尾瀬ヶ原およびその周辺のカマアシムシ類の記録は少なく,これまでに次の3種6個体が報告されているのみである:ウダガワカマアシムシ(富士見下,1LII; 尾瀬見晴,1♂; 牛首,1LII),ヨシイムシ(尾瀬峠,1♂), トサカマアシムシ(鳩待峠,1♀)(Imadate,
1974; Imadate & Kinjo, 1982).
1994年から1996年にわたる3ヶ年の尾瀬ヶ原およびその周辺山地での調査により,45地点から52サンプルが採集され,そのうち22地点26サンプルより合計196個体のカマアシムシ類が見いだされた.精査の結果,種名の確定したもので2科9属13種が判明した.
番号 | 地点名 | 位置 | 海抜高度 (m) |
記録種 |
1 | 燧ヶ岳A | 山頂 | 2,350 | Esp |
2 | 燧ヶ岳B | 燧ヶ岳中腹 | 1,750 | Eno |
3 | 燧ヶ岳C | 燧ヶ岳山麓 | 1,500 | Eud |
4 | 只見川 | 只見川沿い | 1,420 | Bts |
5 | 景鶴山A | 山頂 | 2,000 | Akk,Iss |
6 | 景鶴山B | 南東斜面 | 1,920 | Esa,Bmr |
7 | 景鶴山C | 南東斜面 | 1,600 | Eud,Bts,Iss |
8 | 景鶴山D | 南東斜面 | 1,430 | Nno |
9 | 竜宮小屋 | 尾瀬ヶ原湿原 | 1,400 | Eud,Fta,Nno |
10 | 湿原 | 尾瀬ヶ原湿原 | 1,440 | Bmr,Eah |
11 | 中田代 | 片品村 | 1,400 | Bts,Fta |
12 | 竜宮南方 | 片品村 | 1,450 | Eud,Esp,Bmr,Fta,Iss,Kja,Nno |
13 | 富士見田代 | 片品村 | 1,890 | Fta |
14 | 横田代 | 片品村 | 1,840 | Bmr,Vsh |
15 | 山の鼻 | 鳩待峠〜山の鼻 | 1,450 | Eah,Eaw,Esp,Bts,Fta,Toh |
16 | 鳩待峠A | 鳩待峠〜山の鼻 | 1,500 | Nup |
17 | 鳩待峠B | 鳩待峠下 | 1,590 | Bts,Nup |
18 | 至仏山A | 山の鼻〜至仏山 | 1,580 | Eud |
19 | 至仏山B | 山の鼻〜至仏山 | 1,770 | Eah |
20 | 至仏山C | 山頂 | 2,200 | Eah,Eud,Esp,Fta |
21 | 至仏山D | オヤマ沢田代 | 2,040 | Eah |
22 | 至仏山E | 鳩待峠〜至仏山 | 1,800 | Ksp |
記 録 種 略 号 |
Esh:アサヒカマアシムシ, Eaw:オオカマアシムシ, Esa:カマアシムシ, Eud:ウダガワカマアシムシの近似種,Eno:キンリョウカマアシムシの近似種, Esp:カマアシムシ属の種, Akk:アスマミズジカマアシムシ, Bmr:モリカワカマアシムシ, Bts:トサカマアシムシ, Fta:タカナワカマアシムシ, Iss:シデイカマアシムシ, Kja:フタフシカマアシムシ, Ksp:フタフシカマアシムシ属の一種, Nno:ヨシイムシ, Nup:ウエノカマアシムシ, Toh:オオバカマアシムシ, Vsh:コブクシカマアシムシ |
今回の調査ではウダガワカマアシムシそのものは得られなかったが,その近縁種が一種見つかり,種名が確定しているもので13種が記録された.
この中で,アサヒカマアシムシ,シデイカマアシムシ,コブクシカマアシムシの3種は,冷温帯から亜寒帯を主たる分布圏とする山地性の種類である.また,オオカマアシムシ,アズマミスジカマアシムシは本州東部から北部にのみ分布している.他の種類は,本州の温帯圏で普通に見いだされるものである.全体としてみれば,採集地点が海抜高度1,400m以上の山地であることを反映して,山地性の種類や本州東部・北部に分布が限定されている種類の割合が多いことが特徴である.
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湿原脇の森林 | |
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湿原内の低木林 |
今回の調査において,多くの個体は尾瀬ヶ原周辺の森林から採集された.尾瀬ヶ原(10)と中田代(11)は湿原の中に位置しているが,両地点とも低木のヤナギ類やカンバ類などが生育している場所である.また,竜宮小屋(9)でも得られているが,この地点は拠水林であり,湿原ではない.今回の調査では,ミズゴケなどからなる湿原そのものからは,カマアシムシ類は採集されなかった.Imadate
& Kinjo (1982)の報告でも,大変な努力にもかかわらず,今回と同じように湿原そのものからカマアシムシ類は得られていない.しかしながら,カマアシムシ類は,湿原においては低木でも樹木が生育すれば生存できることが分かった.なお,湿原内の樹木生育地点から得られた4種は周辺山地にも広く分布する種である.
文献
Imadate G.(1974) Protura, Fauna Japonica.
v+351pp., 1 col. pl. Keigaku Publishing Co.,
Tokyo.
Imadate G. & Kinjo N.(1982) The Proturans
from the Ozegahara Moor. In: Ozegahara: Scientific
Researches of the Highmoor in Central Japan,
p.313.