stand by me


寮生活をしていたことがある。
その独身寮では世代的に同世代のやつらが一緒に集まって生活していた。
職場で毎日顔をつきあわせているのだから、プライベートな時間くらいは職場と関係ない人と一緒に過ごしたいとか、それ以前はそんな事を考えたりした時もあったのだが、その寮で過ごす仲間達は気の合うやつらが多く、毎日が楽しいものだった。
寮とは言っても普通のアパートを会社が借り切って寮として使っているだけのもので、3LDKの部屋に3人ずつ、全部で8戸分が寮として使われていた。
1人につき6畳の部屋が1部屋ずつ割り当てられているのだが、普通のアパートという構造上ふすまを開けたら隣の人の生活する部屋だったりして、隣の部屋の人といかに仲良く出来るかで、その寮生活の快適度は大きく変わるという仕組みとなっていた。
俺の隣の部屋の人は、俺よりも少しばかり年上の先輩だったのだが、酒癖が悪く毎日外で飲んで酔っぱらって帰って来てはからんで来るという、やっかいな人物だった。その上ものぐさで常にテレビや照明はつけっぱなしだし、煙草の吸い殻の処理はきちんとしないとか、俺の買い置きの煙草を勝手に吸ってるとか、どちらかというと几帳面な性格の俺としてはまともにつきあう気が起きない相手だった。
自然と俺は自分の部屋にいる時間が短くなるようになった。同じ寮の中でも気が合うやつの部屋に入り浸るようになったのである。たまり場になる場所というものはあるもので、そいつの部屋はいつしか気の合うやつらが自然と集まるたまり場となっていった。毎日のように一緒にテレビゲームをしたり、酒を飲んだり、お互いの恋の話を冷やかしあったりもした。
そんなある日、バンド経験のあるというやつがアコースティックギターで弾き語りをした。楽譜も見ずにギターをかき鳴らして英語の詞を歌う彼は、俺とタメ年だったが、少し大人に見えたような気がする。その時の彼はとても輝いて見えた。俺が女だったらマジで惚れていたかもしれない。

stand by me

日本語だと「そばにいてくれ」くらいの意味になるのだろうか。「味方してくれ」だなんて直訳すると格好悪いよね。

俺がその寮を出てからもう何年も経つ。転勤が比較的多いという仕事柄、その時一緒に生活したやつらも転勤を繰り返して、あちこちに散らばっていった。
ギターを弾いていたあいつは会社を辞めたと聞いた。
今ごろあいつはどうしているだろうか。

2000.2.9.




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