図 1 に HTML 文書が生成する文書木 (文書ツリー) の例を挙げます。図中、二重線で囲んだのが文書ノード、角丸四角が要素ノード、長方形がテキストノードを表します。
文書木の根 (最上部) は文書要素ノード (ルート要素ノード、HTML 文書なら html 要素ノード) ではなく、文書ノードであることに注意してください。JavaScript から DOM や XPath を扱う場合、document オブジェクトが文書ノードに対応します。
属性ノードは特定の要素ノードに属しますが、文書木中には含まれないと考えたほうがいいでしょう。
図 1: XPath のデータモデルによる文書木CSS セレクタと XPath の最大の違いは、CSS セレクタでは要素及び擬似要素にしかアクセスできないのに対し、XPath では要素以外にもテキストや属性にアクセスできるという点にあります。
XPath の「ノード」は厳密には DOM の「ノード」と異なりますが、ほとんどの場合同一視して問題ありません。DOM に存在して XPath に存在しないものとして、文書型宣言を現す DocumentType ノードがあります (DOM では文書ノードの子ノードとして出現する)。
CSS の :link、:visited、:hover、:active 擬似クラスによる選択は XPath で再現できません。また、CSS の擬似要素にアクセスすることもできません。
cf. Latest topics > CSS3セレクタとXPathでの表現の対応表 - outsider reflex
以下で単に XPath といった場合、XPath 1.0 を指す
XPath は本来 XML 文書のために策定されたものですが、IE を除く各ブラウザは HTML 文書にも適用可能にしました。
HTML 文書における XPath の扱いは、名前空間や局所名といった細かな点がブラウザ間で異なりましたが、今後は HTML5 が定める形に統一されていくでしょう。
XPath というと XPath 式のみが注目を集めがちですが、その実行過程を理解する上ではコンテキスト、特にコンテキストノードが重要になってきます。
XPath で重要な概念に文書順というものがあります。これは文書中の各ノードを文書内で最初に出現する順番で並べた順序で、ノード同士の前後関係を表すのに用いられます。文書順は、文書木の先行順 (preorder) での順序付けと一致します。
文書順の前後をひっくり返した文書順の逆順 (逆文書順) が使われることもあります。
図 2: 各ノードに文書順で振った番号child::p[1] (コンテキストノードの子である p 要素のうち、最初に出現するもの)
ロケーションステップとはいわば、ひとつのノードを引数に取りノードセットを返す関数です。ここで引数として渡されるノードがコンテキストノードです。
child
body 要素がコンテキストノード (図中で星のついたノード) であるとき、child 軸によって選択されるノードはその子である div 要素と p 要素 (図中で網掛けされたノード) になります。
図 3: child 軸により選択されるノードdescendant
図 4: descendant 軸により選択されるノードdescendant-or-self
図 5: descendant-or-self 軸により選択されるノードparent
図 6: parent 軸により選択されるノードancestor
図 7: ancestor 軸により選択されるノードancestor-or-self
図 8: ancestor-or-self 軸により選択されるノードfollowing-sibling
図 9: following-sibling 軸により選択されるノードpreceding-sibling
図 10: preceding-sibling 軸により選択されるノードfollowing
図 11: following 軸により選択されるノードpreceding
図 12: preceding 軸により選択されるノードself
図 13: self 軸により選択されるノードattribute
child, descendant, descendant-or-self, following-sibling, following, selfparent, ancestor, ancestor-or-self, preceding-sibling, preceding軸は順方向軸と逆方向軸の 2 つに分けられます。文書順でコンテキストノード以降のノードを探索するのが順方向軸、コンテキストノード以前のものを探索するのが逆方向軸です。self 軸にとってこの区別はあまり意味がありませんが、便宜上順方向軸に含めます。
コンテキストノードをひとつ定めたとき、文書木中の全ノードは ancestor、descendant、preceding、following、self 軸のいずれかひとつにより選択されます。あるノードがこれらのうち 2 つ以上の軸に同時に属するということはありません。
図 14: 各軸による文書木の分割XPath と CSS セレクタの最大の違いは、XPath には順方向軸がある (文書順が若いノードを選択できる) ということです。CSS セレクタでは「ある要素の親要素」を選択することができませんが、XPath なら可能です。
child::p
child::*
child::node()
child::* は要素ノードのみを選択しますが、child::node() はテキストノードやコメントノードも (あれば) 選択します。
child::text()
child::comment()
ancestor::*
ancestor::node()
ancestor::* は要素ノードのみを選択しますが、ancestor::node() は文書ノードも選択します。
self::p
self::*
self::node()
self::node() は常に 1 ノードのみを含むノードセットを返しますが、self::* は空のノードセットを返すことがあります (コンテキストノードが要素ノードでなかった場合)。
attribute::class
attribute::*
attribute::node()
attribute::* と attribute::node() はどちらも同一のノードセットを返します。
ノードテストは末尾に丸括弧 () がつくことがありますが、これは関数呼び出しではありません。名前テストとそれ以外のテストを区別するためのものです。(child::text だと text という名前の子要素を選択することになってしまう。)
[ 式 ]child::*[1]
図 15 で body 要素をコンテキストノードとしたとき、child::* により選択されたノードセット中の各ノードのコンテキスト位置を菱形数字で示しました。
図 15: child::*[1] により選択されるノードchild::*[last()]
last 関数はコンテキストサイズを返すpreceding-sibling::*[1]
逆方向軸により選択されるノードセット中のノードは、文書順の逆順でコンテキスト位置が振られます。
図 16: preceding::*[1] により選択されるノードchild::*[position() = 1]
child::*[1] に同じposition 関数はコンテキスト位置を返す=ancestor::*[position() != last()]
図 17: ancestor::*[position() != last()] により選択されるノードchild::*[child::p]
child::* により得られたノードセット中の各ノードをコンテキストノードとして child::p を評価します。評価結果が空でないノードセットなら、コンテキストノードとしたノードが最終的な結果ノードセットに含まれます。
図 18: child::*[child::p] により選択されるノードchild::*[0]
child::*[""]
child::*["0"]
child::*[child::p][1]
child::*[child::p] で得られるノードセットは図 18 を参照してください。そのノードセット中のノードで、コンテキスト位置が 1 であるものが選択されます。
図 19: child::*[child::p][1] により選択されるノードchild::*[1][child::p]
child::*[1] で得られるノードセットは図 15 を参照してください。そのノードセット中のノードで、子に p 要素を持つものが選択されます。ここではそのようなノードは存在しないので、空のノードセットが返されます。
図 20: child::*[1][child::p] により選択されるノード/ 区切りのロケーションステップの連続
child::p/child::em
相対ロケーションパス ls1 / ls2 (ls1, ls2 はロケーションステップ) をコンテキストノード n0 と共に評価する過程は次のようになります。
ls1 / ls2 を評価した結果の値である。最終的にノードセットの集合を返すのではなく、複数のノードセットをマージしている (集合和を取っている。ノードセットは重複を含まない集合) ことに注意してください。ロケーションステップの返り値は常にひとつのノードセットです (もちろんその中のノード数は 0 であったり複数であったりします)。
/child::p/child::em
絶対ロケーションパス / ls (ls はロケーションステップ) をコンテキストノード n と共に評価する過程は次のようになります。
/ ls の評価結果値とする。絶対ロケーションパスの評価に所与のコンテキストノードは用いられません。
なお、HTML 文書のルート要素は常に html 要素であり、p 要素ではないので、HTML 文書において式 /child::p/child::em の評価結果は常に空のノードセットとなります。
attribute::class@classchild::p/child::emp/emchild::p/descendant-or-self::node()/child::emp//em/descendant-or-self::node()/child::p//pself::node()/child::p./pparent::node()..文字列、数値、真偽値をノードセットに変換することはできません。
+ - * div mod= != < > <= >=and or|foo-bar は child::foo - child:bar ではなく child::foo-bar と解析される除算演算子がスラッシュ / でなく div なのは、スラッシュ / がロケーションステップの区切り文字に使われているからです。
XPath 式 div div div において、最初と最後の div はロケーションパス (コンテキストノードの子である div 要素を選択) ですが、真ん中の div は除算演算子と解釈されます。
=、!= 演算子の両辺がそれぞれノードセットと文字列であるときの動作はやや複雑です。ノードセット中の各ノードをそれぞれ文字列化して所与の文字列と比較し、条件に一致するものがひとつでもあれば真を返します。
図 21 の文書木で body 要素をコンテキストノードとしたとき、以下の各式は次のような結果になります。
child::p = "foo"child::p != "foo"string(child::p) != "foo"not(child::p = "foo")
図 21: ノードセットと文字列の比較ノードセットと文字列との比較は、ノードセット中のノード数が 0 または 1 であるとわかっているとき (. = "foo"、@type != "hidden" など) のみにとどめたほうがいいでしょう。
Functions - MDC (https://developer.mozilla.org/ja/XPath/Functions) を参照
文字列関数において、最初の文字の位置は 0 ではなく 1 なので注意してください。
translate() 関数は、文字列の置換ではなく文字の置換を行います。XPath 1.0 で文字列置換を任意回数行う手段は用意されていません。
XPath に真偽値リテラルはありませんが、true()、false() 関数が存在し、それぞれ常に真、偽を返します。
wedata AutoPagerize SITEINFOs (http://wedata.net/databases/AutoPagerize/items)
id("first second")id 関数には空白区切りで複数の id を指定可能id(//label/@for) | //label//*[self::input or self::select or self::textarea]id 関数の引数にノードセットを渡すと、各ノードの文字列値を元に要素を選択//ul | //ol//*[self::ul or self::ol]すなわち、文書中のすべての ul 要素及び ol 要素です。
concat('He said, "', "That's a good idea!", '"')concat 関数を用いる//a[text() = "foo"]//a[string(.) = "foo"]//a[. = "foo"]<a><em>foo</em></a> にマッチしない
. は常に 1 ノードのみからなるノードセットを返すので、//a[string(.) = "foo"] と //a[. = "foo"] は同じ結果になります。
text() は使わないこと
string(.) が「あなたが本当に望んでいたもの」text() テストを使っている XPath 式の 8 割は不適切な使用法です。要素の内容文字列を扱いたいときは string() 関数を使いましょう。
//* (/descendant-or-self::node()/child::*) と /descendant::* は同じ結果を返しますが、その過程は異なります。コンテキスト位置、コンテキストサイズを参照する述語をつけると、その違いがより鮮明になります。
たとえば //div[1] としたとき、述語が属する軸は child 軸であり、コンテキスト位置は child 軸を基に算出されるので、コンテキスト位置が 1 であるノードが複数存在しえます (図 22)。しかし、/descendant::div[1] ではコンテキスト位置が descendant 軸を基に算出されるので、コンテキスト位置が 1 であるノードはひとつだけになります (図 23)。
図 22: //div[1] により選択されるノード
図 23: /descendant::div[1] により選択されるノード「述語」の項で、コンテキスト位置は「軸なしなら文書順での順番」といいました。関数の返り値や、丸括弧でグループ化したときは軸なしになります。
たとえば、ancestor::*[1] は親要素を選択しますが、(ancestor::*)[1] はルート要素になります。
図 24: ancestor::*[1] により選択されるノード
図 25: (ancestor::*)[1] により選択されるノードHTML の class 属性で指定されたクラス名を基に要素を選択するときのイディオムには次のようなものがあります。
//*[contains(concat(" ", normalize-space(@class), " "), " class-name ")]
normalize-space() 関数は、文字列の先頭末尾の空白文字 (タブ、改行、復帰、スペース) を取り除き、連続する空白文字を 1 文字のスペースに変換します。ただし、クラス名の区切り文字にスペース以外の空白文字が使われることはあまりないので、normalize-space() 関数を省くこともあります。
a、area、link 要素のうち rel 属性の値が "next" であるものを選択するときのイディオムには次のようなものがあります。
//*[translate(@rel, "NEXT", "next") = "next"]
HTML では rel 属性の値の大文字小文字を区別しません。translate() 関数は文字の置換を行うので、こうすると "N"、"E"、"X"、"T" がそれぞれ "n"、"e"、"x"、"t" に置換され、実際の属性値が "NEXT" でも "Next" でも受け付けられます。
JavaScript から XPath を扱う手法については「Introduction to using XPath in JavaScript - MDC」を参照してください。
IE でも HTML 文書で XPath を利用可能にするためのライブラリとして、amachang さん作の JavaScript-XPath があります。