『PAIL BLUE RAIN』



ただの意地の張り合いだった。
俺はハインリヒが許せなかった。

ひどい、言葉を投げかけた。
傷ついた顔をしたハインリヒの顔が忘れられない。
目を閉じた。

後悔だけが胸に広がった。



ジェットが出て行って2時間経った。
降り始めた雨が、本降りになり止む気配はない。
じっと窓の外に向かって煙草をふかすハインリヒに、
触らぬ神に祟りなしとばかりに皆は近づかない。
何本目か分からない煙草に火をつけようと手を伸ばした。
手を伸ばして、煙草が空になったことを知る。
「っち」舌打ちをして、くしゃっと箱を潰した。

本当に下らない意見の食い違いだった。
下らな過ぎて思い出す気にもならない。

目を閉じる。
あいつの怒った顔が目に浮かぶ。
裏切られたような、寂しい目をしてた。
すっかり探しに行くタイミングをなくして、途方にくれている。

ああ、そうか。
ハインリヒは髪を掻きあげると、口元を上げた。

「煙草を買いに行ってくる」

そう言い残し、ハインリヒはギルモア邸を後にした。




軒先に避難してどれくらい経ったのか。
ジェットは濡れて張り付いた服を気持ち悪そうに引っ張った。
寒かった。確実に濡れたところから体温が奪われていた。
くしゃみした。少し、背筋に悪寒が走った。
「ああ、くそ」
しとどに濡れた髪を掻きあげる。
帰るタイミングが見つからない。迷子になった子供のようだった。
空を見上げる。雲はまだ重く黒かった。
止む気配はなかった。

さて。どうするか。
ジェットは運を天に任せるように呟いた。



「おい」
誰かに呼ばれた。振り向くと、横にハインリヒが立っていた。驚くジェットに構わず、言葉を続けた。
「よく、降る雨だな」
「ハインリヒ・・・」
「まだ怒っているのか?」
「・・・・・・いいや」
「なら、いい」
傘を強引にジェットに渡した。

「帰るぞ」
「・・・・・・」

そのまま。答えを聞かず、ハインリヒは去っていく。
呆然とその背中を見つめていたジェットを、ハインリヒは振り返って見た。
目が合った。困ったような視線にジェットはにやりと笑う。

しょうがないな。折れてやるよ。
迎えに来たあんたに免じて。

「はい、はいっと」
帰るとしますか。

ジェットは傘を差し、ハインリヒに追いついた。



 □■END■□
 2003/02/23 UP



『恋スル機械』、namakochanへ寄贈します。
というか開設記念のイラストを奪回してきたイラストに
駄文をつけただけなのですが。
絵の世界観を壊していたらごめんなさい。
大好きなnamakochanへ
いつものお詫びしもならないですが、貰ってやって下さい。