ドライブ


ちょっとイヤなことがあった日とか、理由もなくすっごく憂鬱な時、そして悩みごとで頭がいっぱいで、自分で自分の気持ちをどうにも出来ない状態の時、俺は現実逃避をする。

 深夜のドライブ。

深夜の時間帯というのは、昼間とはうって変わって交通量が非常に少ない。そんな道をただひたすら車を操って駆け抜ける。
たいていはお気に入りの音楽をボリュームをあげて流しながら。しかし走り込んでいくうちに音楽が流れていることすら忘れてしまうようになる。
車を運転するということはとても気持ちのイイ行為だ。アクセルを踏めばスピードが上がるし、ハンドルを切ればその方向へと車の進行方向も変わる。すべての行為は車の動きに反映されるのだ。俺の意のままに忠実に従う車は、"意"を乗せて走り続ける。

俺はスピードを出して走るのは好きだが、暴走行為は嫌いだ。無理な追い越し、車間距離を詰めて走るベタ付きなど他人に迷惑をかけるような行為は嫌いなのだ。信号も守るし、ウインカーもきちんと出す。自分が他人にされたら嫌だと思うようなことはやらない。法定速度を守らないこと自体がハタから見れば迷惑なんだろうが、これは俺のちっぽけなポリシーでもある。

走っているうちにだんだんと気持ちが研ぎ澄まされてくる。むしゃくしゃしていた気持ちもどこかへ行ってしまう。くよくよと悩んでいた気持ちからも解放される。
カーステレオからは音楽が鳴っているはずなのに、不思議と音楽は耳に入らなくなる。
見えているのは前方の視界、そして聞こえているのはエンジンの音、風を切る音、タイヤが拾う心地好いノイズだけになる。

考えている事と言えば、いかにスピードを落とさずにカーブをきれいに曲がれるか、いかにまっすぐに車を走らせることができるか、止まる時にはどれだけ無理なくスピードを落とすことができるかなど。美しい走りとでも言えばいいのかな。

カーブに差し掛かると極端にスピードを落とす車、車線を割っていびつに曲がっていく車、まっすぐの道なのにやたらと端の方に寄って走る車、まだずいぶんと遠くに信号があるにもかかわらずやたらと手前から減速する車・・・。美しくない走り方をしている車を見かけるとゲンナリしちゃうね。

夏でも、冬でも。晴れてても、雨の日でも。
憂鬱な気分から逃げ出したくなったら、俺は車を走らせる。
どの道を走るかなんて事前に決めることは無い。
気の向くまま、その時によってコースは違う。

まわりの景色なんて見えていない。
現実に抱えている問題なんてもちろん見えていない。
そのために走るのだから。

いつからだろう、こんな風に夜中にドライブをするようになったのは。
そして、いつまで続くのだろう、現実逃避。

車を降りた後は例外なくすがすがしい気持ちになっているのがせめてもの救いか。
今抱えている問題はくよくよ考えててもしょうがない。
悩むだけ精神衛生上良くないってことだ。
どんな方法であれ、逃げ道や解消する手法や場所を自分で持っている人間は強いと思うよ。

俺の場合は深夜のドライブ。




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