこには先程のレイの顔がある。テレビの上にはカメラが付いていて、これで向こうと会話できるという案配になっているらしい。スピーカーからレイの声が聞こえてきた。
 騙したようですまない。さっきキミが食べたビスケットと紅茶には睡眠薬を入れておいた。キミにはしばらく眠っていてもらう必要があったからね。実はこの島に我々以外の人間が上陸するのは20年ぶりなんだ。キミはもちろんこの島でかつて起こった悲劇を知っているだろう。上陸した西洋人の持ち込んだインフルエンザで原住民のほとんどが死に絶えてしまったのさ。そんなことがあったから我々は検疫体制を強化したんだ。ちょっと大袈裟と思うかもしれないが、これくらいのことをしないとね。というワケでキミにはしばらく、そうだな、1週間くらいかな、その部屋だけで暮らしてもらう。あと、キミの持ち物は全て滅菌消毒した。必要なものがあったら言ってくれ。後でそのドアのところから届けるよ(見ると鍵のかかったドアには妙な蓋が付いているのだった)。何か聞きたいことは?
 「日本と連絡を取りたいんだけど、何か方法はあるかな?」私は一番気になっていたことを聞いてみた。これができないとこのレポートも送れない。
 それなら心配ない。キミPowerBook持ってきただろう、それをそのディスプレイの横にあるコネクタにつなげばインターネットに接続できるよ。後で設定の仕方は教える。あ、でも電話はここにはないからね、それは我慢してくれ。他には?
 他にも聞かなければならないことはいくらでもあった筈なのだが、何故か私はつまらないことを聞いてしまった。「このモニタには何か別のものは映らないのかな、例えば映画だとか。」するとレイは笑いながら、ほとんどここ何年かのハリウッド映画は見ることができる。リクエストはPowerBookからできるようになってるから、そのツールを後でダウンロードしてくれ、なんてことを言った。
 とにかく、毎日映画でも見てれば退屈はしないだろう。それにインターネットにつなげられるのだから日本に帰ったら浦島太郎、ということにもならないで済みそうだ。少しだけ安心した。すると急に腹が減ってきた。「夕食は何時だい?」(つづく) 


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