お気に入りの床屋


皆さんは散髪する店を決めているだろうか?
俺がいつも利用する床屋は、店の規模はお世辞にも大きいとは言えないのだが、店主の腕の確かさと人柄の良さにゾッコン惚れていて、正直他の店に行く気にはまったくなれない。3年半ほど前、仕事の都合でこの地で生活するようになって以来のおつき合いだ。その当時はまだ会社には集合寮というものがあり、その寮の仲間に教えてもらって最初に行ったのがこの床屋との馴れ初めである。
紹介してくれた人は、床屋の主人に言わせると半年に1回ほどの頻度でしか髪を切りに来なかったそうなのであるが、俺はこんな素敵な床屋を紹介してくれたそいつに感謝している。来たばかりで勝手の知らない土地で何をするにも不安だった頃に、俺にとびきりの安らぎの場所が与えられたのである。
俺にとってはたかが月に1度のおつき合いなのだが、髪を切ってもらうという行為そのもの以上に、この床屋との関係は深い気がしている。と言うのも、何故だかこの店主とは波長が合うのだ。毎回プライベートな話までしてしまう自分に正直自分で驚くくらいに居心地が良いのだ。
駅前によくあるような、安さと早さだけを売りにしたような床屋にも行ったことはあるのだが、まるで違う業種のように感じられる。髪を切るという行為は、少なくとも切ってもらっている間の時間は自分の体を相手に預けることになるのだが、その時に体だけではなく、気持ちを含めたすべてを相手に預けられるという安心感が俺の求める方向に合っているのだと思う。

俺は転勤族なので、いつかはこの床屋との別れの時が来るのかと考えると、なんだか妙に切ない気持ちになってしまう。
自分に置き換えてみて、果たして俺は誰かをそういう気持ちにさせられるだけの器を持っているのか?努力してそれは身につけられるものなのか?などとも考えてしまう。

2004.2.28.




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