浦和市田島ヶ原サクラソウ自生地のカマアシムシ類


田島ヶ原サクラソウ自生地は、埼玉県浦和市の荒川河川敷にあり、特別天然記念物に指定され保護されている。この自生地周辺は建設省により荒川調節池建設工事が施工されたが、施工前にその影響評価の調査がおこなわれた。その際に、調査対象の一つとして土壌動物も扱われ、カマアシムシ類も採集された。これまで、田島ヶ原周辺からは3種類のカマアシムシ類(ウダガワカマアシムシ,タカナワカマアシムシ,シナノカマアシムシ)が記録されているのみである(Imadate, 1974).

調査地点と方法
 土壌試料はサクラソウ自生地内より、地表に25cm×25cmの枠をあてがい、その枠内の土壌を深さ10cmまで掘り取った。土壌動物は、60Wの白熱球を用いた獨協医大式大形ツルグレン装置で96時間抽出分離した。

カマアシムシ類目録
 今回記録された種について科ごとにまとめた。

クシカマアシムシ科 Acerentomidae
 1.Baculentulus tosanus (Imadat et Yosii, 1959) トサカマアシムシ
 2.Nipponentomon uenoi paucisetosum Imadat , 1965 ウエノカマアシムシ
 3.Kenyentulus sp. フタフシカマアシムシ属の一種
ヒメカマアシムシ科 Protentomidae
 4.Neocondeellum (?) sp.  
カマアシムシ科 Eosentomidae
 5.Eosentomon udagawai Imadat , 1961 ウダガワカマアシムシ
 6.Eosentomon cf. udagawai ウダガワカマアシムシの近似種
 7.Pseudanisenomon ishiii Nakamura, 1996 タジマガハラカマアシムシ
 
カマアシムシ相の特徴
 今回,種名の判明にしているもので4種が記録されたが,タカナワカマアシムシ(Filientomon takanawanum)とシナノカマアシムシ(F. kurosai)は記録されなかった.記録されたトサカマアシムシ,ウエノカマアシムシ,ウダガワカマアシムシは全国に広く分布する普通種である.今回記録された種・属はすべて日本の暖温帯を代表するものである.
 ウエノカマアシムシでは,埼玉県からはC型も見いだされている(今立、1988).C型は秩父地域の山地帯での記録が多く、平地では上尾市で1個体が見いだされているのみである(Imadat & Nakamura, 1989).また,B型は平野部に多く,山地帯では皆野町簑山(1♂、海抜高度500m、1988年4月4日採集)で記録されているだけである.埼玉県でのB,C型の分布境界は十分には判明していないが,埼玉県の平野部にはB型が分布すると考えられる。
 今回マトバカマアシムシ属と思われる標本が記録されたが,全国的に見ても記録は少ないので注目に値する.しかしながら、今回得られた試料は第一幼生であり,標本の状態が悪く十分検鏡できないことは大変残念である.Imadat (1974)も田島ヶ原からヒメカマアシムシ科を記録しているが,標本の状態が悪く種までの同定ができていない.なお,埼玉県からはヒメカマアシムシ科では、マトバカマアシムシ属のNeocondeellum japonicumが上尾市と秩父市(Nakamura, 1990)及び皆野町(中村、未発表)から記録されている.
 ウダガワカマアシムシの近似種としたものは,後肢の爪間体に明瞭な違いが認められるので,ここでは別種として扱った。この種については,さらに検討が必要である.フタフシカマアシムシの一種は他の地域からも見出されている.


**より詳細なデータなどは、次の文献を見てください。**
中村修美, 1999. 浦和市田島ヶ原サクラソウ自生地のカマアシムシ類. 埼玉県立自然史博物館研究報告,(17):1-3.


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