俺は6歳になるまで、大きな川のそばに建つ団地に住んでいた。
ここに綴るのは、その当時の記憶の話である。
その日は台風が近づいていた。
激しい風と横殴りの雨の中、幼い俺は外にいてその風景を見ていた。
降り続く雨のために川の水量が危険な状態まで増していた。
堤防の決壊に備えるためだろう、
大人達は土嚢(どのう)と呼ばれる、砂の入った白い袋をいくつも積み重ねていた。
いくつもいくつも、団地の入り口付近に白い袋は積み上げられていった。
大勢の大人達が緊迫した雰囲気で一生懸命に動いていた。
強い風は休むことなくずっと吹き続けていた。
いろんな物を吹き飛ばし、細かいゴミのようなものが空を舞って飛んでいた。
風はうなるような音を立てていた。
音と言うよりは、気味の悪い声のようだった。
強く強く吹き続ける風。
低くて恐ろしい声を張り上げながら風はひたすら吹き続けていた。
幼い子供心にも、普通ではないことが理解出来ていた。
大人達の緊張感が伝わったのか、それとも本能で危険を感じていたのだろうか。
かなり切羽詰まった状況であったようだ。
恐怖の中、俺の心にはそれ以外の気持ちがあった。
ドキドキする気持ちはなぜだか楽しいものをも含んでいたのだ。
こういう状況下ではしゃいだりしてはいけないことは理解出来ていた。
しかし、妙に楽しかったのだ。
恐い気持ちと楽しい気持ちが同時に俺の心にはあった。
強い風と、この不思議な気持ち。
かなり幼い頃の体験ではあるが、非常に鮮明な記憶だ。
心の底から恐がったり楽しんだりすること、
大人となってしまった今となってはまず無いことだね。
あの時の強烈な感情が今でも忘れられずに俺の心に刻まれている。
強い風というキーワードとともに。
・・・
「風の記憶」
ここに綴る各種の雑文や日記みたいな物を、
このキーワードをもって綴っていきたい。
1998.8.11
2013.5.26. (加筆修正)
風の記憶の色分け > ルール説明 (2013.4.21.)