はじめてのタバコ


俺はタバコを吸う。

タバコを吸うという習慣を身に付けたのは、大学に行くようになって最初の夏からだったと記憶しているから19才になってからだ。
調べたわけではないが、多分これは遅い方ではないかと思う。それまでにタバコを吸ったことがないわけではない。高校時代に悪友の家に友達同士で集まって泊まった時にふざけて吸ったのが最初だった。確かそれは17才の時だった。しかしその時はこんなまずいものを吸うやつの気が知れないと思ったのが正直な感想で、喫煙を習慣とするまでには至らなかった。
この時、タバコの火の着け方を知らなくて友達に馬鹿にされた。タバコを吸う人間なら判るだろうが、火を着けるにはタバコを口にくわえて息を吸い込みながら火を近づけなくてはならない。俺はその時タバコを手に持ったまま、まるで花火をするような感じで火を着けようとしていたのだ。もちろんこれではタバコに火は着かない。タバコを吸ったことがないという事が友達に知られた事が恥ずかしかった。別に恥じる事などないのにね。

家族の中にタバコを吸う人間がいなかったということと、父親が厳しい人間であり、俺も親の目を気にしていたという事がこの年齢までタバコに興味を示さなかった理由だろう。
大学に行くようになって、親許を離れて一人暮らしをするようになり、自然と俺はタバコを吸うようになっていた。
タバコを吸うという行為に対して「かっこいい」という誤った幻想を抱いていたのかもしれない。映画の主人公がタバコを吸うシーンを見てかっこいいと思った事があるのは事実だし、タバコを吸っている友達はなぜだか俺の目には大人っぽく映った。
大学では学生の9割以上は喫煙者ではないかと思えるほど、ほとんど皆がタバコを吸っていた。実際には喫煙する学生は9割もいなかったのだろうが、まだ喫煙習慣のない俺にとっては衝撃だった。学内のあらゆる所であらゆる人間が喫煙している光景を見て、俺は「これが大学というものか」などと変な感想を持った。

初めて友達が俺の部屋に来た時、灰皿が無いのに驚いていた。灰皿の代用になりそうな物も見つからず、その友達はトイレでタバコを吸っていた。
次に彼が俺の部屋に遊びに来た時、彼は灰皿をわざわざ持って来た。彼はその灰皿を俺の部屋に置いていった。
最初はその灰皿は彼が俺の部屋に遊びに来た時にだけ使われる物であったのだが、いつしか彼が遊びに来ない時でも、俺が自分で使うようになっていた。

あれから、ちょっとした時間が流れた。

タバコを吸う事がかっこいいとは思わなくなった。
タバコなんていつでもやめられると思っていたのだが、多分やめられないであろうと思う考えの方が強くなった。
「タバコをやめようなんて考えた事もないよ」なんて人前では言うけど、心の奥底では「やめた方がいいのかな」なんて考えてる。

タバコを吸っている数分間は幸せを感じてる。
タバコを吸うと気分も落ち着いてリラックス出来る。
タバコを吸うと頭が冴えてイイ感じになれる。

・・・気がするだけなんだよね、多分。

一日につき、約240円という法律で認められた嗜好品。
旨いんだなぁ、これが。




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