ジョー&フランソワーズの雪国旅行顛末記











「スマムラさん、あんちゃん、そろそろ起きるべ!!」
障子の向こうで誰かの声がする。
なんだろう???
寝不足でまだよく回らない頭のまま、障子を開けに行こうとしたら、
「ちょっと・・・ジョー!」
そのままの格好でどこに行くの?と言わんばかりのフランの口調に、はっと気づいて大急ぎで脱ぎ捨ててあった寝巻きを羽織って声の方に行った。

「そろそろ、神事に参加するスタク(仕度)すねぇと・・・」
ボクの顔を見てニッと意味ありげに笑うとおばあちゃんは急いで朝食を取りにくるようにと言い置いて行ってしまった。

「神事?ああ、そうだ、今日行われる「神事」とやらに飛び入り参加させてもらうことになってたんだっけ・・・。」そう思いながら、時計を見ると、まだ7時だった。
昨夜最初に寝たのは10時ころだったけど、2度目に寝たのが5時くらいだった筈だから・・・眠いのも当然か・・・などと考えながら、フランにもおばあちゃんの伝言を伝えて二人でソソクサと着替えた。



朝食が済むと、ボクはおばあちゃんに引っ張られるようにして村外れにある神社に行った。
社の隣にある小さな事務所みたいな建物(?)に入ると、20代くらいの男の人ばっかり10数人が集まっていた。おばあちゃんが部屋の一番奥にいる元締(?)らしい雰囲気の人(この人はどう見ても50代半ばくらいに見えた)に、
「このあんちゃんが、ゆんべ連絡スたスマムラさんだべ。よろスく頼むわ・・・。」
とボクを紹介してくれた。

「元締」さんはボクを見るとクマみたいな顔を崩すように、ニっと笑って
「あんちゃんが、タカスの友達のスマムラさんだべか。ま、今日は神事といっても、お祭りみてぇなもんだから、気楽に参加スてくれや。」
と言った。
「向こうの部屋さ行って、これつけて来(こ)・・・。」
と「元締」さんから渡された「モノ」を仕度部屋で広げたボクは、思わず目が点になってしまった。

「ふ・・・・ふんどしぃ〜〜???」
「あれ?おめさん、つけ方わかんねぇべか?んだば、手伝ってやっから・・・」
固まってるボクを見て気の毒に思ったのか、隣で仕度していた人がそう言って手伝いを買って出てくれた。

「おめさんがタカスのとこさ泊まってるあんちゃんだべ。」
「あ・・・ボク、島村ジョーです。」
「おら、吉岡作治ちゅうだ。タカスの従兄になるだ。ココの村はほとんどが親戚同士でナ、しかも、吉岡ちゅう苗字は半分くれェいるだよ。」
後ろ向きになってそそくさとズボンを下ろす自分のカッコを想像して、なんか、ちょっと滑稽だなと思っていたら、作治さんが、身振り手振りでコレから先どうやればイイのかを説明してくれた。

「ここの村じゃ、祭りの時の男の正装はコレって決まってるだで、ここの男はみんな、コレをつけ慣れてるだ。もちろん、myふんどし持ってるヤツも多いだ。ちなみにおめさんが今つけているンは、来客用のだけんどもな・・・。」
「はぁ〜・・・。」
「この神事の優勝者には、ご利益があるちゅうてな、結構いろんなトコから参加者が来るだ。今年はおめさんだけだがな。多い時は参加者の半分が村の外のモンだったべ。」

「しっかしよー、おめさん意外と似合うだなぁ。ココにいりゃぁ、えれぇモテるだぞ。ここじゃ、ハンサムの第一条件がコレが似合う事だでな!あはは、ま、もっとも、今更モテたってもう遅いか・・・。」
ボクの前に回って端の始末を終えた彼はボクを見上げてそう言った。


「ところでよぉ、タカスんとこのばあさまと一緒にいる、すんげぇ別嬪さんがあんちゃんの嫁っこだべ?」
「どこであんな別嬪さんみつけただべ?」
「ほんに羨ましいべ・・・」
作治さんの友達らしい4人がボクを取り囲んで口々にそう言った。
それにしても、こんなところまで、「フラン=ボクの嫁っこ」が浸透しているんだ。この村の情報網には恐れ入る・・・。

「あの・・・。」
ボクはまた、訂正しようと試みた。だけどやっぱり無駄な抵抗だった。
作治さんは、サスガ隆と従兄弟同士だけあって、隆同様、饒舌で押しが強い。それは、この4人にも言えるようで(もしかしたら、彼らも隆の親戚かなんかかもしれない)、ボクは5人もの隆に取り囲まれているような錯覚に陥ってしまった。

そうこうしているうちにボクの仕度は無事に終わった。ちなみに、仕度が終わったのは、やっぱりボクが一番最後だった。
みんなに引きずられる様にして、さっきの部屋に行くと、「元締」さんがボクの顔を見て
「よし、これで、今年の参加者は全部揃っただな。んだば、始めっとすッか・・・」
と言って外に出た。

「元締」さんと、他の人達について外に出ると、村中の人達(おそらく、そうだと思う)がボクらを遠巻きにして見ている。フランがおばあちゃんとお母さんに挟まれるようにして最前列にいるのが見えた。
ボクらは「元締」さんに先導されて、社の前に進んだ。

ココら辺は小さな集落だから、この神社は普段は無人で、お正月やお祭りの時だけ、隣町にある神社の神主さんが「出張」してくるんだと、ココに来る途中におばあちゃんが説明してくれた。
その出張神主さんにお祓いをしてもらった後、直径60センチはあろうかという大きな杯になみなみと注がれたお神酒をそれぞれに飲み干した。

そして、観客(?)が見守る中、一瞬の静寂の後のスタートの合図と共に「神事」が始まった。
「神事と言っても、お祭りみてぇなもんだから・・・」と「元締」さんが言ったとおり(?)ルールは至って簡単で、参道の入り口にある一番大きい鳥居のてっぺんに括り付けてあるお札を取って、それを奉納するというものだった。お札を取って奉納した者には、金一封が出て、さらに副賞(コレが何なのかは、この時点では聞き漏らしてしまったのだが)があるということで、壮絶なお札争奪戦が毎年繰り広げられるそうだ。

事実、走り出した参加者の勢いは大したモノで、最初はまぁ適当に…と思っていたボクも、なんだか俄然ヤル気がでてきてしまって(さっき一気飲みしたお神酒の酔いも回ってきたんだろうけど)、鳥居に到着した頃は最後尾にいたんだけど、気がついたら、鳥居のてっぺんでお札を握りしめていた。それを他の人に取られない様にガードしながら鳥居を滑り降り(?)追い縋ってくる他者をかわしながら、無事に社にまで辿りついた。どうやら、ボクの負けず嫌いな性格に火がついてしまったようだ・・・。

あ、誓って言うけど、ボクは能力(ちから)は絶対に使っていない。万が一にも使ってしまったら、ダントツにブッちぎってゴールして、そして疑われるに決まってる。そんなことは是が非でも避けなければならないし、ボクとしても、こんなことで能力(ちから)を使う気は毛頭ない。せっかくの休暇に、フランと二人で骨休めに来ているんだから・・・ね。

優勝者の表彰が終わって宴会が始まると、フランも呼ばれてやって来た。気が付いてよく見てみると、フランと一緒に入ってきた数人の女性はどうやら、それぞれ参加者の奥さん達らしい・・・。

それを知ったボクは、ふと、
「おめさんも、参加資格があるだしなぁ・・・」
そう言った時の隆のお母さんの意味不明の微笑みに思い当たって隣の人に尋ねたら、予想は大当たりだった。
この「神事」の参加者は全員、昨年結婚したこの村の人達(村の外に移って行った人も含まれているらしいが)だったんだ。そして、「神事」の優勝者には金一封と、副賞としてこの神社の神様のご加護があるという(?!)

「隆のやつめ・・・。」
だから、おばあちゃんはフランのことをボクの「嫁ッコ」だなんて言ったんだろうし、お母さんは「この神事に参加資格がある」って言ったんだ。
そんなことで地団太を踏んだって、もう遅い。仕方ないので(だって、ここで「実はボク達は結婚していないんです!」なんて、発表するわけにも行かないだろう?)ボクは宴会に快く参加させてもらうことにした。

実際、この宴会はすこぶる居心地がよかった。ボクがいわゆるハーフで、フランがフランス人で・・・なんてコトも全く気にしていない。昔からの知り合いみたいに温かく接してくれる。
ボクがレーサーであると知っても、その態度は全然変わらなかった。

宴会は大した盛り上がり方で、ボクなんか、仕度を手伝ってくれた作治さんや、あの時話しかけてきた、雄治さん、啓吾さん、宗治さん、真二さん(あ、この4人もやっぱり隆の親戚だそうで苗字はやっぱり吉岡だったりする)の5人と一緒になって踊り出す羽目になってしまった。ボクはすっかり酔っ払ってしまっていて、はっきりとは覚えていないんだけど、マイクに見たてた箸を握りしめて、何曲か歌いながら踊りまくっていたような記憶がある・・・。ちなみに、踊りのお陰でこの後ボクはカンペキに酔いが回ってしまって、1時間ぐらいぶっ倒れて眠りこけていた。

そうそう、宴会中に聞いたんだけど、この5人に隆を加えた6人は、子供の頃はちょっぴり有名なワルガキだったそうで、神社の社の屋根を踏み抜いたり、ヨソの家の柿の実を失敬したりとその悪行は枚挙に暇がないくらいだったそうだ。でも、それを話してくれる、本人達や周りの人達の顔がいかにも懐かしそうにしてるのが、ボクには印象的だった。 


宴会が終わって、夕方近くになって帰って来たボクらを、おばあちゃんとおかあさんの笑顔と、みかん箱くらいの大きさの熨斗(のし)のかかった荷物が待っていた。
「まんず、すごかったべな〜。やっぱり、おらの言ったとおり、あんちゃんが優勝したべ」
おばあちゃんはそう言って自慢げにフランに目配せをした。
するとフランは
「ええ、本当に、おばあちゃんの予想が当りましたね。」
ニコニコしながらおばあちゃんに同意していた。
ボクとしては、ただ苦笑するしかなかったけれども・・・。

「んで、コレが、優勝者への副賞だべ。後で使い方を教えてやるでな・・・」
おばあちゃんは、みかん箱(?)を軽く叩きながら、また意味不明の笑みを浮かべた。
「?????」

夕食が終わって部屋に引き上げてからしばらくすると、おばあちゃんがさっきの箱を抱えてやってきた。
「コレの使い方っちゅうか、お祀りの仕方を教えてやろうと思ってな。」
と言いながらおばあちゃんが箱から取り出したソレを見て、ボクらは、固まってしまった。
箱から取り出されたソレは、どう見ても、男性の象徴と女性の象徴の形をした物体だったからだ・・・。(しかも、結構大きい・・・)
ボクラの様子を気にも留めずに、おばあちゃんはソレをボクらの前に置くと、こう言った。

「村の鎮守さまのもうひとつのご神体でな、コレを寝室の枕元に置いておくと、家内安全・夫婦円満・子孫繁栄のご利益があるだ。毎年優勝したモンのほとんどは、これが貸し出されている一年の間に子を授かっとる。
ちなみに、オラほの温泉は「子宝の湯」とも言われておってな、オラも毎晩じいさまと二人で入っとったお陰で、10人の子に恵まれただ。」
「・・・・・・・・」

「ま、あんちゃんなら、ご神体や温泉の力なんぞ借りんでも、たくさんの子宝に恵まれそうじゃがの・・・」
と言ってフランをチラッと見ておばあちゃんは含み笑いをした・・・。
「///////////」
「え?」と思ってフランのほうを見ると、彼女ののど元には、昨夜の、というか、今朝方の名残の赤い花びらが・・・・。

「まぁ、若いってコトはいいもんじゃのう・・・・。
んだば、ご利益の発動を邪魔したらバチが当たるかもしれんでな・・・」
そう言うと、おばあちゃんはそそくさと部屋を出て行ってしまった。
「あ・・・あの・・・あばあちゃん・・・」
呼びとめるボクの声も聞こえぬフリ(?)で、おばあちゃんは行ってしまった。
どうも気まずい・・・・そんな空気がこの部屋に澱み始めたような気がしてきた・・・。

「ととと・・・・とりあえず、する事もないし、お風呂でも入ろうか・・・。」
とてつもなく高い、上擦ったボクの声が聞こえる。
「そ・・・・そうね・・・。寝るにもまだ早いし・・・。」
これまた、とてつもなく高い、上擦ったフランの声が答える。
今夜は長くなりそうだな・・・。





「スマムラさん・・・スマムラさん・・・。」
う・・・ん・・・・・・。誰だろう・・・。こんな朝早くに・・・。
「スマムラさん、早く起きねば、列車さ間に合わなぐなるべ!」
列車・・・間に合わない・・・
「!!!」
今の一言で、ボクは完全に目が覚めた。
「はい!すぐ仕度します!」
起こしに来てくれた、おばあちゃんには障子越しにそう言って、ボクは上半身を起こした。

「フラン、フラン・・・起きて!」
ボクのすぐ隣でまだ眠っているフランを懸命に起こす。いつもはとっても寝起きのよい彼女だけど、やっぱり疲れているらしくって、なかなか目を覚まさない。

「フラン!」
「うん・・・ジョー・・・もう、ダメよ、私・・・寝かせて。」
ったく、そうじゃなくって!
「フラン、もう起きないと帰りの列車に間に合わなくなるよ!」
「!!!」
ボクの一言で、目が覚めたフランはガバッと飛び起きる。起きたはいいんだけど、そのままのカッコで寝ていたものだから、ボクは目のやり場に困ってしまう。
「あの・・・フラン・・・」

「え?
あ゛・・・ジョーのエッチ!!あっち向いてて!」
「あ・・・ごめん。」
って、なんでボクが謝んなきゃなんないんだよ・・・。一瞬ムっとしたけど、今はそんなコトを言っている場合じゃない。なるべくフランの方を見ないように気を付けながら、ボクも急いで着替え始めた。
モノの5分もしないうちに身支度を整え、荷物をまとめ、部屋の中をザッと片付けて、ボク達は母屋のほうに向かった。
フランなんかメイクまで済ませているんだから、その手際のよさには感心してしまう。

母屋の食事をした時の部屋に着くと、隆のお母さんが
「もうちぃっと早くに起こしてやればえがったんだけんども、もう、食事をする時間もねぇモンで朝食は弁当こしらえてあっから。コレ持ってってくんなせ。」
と言って、結構大きな包みを渡してくれた。
「ああ、それがら、例の副賞の方は後がら、事務所の方に送ってやっから、心配すんなよ。せっかく優勝すたんだから、しっかりとご利益にあずかるべ。」
そう言うと、おばあちゃんはまた意味ありげにニっと笑った。

「あの・・・そのことなんですけど・・・」
「さぁさ、馬を待たせてあるで、行ぐべ。列車に間に合わねぐなってすまうだよ。」
また訂正の機会を失ってしまった。
「スマムラさん、また遊びに来てくんなせ。今度はお子(ご)さんもご一緒に、ね?」
お母さんにまでそう言われてしまって、ボクはただ
「はぁ・・・ありがとうございます。」
としか言えなかった。
フランはと言うと、
「またゼヒ来させていただきますわ。」
ニコニコと微笑んでそんなコトを言ったりしている。ナニを言われているかわかっているんだろうか?

おばあちゃんに無理矢理に詰め込まれるようにして、馬車に乗り込むと、
「はいよ〜」
と馬に一鞭くれて、馬車は動き出した。
家の前で手を振るお母さんに
「お世話になりました!」
と手を振り返し、ふと隣を見ると、フランも同じように手を振っていた、目にうっすらと涙を浮かべて・・・。

お母さんの姿が見えなくなるとフランは
「楽しかったわ〜。」
そう、しみじみと言った。
「だって、私には初めての事がいっぱいあったし、それに、あんなに大勢の女の人とオシャベリしたのも久しぶりだったし・・・。ほら、研究所だと、女の人はいないでしょ・・・。」

そうだろうな・・・。仲間とは言え、年齢も国籍も違う、9人もの男に囲まれて、女の子は彼女一人っきり。ボクなんかが気づかないところで気苦労してるんだろうなぁ〜。

「またココに来たいって言ったら、どうする?」
「え?いいよ、ボクも楽しかったし・・・。」
と答えてしまってから、ボクはある事を思い出した。
「でもさ、フラン。ボクらはココでは夫婦っていうことになっちゃってるんだよ・・・。」
ボクは前にいるおばあちゃんに聞こえないように、声を少し小さくして言った。
「いいじゃない。それとも、私と夫婦と思われるのはイヤ?」
「そ、そ・・・そんなコトあるわけないじゃないか・・・/////。ただ・・・。」
「ただ?」
「みんなを騙しちゃったような形になっちゃって・・・それで・・・心苦しくってさ。」

「うふふ・・・」
なぜかフランは楽しげに笑った。
?????
「なんで笑うの?」
「だって・・・。
みんな、知ってたわよ。私達が本当は夫婦じゃないってコト・・・。」
「え゛!?」

「悪(わ)りぃねぇ・・・スマムラさん。」
そう言っておばあちゃんが振向いてニッと笑った。
「おばあちゃん!」
「わし、コノ年んなっても、なぜか耳がイイだよ。で、あんちゃん達(たツ)の話(はなス)、みぃんな聞こえちまっただよ。あ、盗み聞きするつもりはちぃっともなかっただけんどもよ〜。」

おばあちゃんの話によると、隆は電話でボクらのことをちゃんと(!)説明していたらしい。もっとも、ボクの目の前で電話したあの日の夜、自宅に帰ってからの事らしいが・・・。
さらにびっくりした事に、ボクが気になっていた、「神事」の事・・・。アレの「参加資格」は、前の年に結婚した者だけではなかったんだ。

「スマムラさん、そったらコトを気にスてただか・・・。」
そう言っておばあちゃんはまた、ものすごい勢いで笑った。
「あんちゃんと、フランちゃんみたいなカップルも、参加資格はあるだよ。むしろ、そういうカップルにこそ、ココの神様のご利益があるダヨ。」


60年くらい前の春、双方の両親に結婚を反対されたカップルが、駆け落ち状態でこの村に流れてきて住みついた。そして、その年のアノ神事に参加したところ優勝してしてしまった。で、副賞として例のご神体を貸し出されるにあたって、謂れを聞かされたこの二人は、「正式な夫婦ではないので・・・。」と辞退を申し出たのだが、「たとえ籍は入っていなくても、あんた達はもう、立派な夫婦なんだ.。それは村中の誰もが認めてる。だから・・・」と、申し出は却下された。その後、二人は両親からも許され法律上でも晴れて夫婦となり、5人の子宝に恵まれた(やっぱり、そうなるか・・・)と言う・・・。
ソレ以来、この神社は「縁結び」の神様としても、結構有名なのだそうだ・・・。
ボクはこの時になって、初めて隆の本当の気持ちがわかったような気がした。

「だから、あんちゃんも、フランちゃんも、なぁんにも気に病むこたぁねぇで、また遊びに来てくんなせ。おら達(たツ)にも、ご利益の行く末を見守る義務ちゅうもんがあるだでなぁ・・・あははは!」
「「・・・おばあちゃん/////」」
「なんにしてもよ、おらにゃ、孫は30人近く居るだが、なぁぜか、みんな男でな。フランちゃんが遊びに来てくれたら、こぉんな嬉しい事はねぇでよ・・・。孫娘ができたみてぇなもんだでなぁ〜。」

そんな話をしている間に駅に着いてしまった。
「あと1,2分もすれば列車が着くでな、急いで行きなされ」 
おばあちゃんに追いたてられるようにして向かい側にあるホームに渡ると改札口のところには、おばあちゃんが立っていた。
そこへ列車が滑り込んできた。

「半自動ドア」と書いてあるドアを開けて車両に乗りこみ、おばあちゃんがいる方の座席に荷物を置き窓を開けた。寒い風がサーッと車両の中に入ってくる。

「おばあちゃーん、また遊びに来させてください!」
ボクが大声で叫ぶと、
「ああ・・・待っとるでよ〜!今度は3人で来てくんなせよ〜!」
「「おばあちゃん/////」」
ボクらが席に着くと列車はほどなく発車したから、周りの人たちにはおばあちゃんの声は聞き取れなかったと思う、ボクらにはしっかりと聞こえてしまったけど・・・。
ホームに入って来て手を振っているおばあちゃんの姿が豆粒ほどになって、やがて見えなくなった・・・。
おばあちゃんはきっと、曲がった腰が伸びるほどのあの勢いで笑っているに違いない。その姿が目に見えるようだ。

ふぅ〜と溜め息をつくと、ボクらは座席に腰を下ろした。
「いよいよ、帰るのね?」
「うん・・・。残念?」
「ううん・・・。旅行はもちろん楽しかったけど、でも、帰る所があるっていう事は嬉しいわ。」
「そうだね。」
「みんな待ってるかしらね。」
みんなガンクビ揃えてフランの帰りを待っているんだろうな。3日もフランを独占しちゃったから、きっと、帰ったら酔い潰されたりするんだろうな・・・そんなコトを考えていたら、ちょっとばっかり憂鬱になってしまった。
「ねぇ?どうしたの?そんな顔をして・・・。」
「いや・・・なんでもないよ。」

「あ、そうだ、お土産買ってなかったね。」
フランがあんまり心配そうな顔をするもんだから、ボクはなんとか彼女の気を逸らそうと話題を変えた。
「仕方ないわよ。駅前にお店なんかなかったし、もしあったとしても買ってる時間がなかったし・・・。
でも、買わずに帰ると、ジェット辺りがうるさそうだから、新幹線の車内ででも、買って帰りましょう。
あ、そうそう、隆さんにもね。」
「そうだね、隆には本当に世話になったから・・・。」

「そういえば・・・」
ボクはある疑問を思い出した。
「ねぇフラン、キミ、おばあちゃんの言葉よくわかった?」
「え?」
フランにとっては思いがけない質問だったんだと思う。でも・・・。

「うふふ・・・。
そりゃ、最初の頃はあんまりよくわからなかったわよ。ジョーだってそうじゃなかった?」
「うん・・・。でも、じきに慣れたよ、ここのコトバ。」
「私、最初の時、あんまりわからないんで思わず自動翻訳機のスイッチ入れちゃったの。でも、それでもわからなくって・・・。」
そりゃ、そうだろうな。日本語であって日本語でないような状態だっただろう、きっと。フランにとっても、翻訳機にとっても・・・。

「でもねぇ、翻訳機にも学習機能ってあるの、知ってた?」
「え???」
そんなの、ボクは知らない・・・。
「何時の間にか、翻訳機がちゃんと機能するようになってて、そのうちに翻訳機なしでもわかるようになっちゃった。2日目の朝にはもう、スイッチは切ってあったわよ。」
なんという適応能力だろう!
でも、そうでなければ、自分が生まれ育ったのと全く違う環境で暮らすのは、とても大変なことだと思う。
ひょんなことで、彼女の人間としての逞しさを垣間見てしまったような気がした。
そして、そんな彼女がたまらなく愛しく思えた。

そういえば・・・。
「また遊びに来てくんなせ。今度はお子(ご)さんもご一緒に、ね?」
そう、隆のお母さんが言った時も、
「今度は3人で来てくんなせよ〜!」
と、おばあちゃんが叫んだ時も、彼女は、決して否定はしなかった。微笑んでさえいた。ボクは、なんとか、訂正しようと思っていたのに。だって、ボクの将来に対しての希望(夢?)はフランに話してさえいなかったから・・・

今までボクは、きっとフランはおばあちゃんやお母さんの言葉の意味がよくわかっていないんだろうな、くらいにしか思っていなかった。
でも、フランは翻訳機を作動させなくても、彼女達の言葉を理解できるようになっていたと言う。
ということは・・・もしかして・・・?

「何をグズグズやってんだよ。彼女が好きなんだろう?だったら、さっさと一緒になっちまえ!」
ふと、隆のそう言っている声が聞こえたような気がした。
ありがとう、隆。余計なこととも、大きなお世話とも思わないし、まぁ、正直に言ってしまうと隆の気持ちはありがたかった。いや、とっても嬉しかったんだけど、ただ、ちょっとだけびっくりしたよ。心臓に悪かったよ、いくら人工心臓とは言え・・・ね。
きっと、いつか・・・いつか、きっと・・・。

それにしても、あの副賞・・・。どうしよう???
隆やおばあちゃん、村の人達の気持ちはとっても嬉しかったんだけど・・・。
正直言って、アレだけは困っちゃうよなぁ。
はぁ〜〜(溜め息)。






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旅行から戻って3日目に事務所から「荷物が届いているから取りに来い」という電話が入った。
ああ、アレだなと思いつつ重い足を引き摺りながら事務所に行った。
思った通りに、隆のおばあちゃんからの荷物だった。

研究所のボクの部屋で荷物を開けて、取り敢えず、例のご神体をボクのベッドの枕もとにある棚の上にお祀りして、少しの間拝んだ後に、白い布をかけた。
旅行から帰って、隆に相談したらこの方法を教えてくれたんだ。これならご神体に対して失礼にもならないし・・・というのだった。

それから、ご神体と一緒に入っていたビデオを一人で見た。本当はフランを呼ぶべきかなとも思ったんだけど、どんなビデオなのかわからなかったので、取り敢えず、ボク一人で下見することにしたんだ。
それに・・・フランは買い物に行っていたし・・・。

再生ボタンを押すと、映っていたのは、あの時にすっかり息投合してしまった、作治さんと雄治さん、啓吾さん、宗治さん、真二さんの5人だった。

「よう、ジョー、元気にやってるか!」
作治さんの声を聞いた途端、あの村に戻ったような気がした。
「タカスんとこのばあさまが、ご神体をおめのとこサ送るちゅうから、便乗させてもらっただ。
実はヨ、あの神事と宴会をビデオに撮ってたヤツが居ってな。見せてもらったら、おめがあんまりよぉっく映ってたもんだから、ダビングさせてもらっただよ。それが、このビデオなわけだけんどもよ・・・。」

神事はともかく、宴会と聞いて、ボクはすこぶるイヤ〜な予感がした・・・。

まず、神主さんのお祓いから始まって、神事の様子が映っている。なるほど、ボクがコレでもかというくらいに頻繁に映ってる。
その後、ボクがお札を握り締めてゴールした瞬間、そして表彰式が続く。
それに続く宴会・・・。

クマのような「元締」さんの挨拶、村長さんの乾杯の音頭。・・・よくある宴会の風景だ。
そして、みんなが飲んだり食べたりしている絵・・・。
フランが周りの女の人達と談笑している風景もあった。
話題は何なのかさっぱりわからないけど、でも、本当に楽しそうだ。

そのうちに誰かが
「おい、作治!いつものアレいけや!!!」
と叫ぶ。
すると、作治さんを始めモト悪ガキ5人組が
「おう!」
と言う掛け声とともに立ち上がった。そして、側にいたボクまで引っ張り出されて・・・。

その後は目を覆いたくなるような光景が続いた。
うっすらとは記憶に残っていたんだけど、その記憶が映像となって目の前で繰り広げられている!
その忌まわしい(?)記憶は、「モーニ○グ娘。」のメドレーや、「安来節(つまり、どじょうすくい。ほっかむりをしてザルを持って、ガニマタでヒョコヒョコと歩く、アレ!)」、だったりした・・・。それも、それをあの村のお祭りの時の「男の正装」でやっている・・・。
できることならば、忘却の彼方へと、追いやっておきたかった・・・。

さっさとビデオを切っちゃえばいいようなものなのに、ボクは放心状態でただ眺めていた。
というか、映像がボクの目の前で流れ去って行く・・・。
そんな状態でいる最中にいきなりドアが開いて、こういう時に一番聞きたくない声が聞こえてしまった。
その声の主は、そう言う時にボクの前によく現れるんだ・・・。どうやら、ボクのそういう状況を嗅ぎつける才能が彼にはあるらしい。

「ジョーいるか?あの本貸してく・・れ・・・」
ジェットの言葉が途切れたのは言うまでもない、ボクが眺めているビデオに気づいたんだ。
一瞬呆然としていたけど、次の瞬間、大声で笑い転げて、ついでにあろうことか、みんなを呼んでしまった!!
当然、みんなはドヤドヤとやってきて、ご丁寧にソレを巻き戻して再生する・・・。
そして、これまた当然、笑いの洪水状態になった。

ボクは、この時フランが買い物に行っていて留守だった事を神様に感謝した。
そして、みんながベッドの枕元にあるアノご神体に気づかなかった事でも神様に感謝した・・・。
























<管理人より>

サイト一周年記念にと、MIYUさんから頂きました。
ジョーとフランの俗称「温泉ブツ」(笑)。 
この作品はMIYUさんがまさに書かれている間、温泉のシーンだけ密かに見せてもらっていたのでした。
も〜〜妄想が・・・妄想が・・・っ!!!
なのにMIYUさん!!! 二人のいちゃコラシーンはあの痕だけですか〜〜???
逆に色んな妄想が掻き立てられる描写には参ってしまいました。これでは蛇の生殺し〜〜〜!!!
夜中に起きて朝方に寝るなんて・・・何してたんだコラ!詳しく聞かせなさい!!

てことでMIYUさん・・・この辺の裏話なども・・・お待ちしております<鬼?


仕事から帰ってきたヘロヘロな私を、MIYUさんからの一通のメールが・・・。迎えてくれたこの大作のSSには感動しました。MIYUさんありがとうございました。
最後のオチには腹抱えて笑わせてもらいましたよ。・・・映像で是非見たいものだ(笑)
ジョーを酔っ払わせると楽しそうですねぇ〜〜。




2004-03-23