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K's Room Odds & Ends

ビートルズには遅すぎて、コンピューターには早すぎた世代



 僕が二十の頃、何かの雑誌に載っていた「ビートルズには遅すぎて、コンピューターには早すぎた世代」という文章を目にした事があった。
 1985年の頃だ。
 どこの誰が言った言葉なのかも分からないけど、どうやら当時の僕らの世代を一まとめにして表現していた言葉で、その当時の僕は、ずいぶんと可哀相がられてしまったその言い回しを、まあそんなものかななどと思って妙に納得していた。

 当時はビートルズから発祥していったと言えるであろう、ありとあらゆるロックやポップスの曲が世の中には登場していた。歌謡曲といわれる曲がやや下火になってきたのがこの頃で、音楽を聞く人達の嗜好は、様々なジャンルに分散していたように思う。 
 ちなみに、その頃僕がビートルズの音楽を聞く機会と言ったら喫茶店のBGMくらいなもので、まあそれなりに夢中になっていた仲間もいたとは思うが、一世代前の人達のように失神するほどの衝撃を受けるような輩は、もはやいなかったのだろうと思う。  
 ちなみに当時の僕は、ポーマッカートニーよりも、松田聖子に会ったほうが断然感動していたに違いなかった。

 一方その当時のコンピューターといえば、パソコンなどといった物が出ていたのかどうかも定かではなく、マニアなどといった連中さえ存在していたかどうか怪しいものだった。僕の意識の中でのコンピューターといえば、未来を表現したSF映画の中で、「人間よりも数段頭のいいロボットの中に組み込まれた機械」程度の認識でしかなかった。
 現実の世の中では、これから先そんな物をいったい何に使っていくのか、そして、そんな難解な物をいったい誰が扱っていくのか、そんな想像も付かないような世界を、遠い未来の人間達に託すしかないと思われていた頃だった。
 その当時既に成人に片足を突っ込んでいた僕らの世代では、到底扱いきれないという事を「コンピューターには早すぎた世代」という言葉でこの筆者は揶揄していたようだった。

 話は少々それるけど、ちょうどその頃に勤めていた会社で、某大手メーカー製の“ワープロ”を購入するという出来事があった。当時その事はちょっとした騒ぎとなり、社内には一斉に通達が出され、各部署の事務の担当者が、指定された部屋に神妙な面持ちで集合するようなことがあった。 
 集まった会議室の中、だだっ広い部屋の中央にはモニターとキーボードセットされ、その横には小型のタンスほどの大きさもある演算装置とプリンターが物々しく鎮座していた。そして、集まった人々にこの機械のなんたるかを解説する役目の、小奇麗な制服に身を包んだオペレーターが、販売担当者の横でニコニコと微笑んでいた。
 当時ワープロとは、人が一人「付いてくる」類の機械だったのである。
 そして、よくよく思い起こしてみれば、これが僕にとって初めてのキーボードに触れた体験でもあった。

 それから10年以上が経過し(うう、歳を感じる…)、先日デジカメを見に新宿の某大手家電量販店に行った時、店内をふらふらと歩いていた僕はそこで妙なものを見付けた。プリンターのインクや、コピー用紙などのアクセサリーが置かれた棚の奥のほうに、ノートパソコンよりも一回りくらい大きな、丸みのあるクリーム色系の妙な機械が数台陳列されていたのだ。それがワープロだと認識するまでに本当に数秒は掛かってしまった。
 10年以上前にワープロに触れてからパソコンに手を出すまでの間、僕は仕事も含めてワープロも10台くらいは扱ってきた。今の時代にすっかりと取り残され、頑なに蓋を閉じ、今まさに消えようとしている機械をそこに見とめて、その時僕は本当に物悲しい気分になった。

 全然話は逸れてしまったが、西暦2000年を数えた現代で、「コンピューターには早すぎた世代」という言葉は、どうやらすっかり当てはまらなくなってしまったようだ。
 ものすごいスピードでコンピューターがわれわれに近付き、あっという間に大津波のように誰かれ構わず一まとめに飲み込んでいったという感じだろうか。その当時のこの言葉の筆者も、まさかこんなにまでコンピューター産業が、もの凄い勢いで発達するとは夢にも思わなかったに違いない。
 かくいう僕も、たかが数年前まではテレビ画面の中でわけの分からない幾何学模様を操るようないイメージの機械を、きっと一生扱う事はないだろうと思っていたくちであった。しかし、ふとした事から知人にその操作方法を教えられ、文章が書けて、音楽が作れる(実は僕は隠れたミュージシャン崩れなのだ)!と知り、GUIによるその操作方法のなんと視覚的な事かを知った時、矢も盾もたまらず秋葉原に走ったものであった。
 「音楽」という作業が当時大前提であった僕は、もう既にウィンドウズに席捲されつつあった市場の中で、迷うことなくマックを購入し今だ愛用し続けている。
 どんなに、「マニア」だ、「頑固者だ」と人に後ろ指刺されようが、純粋にOSとしての使い勝手は、マックの方が1枚も2枚も上だと信じている。元を正せば、GUIを確立したのはアップル社なのだ!それを、「ビルゲイツ」などという人間がパクッて・・・
 と、こんな事をいい始めるときりがなくなってしまうが、まあそんな事はともかく、要は何が言いたかったかといえば、昨今のパソコンの普及ぶりから始まって、その簡易さや利用価値の未知数には本当に凄いものがあると、そんな事に純粋に驚いている今日この頃なのである。そして、インターネットの発達にはひたすら驚かされ続けていて、また別の機会にそんな事もぐちゃぐちゃと書いてみたいが、「ビートルズには遅すぎて、コンピューターには早すぎた世代」こんな名文章を書いた当時の筆者でさえも、今はきっとパソコンぐらいはいじっている事だろうと思う今日この頃なのである。

(00.8.11)

K's Room

東京大田区バドミントンサークル



 

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