I died then my instinct was born







それはネオブラックゴーストとの戦いの最中であった。
閃光が走る。

一瞬の隙、とはこういうものなのだろうか。
いつも。
今までは。
当たり前のようにあったものが無くなる。
当然のように隣にいた者がいなくなる。

喪失の恐怖。
それは万人に共通した心理。

それは彼ら、サイボーグ戦士も同じ事である。















writen by 桜 薫





F : side


とある孤島だった。
周りを太平洋に囲まれた小さな島。
慎ましいながらも豊富な魚と果物。島特有の織物などで生計を立てている・・そんな島だった。
そんなのどかで平和な島から信じたくは無いが、黒い影の存在が見え隠れしていた。

世界各国で起きる暴動や戦争。有能な科学者や技術者達の蒸発。
そして自分達以外のサイボーグ戦士。
そんな事が調べていくうちにこの孤島に集中したのだった。
001の予言と助言により、00ナンバー達は程なくしてこの島に降り立つ事となった。

003の能力で周辺を探る。
ジャングルと海。そして漁村。この島の大方のつくりである。そして島の中心にある死火山。
NBGの基地はこの下にあるようだ。

戦闘の支持を009がしていく。
透視で内部深くまでの見取り図は頭に入っている。あとは作戦通りに動けばいいのだ。
002から008まで何かしらの前線での役目を担っていた。一人を除いては・・・。

「009、私は?私は何を・・」
「ダメだ。君はここにいろ。」
「え・・。」
眠りについたイワンを寝かせた彼女は自らも戦いに赴こうとスーパーガンをホルスターに収めかけた手を止めた。
「どうして・・、私が行った方がきっと役に立つわ。」
「君はここで001と博士を頼む。」
「でも・・・」
言いかけて彼女はギルモアとイワンに振り返った。博士は眠っているイワンを優しくあやしている。
出かけていく前に振り返った004も言う。
「オレ達だけでも大丈夫だ。お前さんはここを護っていてくれ。」
「祖父さんと坊ちゃんを頼むぜ。」と軽い口調の002に自然と顔が綻ぶ。
彼らはいつもこうだ。
自分が戦火へ行こうとするのを止める。自分だって同じサイボーグ戦士なのに。仲間なのに。
普通の女の子でもあるまいし、そんなに過保護にしなくてもいいのに・・・と。
以前、言ったこともあったが簡単にあしらわれてしまった。

「危ないから。」
「怪我でもしたらどうする。」
「バレリーナが傷でも残すような事になったら。」
「姫を護るのはナイトの役目。」
等など。
まるで自分達の娘か妹のように。
彼らのその気遣いが嬉しくもありくすぐったい気もする。


「003。ドルフィン号のこともあるし・・頼むよ。」
009がそっと肩に手を置いた。
彼女は少しの間、目を瞑って何かを考えるようであったが、やがて静かに頷いた。
「分ったわ・・。皆、気をつけて。」







*****


作戦は順調に進行していた。
基地に潜入するまでの攻防は一進一退といった感じだ。
派手に初めて島民に迷惑はかけたくない。なるべく暗躍して自分達だけで片をつけたいというのが彼らの望みだった。
目立たないように002も空中戦は避ける。008のゲリラ作戦で要所を叩く。
009が先頭に立ち、突破口を開いて行った。
静かに迅速に基地内部に潜入していく。
守りを固めるために続々とロボットとサイボーグ戦士が出てくる。
多勢に無勢では何ともやりにくい。
派手に動けない分、此方は劣勢であったが引くわけには行かなかった。


皆が攻防を繰り広げている間、フランソワーズはヤキモキしながらドルフィン号の中で両手を組んで祈っていた。
皆が無事で戻ってきますように・・・
彼女の祈りはいつもこうだったけど。

その時、研ぎ澄まされた耳が目が、ある一点に集中した。
メンバーと戦っている基地周辺から逸れたのかわざとなのか、とにかくその部隊はあの漁村へと向かっていた。
サイボーグとロボット達だ。

まさか・・?

嫌な予感がした。
奴等は一体どうするというのだろう?
村の人たちを人質にでも取るつもりなのだろうか・・。

その可能性が一番高い。
優しい彼らの動きを止めるなら関係ない人の命を盾にするのが一番だ。
小さな村などあの忌まわしい手に掛かれば一溜まりも無い。

いけない!早く村の人たちが・・!!

「フランソワーズ、一体どうしたんだ?」
ギルモアが様子の一変した彼女を見てイワンをクーファンに寝かせる。
「博士。ドルフィン号を緊急発進させます。イワンをお願いします。」
彼女はそう言うと操縦席に座り操縦桿を握る。
メインパイロットは009だが皆一様にドルフィン号の操縦はできるのだ。

フランソワーズから大方のあらましを聞いた博士は
「009達に知らせなければ!」
と、慌てて無線に叫ぶ。
無線の向こうでは彼らの切羽詰った声が漏れ聞こえてくる。

『オレ達が行くまで無茶するな!003!』

そんな台詞が聞こえてくるが待つわけにも行かない。彼女は確かに戦闘タイプではないが確かにサイボーグ戦士の仲間なのだ。他の人たちを護りたいと思う気持は一緒だ。
だから、制止の声が入っても聞こえない振りをした。自分ひとりで叶うとは思わない。けれど、彼らが着くまで足止めをするくらいならできる。
銃の腕はメンバー内でも1,2を争うほどなのだ。

私だって闘える・・・

ドルフィン号のモニターを見ると隊はもうすぐに村の裏手に辿り着いてしまう。
フランソワーズはドルフィン号を急降下させて奴等の注意を逸らし牽制した。
向きを変えて此方に進行してくる奴等を、彼女は村から離れたところに誘き寄せる。
無事にドルフィンを着陸させると彼女は外へ出るべくハッチを開けた。

「フランソワーズ!出ちゃいかん!!」
「私があいつ等を誘き寄せますから、その間に博士は皆のところに。あっちもかなり苦戦してます!」
「しかし!」
「お願いします。」
真摯な目で見つめられると博士には何も言えなくなってしまう。博士も彼女には弱いのだ。
いやしかし!ブルルと博士は頭を振った。
いかんいかん!こんなところに彼女を一人になどできるものか!

「いかぁん!君一人危険な目には会わせられん!」
博士は叫んだ。
だが。
フランソワーズは博士の制止も聞かずに飛び出して行ってしまった。







*****


村の裏手は鬱蒼としたジャングルだった。
生い茂る緑の中、目を凝らし耳を済ませてフランソワーズは敵の動きを探る。此方にくるもの。構わず村に向かうもの。
彼女はまずは村の安全第一だと、敵の先回りをしていく。こういうときジェットのように空を飛べればと思う。
慎重にかつ迅速に。
相手に気付かれないうちに照準に収め引き金を引く。一体、また一体と確実に撃っていくが、敵もただやられる訳ではない。奴等の本当の敵は自分達なのだ。目の前に無謀にもたった一人で出てきた、しかも非戦闘タイプの003がいたとなると当然此方にくる。
それが彼女の思惑でもある。
何の関係もない島民から被害を出しては絶対にならない!
彼女の信念。

赤い戦闘服は緑に良く映える。そして輝くような亜麻色の髪も。
奴等はそれを目印に的確に彼女を追い詰めていく。

敵の位置はわかるが数に任せて撃たれる。少しずつ少しずつ・・彼女の戦闘服がボロボロになっていく。
マフラーはちぎれ袖もかなり破れている。
それでも彼女は頑張った。

皆だって頑張ってる・・自分だけ逃げるわけにはいかない・・

そして・・

ジョー・・大丈夫かしら?
怪我なんかしてない?

自分の方がよっぽど危ないのにどうしても彼の事が気に掛かる。
彼は大丈夫だ。
なんて言っても最強の戦士なのだ。

「!!」
疲れて傷ついて集中力が途切れた瞬間だった。
死角から敵が踊り出た。

しまった・・・

敵が銃を向けている。
完全にサイトに捉えられた。

避ける事も撃つ事も間に合わない。



バシュ!


「え・・・」


敵が倒れた。




「003!!大丈夫か?!」
「00・・9・・?」

目の前にいたのは009だった。
少し離れた所では爆音が聞こえる。それは004のバズーカ砲の音だ。
「良かった。間に合って・・・!」
009がホッとしたような怒ったような感情の交じり合った目で彼女を見つめた。
「あ!村は?村の人たちが・・」
「そっちには006と007が向かったから大丈夫だぜ。」

シュワ!と上から002が降りてきた。
「002。」
「敵は基地を放棄した。戦意を喪失した奴等は放っておくさ。」

「あ・・ありがとう・・。」
「全く。君は無茶をする・・。」
「だって・・」
「だってじゃない。もし君に万が一の事があったら・・」
「え?」
「いや・・」
そこまで言ってから彼は自分で自分の言った事に気付いたようだ。僅かだが頬を染めてコホンと咳払い。
だが彼女は何の事だが良く分っていない。小首を傾げている。

そこへゴオオオ・・とドルフィン号が到着する。
「やーれやれ、間に合った・・」
博士が中からひょっこり顔を出した。

「さあ。僕らも007達のところへ行こう。」
「ええ。」

一人また一人と00ナンバーズが終結していく。
先に村の護りに行った二人を除き、皆が一緒になって村に着いた。

どうやらゾロゾロと蟻の行列のように出てくるロボットたちにかなり苦戦しているようだった。巻き込みたくなかったのにという皆の願いは届かなかったらしい。

「007、006!」
「003!良かった無事だったあるね。」
陽気な006の声。
「姫。お怪我は?」
こんな時にも芝居癖は抜けない007に苦笑しながら大丈夫と答える。
「003。まだ非難していない人たちを誘導してやってくれ。あそこだ。」
007が指差す方向に10数人の女生徒子供達。足が遅い分逃げ遅れてしまったのだ。
「了解。」
彼女は壊れかけた塀の陰に隠れている怯えきった人達を宥めながら誘導し始める。
民間人を庇ったままでは実力を出し切れない007達はホッと一安心と胸を撫で下ろし、本来の強さを発揮し始めた。

敵が戦いに集中している間を縫って彼女は皆を安全な場所まで誘導する。優しい彼女の笑顔に励まされて怯えていた子供達も歩き出した。キュッ手を握ってくる子供に笑いかけ、お年よりの手を取る。
そうやって滞りなく避難は済み、先に逃げた人達と合流できたはずだった。

母親の一人が自分の子供がいないと取り乱すまでは。

「なんですって?」
彼女は耳を疑った。
その母親の子供は男の子と女の子。二人のうち男の子の方は父親と一緒に非難したものと思っていたのだ。だが父親もそれと同じことを思っていたようだ。この混乱ではっきりと情報が伝わらなかったのだろう。
慌てて戻ろうとする両親を止めて彼女はもと来た道を戻った。

どこ?どこにいるの?

必死になって耳を澄ます。目を凝らして子供の姿を探した。

いた!

瓦礫のようになった家の中で小さな男の子が震えているのが見えた。
フランソワーズは脅かさないように、静かに家に入った。

「僕?大丈夫?」
ビク!と子供が怖がるのが分った。
「もう大丈夫よ。お母さんとお父さんが待ってるわ。それと可愛い妹さんもね。」
怖がわれないように微笑む。彼は始め赤い戦闘服の彼女を敵だと思ったようだが、その優しい笑顔に本能的に味方だと悟ったようだ。

差し出された彼女の腕を受け入れて途端泣き出してしまった。
「泣かないで。もうすぐみんなに会えるわ。」
「ほんと?お母さん達も無事なの?」
「ええ。本当よ。」
「良かった!」
彼はまだ抜けきれていない乳歯をニカっとみせて笑う。聞くと他の島民と非難しかけたようだが家族を心配して戻ってきたというのだ。子供ながらに妹の心配だってちゃんとしている。

「さ、急ぎましょ。」
「うん。」

子供を抱かかえて家の外に出る。戦闘はまだ続いていた。
来た時と同じように静かに進んでいくだけだ。
けれども。

その行く手を阻んだものがいた。

バシュ!と足元を焦がす熱線。

「!!」

ロボット兵だ。
しかも頭部が中途半端に壊れている。おそらく狂っているのだ。近くにいる同胞までもその熱線で焼いている。
いけない!早くこの子を!

フランソワーズは銃を抜き、ロボットの前に出た。
「早く走って!これは私が引き受ける!」
「でもお姉ちゃん!」
「早く!お母さん達が心配してるわ、ね?」
最後にニッコリ笑って少年の頭を撫でる。少年は涙をいっぱい溜めていたが彼女の笑顔に励まされてやがて懸命に走り出した。

少年に気付かれないように彼女は銃をロボットに撃つ。自分に立ち向かうものは敵と解釈しているようで、それは一気に彼女に向かってくる。閃光を避けて間合いに入り込み、伸びてくる触手のような腕を避けて機体を踏み台にして空中で一回転。そのまま相手の弱点とも言える目に銃を撃つとプスプスと煙がくすぶりやがて大破した。

あの子は?

厄介なロボットをやっつけ彼女は少年の走り去った方向を見る。もうすぐ村の向こう側、ジャングルの端の方へと入る寸前だった。

ガションと後ろで音がした。
ばっと振り返った彼女の目に映ったのは。

黒い機体。
赤い目。
照準は少年の背中だ。

「だめぇ!!」

フランソワーズは迷い無くその閃光の前にとその身を晒した。








*****



J: side


いつも自分は皆を見ていないといけなかった。
00ナンバーのリーダーとして。最強の戦士として。
幅の広い視野と統率力。
周囲と仲間の安全を頭に入れて、その為にはたった一人に集中しているわけにも行かない。
本当はたった一人にだけ心を砕いていたかったのに。

彼女が一緒に行くといった時、思わず厳しい声で一括してしまった。
考える間もなく「ダメだ。」と言い放つ。
硬質的な言い方に彼女はちょっと驚いていたが、それは口調にではなく言った内容にあるようだった。
それでも尚も行こうとする決意の固い彼女を言いくるめるのは中々に骨の折れる仕事だった。
いつも。
いつもだ。
なるべくなら彼女には戦場に立って欲しくない。
彼女が現場に来ないようにとある事無い事を取ってつけたような理由で、彼等は彼女を安全な場所に置こうとその点は打ち合わせも何も無く阿吽の呼吸で結託しているのだった。
仲間内で特に優しく戦いの似合わない人だから。誰も闘いたがっているわけではないが、自分達は男だから。
早くこの戦いを終らせて彼女には美しい音楽の中で舞っていて欲しかったから。
それは博士も同じことでイワンのお守りも兼ねてドルフィン号に残るように言う。004、002も慣れたもので彼女の負担にならないような口調で言う。
そうしてやっと彼女は頷くのだ。

彼女が頷きこの場に残るという事。彼は漸く安堵の息をつくのだ。本当は現地にも連れて来たくない程なのだ。
贅沢はいえない。

少しの寂しさを宿した顔で『気をつけて』という彼女に軽く微笑みながら手を上げて外へでた。本当は離れたくなかったけれど。
後に博士から彼女が一人村を救うために飛び出した事を聞いて心臓が凍るようだった。

無茶するなとあれだけ言ったのに!

彼女は弱く無いが強くも無い。
たった一人であの数をこなすのは無理だ。
009は今正に基地へと潜入するというところだった。

でも彼女が・・
どうする?どうする?!

己の胸中の葛藤を察したのだろう。
「お前は彼女のところへ行け!!こっちは引き受ける!」
004の頼もしい声。敵をマシンガンで打ち倒しながら009に叫んでいる。
「すまん!」
迷いなど無く自分は加速装置でその場を後にした。

本当にそうしていて良かったと思う。全力で駆けつけた時に見たのは銃口を突きつけられた彼女の姿だったから。
もう少し遅ければきっと、絶対に彼女は撃たれていた。
寸での所で間に合った。

「003!!大丈夫か?!」

戦闘服もボロボロになっている彼女の姿を見て胸の奥を鷲掴みされた感じだった。

だから僕は・・君を・・・

無茶をするなと言ったのに!と心配と安堵の余り突いて出る言葉。本当はこんな事言いたいんじゃない。
良かったとすぐにでも抱きしめてしまいたいのに。
呪わしい口は009としての戒めだった。

「だってじゃない。もし君に万が一の事があったら・・」
「え?」
「いや・・」
思わず本音が口をついて出るが彼女のキョトンとした顔に我に返った。出もしない咳払いで誤魔化す。
そんな彼の胸中を分っているのかいないのか・・。彼女は小首を傾げている。

ああ・・もう、君は!!

そのまま連れて帰ってしまえば良かったのだ。
照れたりなんかしてないで。
村の人を助けるのは彼女を安全な場所に連れて行ってからでも良かったのだ。

あの光景を。
目の前が真っ赤に染まったあの光景を目にした時。
それからの記憶は遠い閃光の彼方だった。







*****


「だめぇ!!」
躊躇無く前に出る細い体が一筋の閃光に打ち抜かれるのは一瞬だった。
手にした銃が落ち鮮血を散らして金色の髪が靡いた。
声にならない悲鳴が聞こえたようだ。
撃たれた反動で大きく後ろに吹き飛ばされているのを自分はスローモーションかのように見ていた。

ただ回りの色が無くなりそこだけが紅く・・紅い・・。
頭の中が真っ白になった。

「003ィ!!」
遠くで誰かが彼女の名前を呼んだ。それすらも耳には入ってこない。
大きく見開かれた褐色の目には彼女の姿以外、映してはいなかった。


地面に叩きつけられる前にジョーはフランソワーズの体を抱きとめる。
「フランソワーズ!!」
ナンバーではない彼女の真名。何度呼びかけても彼女は反応しない。
腕の中での彼女は意識が無くぐったりとして白い喉が仰け反っていた。
彼女の流した血で手が濡れていくのを他人事のように感じている自分がいるのを、覚めた自分が遠くから見ている感覚がする。
「009、003は・・っ!!」


             (画像をクリック)



一番近くで一部始終を目撃してしまった004の悲痛な叫びは、だが耳をつんざ抜く爆音と火柱によって掻き消えた。

な・・に?!

今まで自分が戦っていた相手。そして009と003のいる方面への道すがら。
ロボット、サイボーグが挙って爆破炎上している。

「なんだと・・?」

これはどうしたことか?
そんな答えは一つだった。
彼だ。
あそこにいる史上最強の戦士。
009が加速装置で奴等を一掃したのだ。

「おい、009!」
敵のいなくなった004は二人の側へと駆け寄る。まだ残っている敵がいるが今は彼女の容態が先決だった。
爆風から彼女を護るように彼はその体を抱きしめている。早くドルフィン号にいる博士に看せないといけないのに。

「早く003を・・!」
言いかけて004は眉を顰める。
肩にかけようとした手が触れるギリギリで止まった。彼の肩が小刻みに震えている。
「おい!!」
「・・・・・い・・」
「なに?」
「許さない・・・」
「!?」

彼女を抱きしめたままの彼。その表情は見ることはできない。
だが、背中から迸る周囲を凍て付かせるかのごとく冷たい殺気は側にいる己さえ鋭く突き刺さりそうだ。

「ジョー!?」
番号ではなく名前で呼んだのは早く正気に戻さないといけないと本能で感じ取ったからだった。
体中から蒼く暗いオーラが彼を取り巻いている。

「よくもフランソワーズをっ!!」
振り返った彼の目に004は声を無くした。後から駆けつけた002も驚きに目を見開いている。
周りはさっき彼が倒したロボットたちの炎で紅く燃えている。その目にそれが映っているようだ。
いつもの彼が嘘かのような形相。
フランソワーズをその場にそっと降ろしたかと思うと、瞬く間に消えた。
直後から起こる爆音と熱風。

「ウオオオオオオオオ!!!!!」


009の怒号がビリビリと空気を震わせている。
体中に纏うオーラだけで殺せそうな鋭さだ。

次々と倒れていくサイボーグ達。
見えなかった姿が見えたと思うと凄まじい蹴りがロボットの腹を突き抜け、手刀で首を切り落とす。
全くの迷いも無駄も無い攻撃だった。
他の中も呆然としている。戦おうとする気は合っても009のスピードに着いて行けないのだ。
倒れている003を避難させる間も無いほどに早い。




ともすると仲間さえ巻き込みかねない乱暴な攻撃は程なく終った。今までに無い最短時間で一個中部隊を殲滅したのだ。
ピタリと止まった009の姿に004は叫んだ。
「もういい009!早く・・・」
「まだだ・・」
「何だと?!」
「あいつら・・・ぶっ殺す・・。」
真っ赤な瞳が遠く火山を睨んでいる。長い前髪から覗く片目だけでもぞっとするような冷たい色だった。

完全にキレてやがる!

またもや消えてしまった009を追うために003を002に預け004は火山へと向かった。

だがしかし。
全力して駆けつけた時は既に辺りは一面火の海であった。


その光景を004は一生忘れないと思う。
三千地獄とはこのことをいうのだろうか・・。
死火山であるはずの噴火口から立ち昇る大きく太い火柱を。
戦意を喪失して逃げ惑うサイボーグマンを容赦なく殺す彼の姿を。
一分の躊躇なくその胸を打ち抜き頭を潰し、りんごを握るかのように簡単に心臓を握りつぶす。
壮絶なまでの彼の姿を。



最後に起きた一番大きな爆発に巻き込まれたと思った彼が、敵のロボット兵の首をへし折ったまま悠然と歩いて出てきた。
熱風で逆巻く黄色いマフラー。
靡く髪。
炎を宿した紅い瞳。

傷一つついていない顔に、美しくも恐ろしい歪んだ笑みを張り付かせたその顔を。


生まれて初めて悪魔を見た・・・・。







*****


グレー掛かった景色の中、己の手で潰されていく敵の姿が見える。


許さない!
許さない!
許さない!
許さない!
許さない!
許さない!

彼女を、フランソワーズを傷つけた。
オレはお前等を絶対に許さない!!

殺してやる!!

村を襲っていた部隊を殲滅させても怒りは収まらず、落としかけて引き返してきた基地へと目標を映した。
おそこにはまだ敵が残っているはずだった。

そうだ、あいつらを生かしてはおけない

自分でも一体何を考えているのか分らない。
あの時はそれが一番良い方法だと思ったのだ。
ただ、フランソワ−ズを傷つけた奴等が許せなくて消し去りたくて。
僅かな不穏分子も残しては置けなかった。
それだけだった。

攻撃する間も与えず容赦なく撃つ。
拳で蹴りで。
体当たりで。
加速装置をふんだんに使い迅速に突き進む。作戦とか安全とか・・・頭には無い。
ただただ相手を倒す。
それは本来、BGが己に求めたもの。
皆が一葉に優しい心の持ち主だったのは、BGにとっては当てが外れた事だったろう。
けれど、自分に関してそれは強ち狂ってはいなかったのだ。
これほどまでに力を発揮する戦士を作り上げたのだから。

皮肉なものだ。
BGは己の生み出したもので命を絶たれていくのだ。



最後の断末魔。
あたかも本物の火山が噴火したかの如く、真っ赤な火柱が全体を覆い尽くしたがその熱すら自分は感じなかった。

自分を迎えに来た004が恐ろしいものを見るように自分を見つめていた事にも何の感慨も浮かばない。
最後の敵の首をへし折り、愉悦のように笑っている己を自覚している己がいただけだった。







*****

「フランソワーズは大丈夫だ。」とジェットに言われた時に初めて肩の力が抜けた。
胸の奥にストンとその言葉が落ちてきた。

「そうか。」
と、一言だけいってジョーは彼女の眠る部屋に入る。
点滴のチューブを腕に刺し、青ざめたままのフランソワーズの顔を見るまでの記憶が自分には無いように感じる。

でもそんな事はどうでもいいのだ。

今。
ここに。
フランソワーズがいる。
それが真実。
悪夢のような光景に掠めた最悪の思い。
喪失の恐怖はこれから先どんな事をしても消えてはくれないだろう。
もう一つの真実がジョーの心を直撃していた。

これからはもう・・・

現場に連れて来るとか来ないとか・・
安全な場所にいろとかいないとか・・

そんな事ではなくなった
そういう次元ではなくなった

根本から。
元凶から絶たねばならない
完全に滅さなければ

いつもしているピンクのカチューシャはベッド脇のサイドボードに置かれている。それを一回手にとりおきなおすとカタリと乾いた音が部屋に響いた。
簡素な椅子を引いて人形のように座り込んだ。
白い柔らかい頬にそっと手を当てる。
ほのかに暖かい体温が血の気を失った彼女の命を確かに感じさせた。
この存在がいなければ。
いなくなったら・・。

きっと狂う。
否、もう狂っている・・・


フランソワーズ
君はあの僕を見たらどう思うだろう?
人の形をした
感情を無くしていても確かに僕らと同じサイボーグを
なんの躊躇いも無く殺した僕を
仲間と島の安全も考えずにただ殺意のまま戦った僕を・・

だけど

後悔はしてない
君を一人にして怪我をさせてしまった事に比べたら
こんなの何でもないんだ

以前の自分なら決して思わなかっただろう感情。
サイボーグになってしまった運命を呪った日もあったが、今はそうじゃない
ある意味、BGに感謝する日がくるなんて・・

この力は世界征服でも他の大勢を護るためでもない
君に出会い君を護る為のもの
それこそが僕の運命であり生きるべき道

ジョーはフランソワーズの滑らかな額に唇を寄せた。
ほんの少し触れるだけの軽いものだがそこに込められた思いは慄いてしまうほどに深く重い。
頬に掛かる髪を一房さらりと梳いて俯く。
長い前髪に隠されて目は見えない。

口元が。

彼女に対する真摯な思いと反比例して緩く両端が吊り上がっている。


そう
君を護るには邪魔な奴等は片付けないとね・・・

「君はオレが護るよ・・・」
喉から零れた低い笑い声に連動して除いた瞳の色は。
業火の如く紅く氷の刃のように冷酷な光を宿していた。





End・・・



まず最初にお詫びをもうしあげます、桜さん。
このコラボをするに当たって、話が出てから桜さんが速攻で書き上げてくださったのが、確か一年以上も前・・・・...( = =) トオイメ 
それから羽峰さんと私がイラストを合作するのにかように時間がかかってしまうことになろうとは・・・いや、羽峰さんからジョーの部分の完成イラストをいただいたのだって何ヶ月前・・・・。
非常に遅くなってしまってお二方どうもすみません!
平謝りします(_ _(--;(_ _(--; ペコペコ
もう完成しないのではないかと思うほどでしたが、何とかここにアップできることが出来て涙が出そうです。桜さんの黒村がひじょーーーに93のツボどころを刺激してくれる逸品でスヨねえ。

もしかして島村って切れて何ぼなんじゃあ??

<namako>



私もまずは兎に角お詫びを。
桜さん、遅くなってしまって本当に申し訳ありませんでした。
お話を書いて頂いたのが2003年の10月初旬、
なまこさんとイラストの概要を話し合ったのが2003年の年末(忘年会の席…)
黒村に色を塗ってなまこさんに送り付けたのが2004年の6月。
…本当に一年以上かかってしまいました…すみません…(平謝り)

このコラボの出発点って、実は私の描いた絵日記だったんですよね。
桜さんが入れて下さったツッコミをどんどん絵にしていくうちにコラボの話が持ち上がって…人生何があるか解りませんね。
本当に楽しかったです!
機会があったらまたコラボしましょう〜

<羽峰>



まずは御礼申し上げます。
namako様、羽峰様からコラボのお話を頂いて無我夢中で書き上げて・・。
出来上がったあのような拙いストーリーに素敵なイラストを付けて頂いて感無量です。
正直、時間が経って「何で私、これ書いたんだ?」と今更ながらに首を捻ってます。
読み返して無理がありすぎる設定、進行等、本当に恥ずかしい限りなんですが、お二人の絵のお陰でなんて不思議。自分の作品じゃないみたいじゃないですか!
これぞnamako・羽峰マジック!
有難うございました!

当時、「黒村」なるものに大嵌りで、勢いじゃないとこれ書けませんよ(^^)。
稀有な機会を与えてくださったお二人に大感謝です。

93のツボ・・突いてます?(エヘvv)

<桜 薫>