北海道利尻島のカマアシムシ類とカマアシムシ属の一種


 これまで,利尻島のカマアシムシ類としては利尻富士町鴛泊からヨシイムシが,姫沼からカマアシムシ属の一種が記録されているのみであった。2000年6月に土壌動物の調査が行われ,利尻町沓形の3地点より26個体のカマアシムシ類が採集された。検鏡の結果,3科3属5種が確認された.  
これまでの記録地点(2つの内左側の地点は間違いで、
  海抜高度1000mで島の中央付近になる)

今回の記録地点
採集地点と記録種
海抜高度
植生
200m
トドマツ,エゾマツ,ササ
400m
トドマツ,エゾマツ
600m
ミヤマハンノキ,ダケカンバ,ササ
ヨシイムシ
Nipponentomon nippon
     1(1♂)     
キタカマアシムシ
Hinomotentomon nipponicum
     1(1mj)     
ジュンカマアシムシ
Eosentomon juni
4(2♂,1mj,1LII) 7(4♂,1♀,2mj) 2(1♀,1LII)
ウダガワカマアシムシ近似種
Eosentomon sp. cf. udagawai
2(1♀,1LII) 2(1♀,1mj)     
カマアシムシ属の一種
Eosenotmon sp.
6(2♂,4♀) 1(1♀)     
ヨシイムシはクシカマアシムシ科 Acerentomidae
キタカマアシムシはヒメカマアシムシ科 Protentomidae
他の3種はカマアシムシ科 Eosentomidae
性別・齢記号: オス−♂, メス−♀, 若虫−mj, 第二幼生−LII
 ヨシイムシとウダガワカマアシムシの近似種は全国に分布し,キタカマアシムシ,ジュンカマアシムシは北海道を主な棲息地とする種である。ウダガワカマアシムシの近似種を除く各種は北方系の種属であり、この群が主たる構成種となっている。しかしながら、クシカマアシムシ科の中で北海道に広く分布し優勢であるアケレラ群(キタクシカマアシムシParacerella shiratki,コブクシカマアシムシVerurucoentomon shirampa,カワカツカマアシムシV. kawakatsuiなど)が見つかっていない.また,北海道を主たる棲息地とし,出現頻度の高いカマアシムシ科のアサヒカマアシムシE. asahi も確認されていない.隣接する礼文島においても同様に,アケ レラ群とアサヒカマアシムシは確認されていない.この未確認が,調査が十分でないためなのか,他の何らかの理由によるものかは,今後の調査を待ちたい.

今回得られたカマアシムシ属の一種は,
1)前肢ふ節で,刺毛 3の基部と感覚毛bのそれとの間に小隆起列がある,
2)腹部背板の後列副毛P1aが後列主毛P1-2と同列に位置するとき,短形で先端が膨らむ,という特徴を持っていた.
また、腹部4-7節背板には前列毛A5を欠くが,後列主毛P5が通常より前に位置していた.腹部2-3節背板にはA5があり、その場合にはP5は通常の位置にあった。P5が前に位置する特徴は,同じくA5を欠く北海道産の ヌプリカマアシムシE. nupri でも確認されている.本属ではA5の消失そのものが珍しく,P5が前よりに位置するのはA5の消失に起因する可能性を示唆している.

カマアシムシ属一種の全形

前肢ふ節に見られる粒状突起列
(矢印で示したところに見られる)

第3腹節背板の毛序(P5の位置に注目)
前列刺毛A5がある

第6腹節背板の毛序(P5の位置に注目)。
前列刺毛A5はない

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