私用電話


以前、職場に頻繁に特定の相手から電話がかかって来た事があった。
パートで働いていた女性のKさん宛に、である。

そりゃもう毎日毎日しつこくかかってきた。
Kさんはおどおどしたような口調で、
「はぁ・・・、はい。もう少し待って下さい。・・・・いえ、必ず・・・」
などといった感じで応答を繰り返すばかりであった。

誰の目から見ても明らかなその電話は、借金取りからの催促の電話であった。
Kさん本人なのか、家族の誰かがサラ金か何かで借金を作ったのであろう。
職場に毎日そんな電話をかけてこられたんじゃ、Kさんも立場が無い。
その後、すぐにKさんはパートの仕事を辞めて、去ってしまった。

何年も経ってからの今、思い出されるのはその時の職場責任者のセリフである。
「Kさん、私用電話は困るんだけどねぇ。」

何人もの他のパートさんが働く職場である。
その人たちの前での、そのセリフはKさんにはどのように聞こえたのであろうか。
どんな理由であれ、Kさんは困っていたのである。
なぜ追い打ちをかけるような、そんな言葉しか出てこなかったのであろうか。
職場にそんな電話が毎日頻繁にかかって来て、責任者として迷惑を感じていたのは判らないでもない。
そういう時にそういうセリフを言う事が、責任者なのであろうか。

借りた金の工面の手助けを、とかじゃない。
同じ職場で、仲間として働く者の、心の支えになってやれなかったものだろうか。

思い出すと、少し胸が痛む気がする。
俺はその時は責任者としてではなく、下っ端ではあったがそこにいたのである。

その時の責任者は、今は出世してだいぶ偉い役職の下で働いている。

2001.10.5.




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