白神山地のカマアシムシ類


カマアシムシ類各種の優占度
   櫛石山尾根 櫛石山南斜面(クマゲラの森)
   19991003 20010901   19991002 20010901  
アズマミスジカマアシムシ   0.5%              
ミチノクミスジカマアシムシ            1.2%
Baculentulus loxoglenus   1.4% 28 30 18.0%
モリカワカマアシムシ         10 15 9.0%
トサカマアシムシ         5.4%
ヨシイムシ         3.0%
オオバカマアシムシ           0.6%
コブクシカマアシムシ 153 53 206 96.3% 38 55 93 55.7%
ヤマトカマアシムシ   0.5%      
ジュンカマアシムシ   0.9%   3.0%
ウダガワカマアシムシ           1.2%
Eosentomon cf. udagawai         1.2%
Iseontominae sp.   0.5%   1.6%
個体数 160 54 214    90  77  167  
種数   10 11   

櫛石山南斜面(クマゲラの森)の様

 1999年10月と2001年9月に白神山地(青森県西津軽郡鰺ヶ沢町櫛石山)で土壌動物調査をおこなった.それにより,カマアシムシ類は櫛石山尾根より214個体が,クマゲラの森より167個体が採集された.それらからはそれぞれ2科6属6種と2科7属11種が確認された.全体としては,2科8属13種381個体が確認された. 以前調査を行った秋田県山本郡藤里町小岳中腹(ブナ,ダケカンバ,チシマザサ,海抜高度930m,1994年8月28日採集)で確認されたキタクシカマシムシParacerella shiratki は今回の調査では確認されなかった.

 記録された種をみると,モリカワカマアシムシ,トサカマアシムシ,ヨシイムシ,ウダガワカマアシムシは本州の温帯圏で普通に見いだされる種である.ミチノクミスジカマアシムシ,オオバカマアシムシ,コブクシカマアシムシ,ヤマトカマアシムシ,ジュンカマアシムシは冷温帯から亜寒帯を主たる分布圏とする山地性の種であり,ミチノクミスジカマアシムシ,オオバカマアシムシ,ジュンカマアシムシの3種は本州北部から北海道に,コブクシカマアシムシは岐阜県を南限とし本州中部域では山地にのみ分布している.アズマミスジカマアシムシは本州東部で,B. loxoglenusは本州中部・東部の山地帯で記録されていたが,今回の記録はそれぞれ最北のものとなる.
 調査値からすると当然のことではあろうが,全体としては冷温帯から亜寒帯を主たる分布圏とする山地性の種が多いところに特徴がある.

 櫛石山尾根では出現個体の96%とほとんどをコブクシカマアシムシが占めており,すべての調査に共通して出現したのも本種のみであった.クマゲラの森でもコブクシカマアシムシが55%と半数以上を占めていたが,他に6種が1999年と2001年の調査に共に出現した.各地点で5%以上出現したのはコブクシカマアシムシ,モリカワカマアシムシ,トサカマアシムシ,B. loxoglenusの4種であった.
 カマアシムシ類では自然条件の攪乱により種構成が変化することが知られている.森林が伐採されると冷温帯・温帯系の種が消滅し,最後に残るのは暖・熱帯系の種である.例えば,東北地方北部であっても,かなり人手の入っている森林には暖・熱帯系種群のものしかいない.
 今回の種構成を見てみると,櫛石山尾根の出現種のほとんどが冷温帯・温帯系の種である.一方,南斜面では,冷温帯・温帯系の種も見られるが,モリカワカマアシムシ,トサカマアシムシ,ウダガワカマアシムシは暖・熱帯系の種である.調査地である櫛石山尾根は平坦地であり,クマゲラの森は斜面であった.斜面という環境では,土壌が不安定になり,環境の攪乱が起こったのかもしれない.クマゲラの森で暖・熱帯系の種が確認されたのは,それを反映しているのだろう.


| top| japanese protura | my note | miscellany | other animals |