疑ってごめん


会社の駐車場に車を停めておいたら、何者かによって傷をつけられてしまった。
助手席側のドアに30センチくらいにわたって、こすったような傷と、さらに少しばかりへこみも出来ている。
それを発見した時はかなりショックだった。傷ぐらい長いこと車に乗ってりゃあちこちにつくだろうし、激しく壊れてしまったわけでもないのでそんなに目くじらを立てて怒ったり気にしたりすることはないのかもしれない。しかし自分で付けてしまった傷ならあきらめもつくのかもしれないが、自分の見ていない所で知らない間にやられてしまったというのが非常にショックだった。

普段はたたまないドアミラーがたたまれたように角度が変わっていたこと、すり傷の上に白い塗料らしきものが付着していたこと、傷の具合から見て、白い色の車がこすったことは明らかである。
社員駐車場とは言っても、一般の駐車場の一角を会社が借りているだけなので、不特定多数の人が出入りする場所だ。それに車を止める場所は厳密には決められていないので、隣の場所に車を止める人が決まっているわけでもなく、犯人探しは難しいだろうということが想像出来た。

いろんな人にそれとなく聞き込み調査をしながら、独自に調査を始めた所、その当日に俺の隣に車を停めていた人物を特定することができた。しかもその車の塗装は白!ということで俺はその人が犯人だと心の中で決めつけた。
修理のこと云々よりも、文句の一言でも言ってやらねば気が済まなかったのだ。俺の中では彼が犯人だと決まってしまい、彼に対する憎悪の念がメラメラと激しくわいて来てどういう風に文句を言ってやろうかとそればかり考えるようになっていた。
よし文句を言いに行ってやろうと思ったのだが、文句を言う前に相手の車を実際に自分の目で見ておく必要があると考え、事件の翌日の昼休みに明るい光の中で相手の車を見に行った。
しかし予想に反して、彼はシロだった。俺の車の色は黒なので、当然相手側にはこすった時の傷と俺の車の黒い塗装が付着しているものと思っていたのだが、黒い塗装どころかすり傷の1つも見つけられなかった。しかも洗車してごまかした跡も見受けられず、それに傷の付いている高さと彼の車の形状とはまったく一致しなかった。完全に彼はシロだった。
一瞬でも彼を疑ってしまったことに俺はひどくみじめな気分になった。彼に対してはこの件に関しては文句の一言どころか、まだ何も話していない。犯人であると思われる相手に対して聞き込みをするのは最後にしようと、まわりから聞き込みをしていったからだ。彼は俺が疑っていたことを知らないはずだが、それにしても申し訳ないと思った。なんかもう犯人探しなんかどうでもよくなっちゃったような感じ。気が抜けてしまったよ。

彼は事件当日は非番だったのだが、午前中だけ会社に来ていたみたいだった。きっとそれ以降に会社とは関係のない車がやったのだろう。
会社関係の白い色の車は全部調べたのたが、疑わしい車は1台もなかった。

結局、泣き寝入りという事になりそうだ。
それよりも大切な人間関係を自らの手で破壊しなくて良かったと、心の底からほっとしている。人を疑いの目で見るのは本当によくないよね。いい勉強をさせてもらったよ。




HOME 伝言板