富士山のカマアシムシ類とコムシ類


 今回の富士山北麓で生物多様性調査が行われた。その調査で、カマアシムシ類では2科7属13種が、コムシ類では1科1属2種が確認された。確認された種は次のとおりである。

1.確認種

カマアシムシ目 Protura

コムシ目 Diplura


2.特徴

カマアシムシ類

 記録された種をみると、ヨシイムシやモリカワカマアシムシは普通種で,広く分布している。 今回も広い範囲わたって出現した。トサカマアシムシ、タカナワカマアシムシ、カマアシムシ、 ウダガワカマアシムシは、本州の温帯・暖温帯圏で普通に見いだされるものであり、 今回は低標高域からのみ記録された。一方、アサヒカマアシムシ、ヤマトカマアシムシ、 コブクシクシカマアシムシは冷温帯から亜寒帯を主たる分布圏とする山地性の種である。 特に、コブクシカマアシムシは岐阜県を南限とし、本州中部域では山地でのみ記録され ている(Imadatée,1994)。今回もSt.3からのみ記録された。オオカマアシムシ は本州東部から北部にのみ分布し、貧弱な植生からは得られていない(Imadaté, 1974)。これまでの最西端の記録は神奈川県山北町であり(Imadaté,1974)、 今回の記録は最も西の地点となる。
 全体としては、山地性や本州東部・北部に限定される種が多く見いだされ ているところに特徴がある。これは、高標高域での調査を反映しているものと考えられる。
 今回、ウエノカマアシムシのB型(メス1個体)がSt.6より記録された。これ までの調査で、富士吉田市滝沢林道(カラマツ、1520m alt.、1996年8月29日採集)と馬返し(シラビソ、1450m alt.、1996年8月29日採集)からはC型と思われる個体が採集されている (中村、未発表)。B型は本州中央部より東部・北部に分布し、C型は 関東西部から中部地方東部で見いだされているが、B型は他の型との共存は報告さ れていない(今立、1988)。富士山での両型の分布については今後の調査が必要である。

コムシ類

 コムシ目には、尾角が糸状のナガコムシ科とハサミ状のハサミコムシ科・ニセハ サミコムシ科があるが、今回の調査ではナガコムシ科のクワヤマナガコムシ属の2 種しか確認できなかった。今後の調査により他の種も見いだされる可能性は高い。 日本でのコムシ類の分類並びに分布の解明はきわめて不十分で、富士山のコムシ類の特徴 を述べられる段階に達していない。

3.群集構造

Sørensenの類似係数によるデンドログラム
 各地点の種構成の類似性を比較するために、Sørensenの類似係数を用い郡平均法よりデン ドログラムでグルーピングした。その結果、St.1〜St.3の地点とSt.4〜St.6の地 点がそれぞれまとまり、やや類似性が高いことを示した。St.1〜3は標高2100m以上の地点 であり、St.4〜6は1060〜1130mの間にある。それらの間には、1000m以上の高さの違いがあ り、これが影響していることが考えられる。さらに、St.4〜6は火山地形でもあり、これ も影響しているのかもしれない。植生はそれぞれの地点で異なっており,大きな影響を与えていないと思われる. 
 St.7の標高はSt.4〜St.6のそれの範囲に含まれるが,いずれともグルーピングされなか った.これは、ススキ草原という環境が影響しているのだろう。さらに、2001年と2002 年に同一地点で調査を行っているが、それらがお互いにグルーピングされなかったのは、採 集による誤差等によるものと思われる。 

4.文献

Imadaté, G. 1974. Protura, Fauna Japonica. Keigaku Publishing Co., Tokyo. 351 pp
今立源太良、1988。ウエノカマアシムシの諸型。 Edaphologia, (38): 17-26.
Imadaté, G. 1994. Contributions towaqrds a Revision of the Proturan Fauna of Japan (IX) Collecting Data of Acetentomid and Sinentomid Species in the Japanese Islands. Bull. gen. Educ. Tokyo med. dent. Univ., (24): 45-70.

 
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