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K's Room Odds & Ends

東京ディズニーランド



 先日子供を連れてディズニーランドへ出掛けた。平日ではあったけど、まだ8月の終わりに引っ掛かっていたので、園内は思いの外、というよりめちゃめちゃ混雑していた。

 再三アナウンスしている通りなのだけど、僕はこういったテーマパークと呼ばれる施設が大っ嫌いである。入場料を払ってゲートを潜った瞬間に、檻の中へ閉じ込められおざなりの遊具を与えられたチンパンジーのような気分に陥るのだ。まあ結局のところは与えられた物を素直に受け入れられない自分の性格が問題なだけなのだが、千葉方面に足を踏み入れ、あの園の中央にそびえ立つハリボテの城が目に入った瞬間、たまらない嫌悪感と吐き気さえも催すのが僕の常なのである。

 しかしながら、三才の子を持つ親としては、乗り越えなければならない壁というものもある。そんな決死の覚悟のもとに、この日僕は人々でごった返すこの魔の園へと足を踏み入れることとなったのである。

 駐車場でいきなり2,000円をふんだくられた。こんな広大な駐車場を用意して、まさかディズニーランド以外に使い道もあろう筈もないのに、均一料金で2,000円である。そして、入園料が5,500円。まあ、金の事は言うまい。三歳の子供が無料の恩恵に授かれるのは十分慰めになる。せっかく金と時間を使って遊びに来たのだから、楽しまなければ損であり、物事を悪い方向からばかり見ていたら、良い面など一つも見える筈もない。施設は良く掃除されていて、スタッフもにこやかに声を掛けてくれ、なんとも清々しい気持ちになれる場所のはずである。

 ゲートを潜ると、広場にキャラクターの着ぐるみが何体かいて人だかりが出来ていた。うちの三才の子供もキャラクターの名前は一通り知っている。ミッキーに、グーフィーに、プーさん、正面に見える着ぐるみを指差して、盛んにティガー!ティガー!と教えてくる。ちなみにティガーとは二本足歩行を行う背の高い虎のキャラクターである。まあ、悲しいかな大人にしてみれば人が入っているだけの不格好な着ぐるみにしか見えない。しかしながら、三才の子供にとっては、その場所にあのビデオで見た紛れもないティガーそのものがいると思えるのである。その表情は驚きと喜びにはち切れんばかり、両手を広げて着ぐるみに走り寄っていった。しかし、その先では大人の女性がピースサインを出して盛んに記念写真を撮っている。子供が少しでも着ぐるみに近付こうと前に出る。取り巻く人垣はまるで“意識的に子供の行方を遮るように”、我先に着ぐるみに近付こうとしている。どうしていいか分からない子供が大人の女性達の尻のあたりを見て呆然としている。僕はその様子を見ていて、誰かが気付いて子供を誘導してくれる筈だと思っていた。ばか親になってハイハイと子供を前に誘導するのもいいが、やはりそれでは気が引ける。圧倒的に体格に勝る“大人の女性達がそこにはいる”のである。まさか自分が写真を撮りたいと思っても、まあ子供達に譲るものだろうと僕は思い込んでいた。ところがである。僕はやがてこの場所には一般的な社会とは大きくかけ離れている観念が存在している事に気付く。着ぐるみの周りで少し離れて見ているのが、危なくて取りつく島もない小さな子供達、着ぐるみに群がって盛んにカメラの構図に潜り込もうとしているのが、圧倒的に成人女性達なのである。そして、その女性達の共通する認識、それは誰一人目の前の着ぐるみを着ぐるみとは考えていない、三才の子供と同じくティガーそのものがそこにいると感じているのだ。その場所は我先に着ぐるみに近付こうと、もはやバーゲン会場のワゴン前の様相を呈していた。

 なんという事であろうか。見ればまるでアラブのお姫さまのようなレースの髪飾りや、ねずみの耳の形のかちゅうしゃを付け、盛んに着ぐるみに話し掛けている女性もいる。街中で見れば明らかに“あぶない”と見られる目つきのおかしい類いの人種もその中にはいる。いったい誰がデパートの屋上で子供に風船を配る“リス”の着ぐるみにこんなリアクションを取るだろうか?デパートの“リス”の着ぐるみと、この虎の着ぐるみは何が違うというのだろうか?そして、僕が常々この園に抱いていたイメージはこの瞬間に確信へと変わった。それは、この場所はまさに“宗教”そのものという事実である。ここは狂信的な信者を取り込む巨大な宗教団体「ミッキー教総本山」なのである。この場所に依存し、この場所に存在する事でのみ自分は救われると感じられる狂信的な人間の集まりなのだ。もはやこれだけの信者を抱えたこの団体の勢力は止まるところを知らないであろう。ミッキーマウスが立候補すれば軽く総理大臣くらいにはなれるはずである。この場所で独立国家を立ち上げれば、その亡命者の数に大変な騒ぎとなるに違いない。また、あの城の地下ではとんでもない毒ガスが製造されているのか・・・

 まあ、そんなこんなとこき下ろしたくなるほど、一子供の親としては、「このぶあか女ども!さっさとどいて、子供に触らせろ!」と、怒鳴りたくなるような状態だったわけである(失敬!)。

 薄っぺらな地図を片手に園内をよろよろ歩いていると、その日はもはやすれ違うのもやっとといった大混雑であった。どのアトラクションに乗るのも一時間待ちはざら。並んで乗るなどといった概念のない子供にしてみれば、目に付くものに次から次へと乗りたがり、説得してなだめ透かすのが大事だった。

 しかしながら、まさかこのまま何にも乗せないで帰るわけにもいかない。取り敢えず子供の好きそうなアトラクションに的を絞って並んでみることにした。この時点で入園してから一時間ほどが経過している。そして、いまだ何一つとしてアトラクションにも乗れていないのである。いったい5,500円という金はなんなんだあ!と叫び回りたい気分に陥るのであった。

 取り敢えずプーさんと表示された列に並んでみる。最後尾の案内では25分待ちとの事だった。25分なら良いじゃ、この時既に僕たちの時間の感覚はこんな風にさえなっていたのである。

 順番にシャワーを待つ受刑者の列のように、ロープに仕切られた通路で他人と何度となくすれ違いながら歩を進めて行く。しかしながらも、思いの外どんどん列が進む、「おおっ、これは結構ラッキー」そんなふうに思い、列の先が見えてきてみるとどうも様子がおかしい事に気付いた。列の行き着いている先が数台の券売機なのである。そして、その上には“Fast Pass”なる文字、隣には15:00の表示。

 ファストパス?

 そして自分達の番となり、今まで並んでいた人の列の終着が、前売り整理券の発券機の列だった事を知った。詰まる所、異常な待ち時間となってしまう人気アトラクションのために、概ねの時間の予約を取る事が出来るチケットのための列だったわけである。時計を見れば今は午前十時である。どうやら早くてもプーさんのアトラクションに乗れるのは午後三時からのようだった。

 比較的待ち時間の短いアトラクションを選んで、いくつかの乗り物に乗る事が出来た。それでも、ダンボが空中でくるくる回る乗り物にだけは、子供が乗りたいと泣いてせがんだので、止む無く母親と一緒に一時間待ちの表示がある列に並んだ。僕はこの間に昼寝が出来たのでラッキーだったが(!)、一時間並んだ末に子供がダンボに乗っていた時間は実に30秒程度だった。端から見ていてもせめてあと五回くらいは回ってもいいような気がした(・・)。

 ピノキオをテーマにしたアトラクションに入った時にも思ったのだが、カートに乗るや否やとんでもないスピードで車は走り出し、ビデオのコマ送りでも見ているような状態のまま、また元の出発地点へと戻って来てしまう。まさか混雑しているという理由で乗り物の運転時間を短くしたり、コースを走るスピードを上げて早く列を消化させるなどという操作がされているのではないだろうか。もしそうだとすれば、これはとんでもない詐欺行為である。なんたる施設だあ!ディズニーランド!(証拠はありませんが)

 まあ、そんなこんなと日がな一日ディズニーランドの中を歩き回っていた。ばかな親にしてみれば子供をあれに乗せたいこれも見せたいと必死になりくたくたに疲れ果ててしまった。そして、これだけの大人を取り込むモンスターテーマパークであるなら、週に一日くらい子供専用の日を作ってくれてもいいんじゃないかと思ったりする。もっと早くに入場制限を掛けて5,500円(しつこい!)を支払った人に対しては5,500円分(!)充分に楽しめるような手を打つべき何じゃないかと鼻息荒く考えてしまうのである。

 しかしながら、三才の子供の価値観は、ポップコーンに群がる鳩とミッキーマウス、川原の芝生広場とディズニーランドに大差はなく、帰りの車に乗るや否や“ティガー”のぬいぐるみを抱えて熟睡してしまった。そして、その寝顔は親の気遣いなどまるで知らずに充分満足げに見えた。

 まあ、そんなわけで、もうディズニーランドには絶対に行きませんよ(笑)!

(04.10.11)

K's Room

東京大田区バドミントンサークル



 

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