昭和の時代から使い続けてきた軽トラが、最近突然エンストするようになった。
快調に走っていたかと思うと突然エンジンがストンと止まってしまい、セルモーターで数回クランキングすると再始動し、何事もなかった様に運転する。
希に出ていた症状は、やがてやや頻繁になり、もはやこの車の寿命かと思えるようになった。
15年も使ったのだから乗り換えても罰は当たらないだろうと懇意にしている自動車屋に、とりあえず中古の軽トラ価格を尋ねてみた。
しかし、軽トラの中古車価格は馬鹿高いらしく、買い換えるなら新車の方が良いとこ事だ。
私も軽自動車の中古車価格については漠然であるが高いと思っていたが、具体的に値段を聞いてみると、何と私が使っている昭和の時代の軽トラにも値段がついているという。
しかも二桁と聞いて今乗っている軽トラの価値を見直すことになった。
今までは、お金をかけて修理することが無駄に思えていたのが、採算が合うと知った私は、早速、故障探求にとりかかることになった。
しかし、エンスト後、始動出来なくなっている時間は、短時間で確実なトラブルシューティングは困難な状況であった。
そもそも修理書も無し、テスターも無し、知識も無し、といった状態では、出来ることは限られている。
とりあえず電気系統であることは間違いないので、怪しい部品を片っ端から交換するという手段をとることになった。
最初に交換したのが、電気系の消耗品のスパークプラグ、ハイテンションコード、ポイントの3点である。
もちろん症状からしてこれらが原因とは思えなかったが、これからも乗り続ける以上早かれ遅かれ交換が必要になる部品である。
やはり交換後も、三日に一度くらいの頻度でエンストの症状は出た。
症状が出始めたのが、夏の暑い時期で多分そのような条件は、イグニッションコイルにトラブルが出やすいと思い、次にイグニッションコイルを交換することになった。
恐らくコイル内部で断線しかかっている部分があって時々導通が無くなるのであろう。
ほぼ確信して部品交換後試運転をしたが、あっさりとその確信はうち砕かれることになった。
こうなると非常にシンプルな構造の反面、後どこを交換すればよいのかわからなくなり、助手席のシートを外し配線の緩みなどを点検しながら、試運転を続けることになってしまった。
それでも接触が悪いところは見つからず、相変わらずストンとまるでスイッチを切ったようにエンストの症状が出る。
もはや、配線を引き直さなければならないのだろうか?
しかし、不器用な私がそんなことをすれば、それ自体が故障の原因となってしまいそうである。
その時、もしやと思い、走りながらイグニッションスイッチを揺すってみるとエンストの現象が再現して、ようやく原因を突き止めるに至った。
つまりイグニッションスイッチの接触が悪く時々IG系統の電気が途絶えていたのだった。
道理で、まるでスイッチを切ったようにエンストするはずである。
早速部品を注文し交換するしてみると、スイッチをひねったときの節度も古いスイッチとは違って「カチッ」と心地よいものがあった。
しかし、いつもの思う事ながら、故障探求は、まるで推理小説のようにそのストーリーには、真犯人につながる手がかりがあるが、推理を投げ出して途中で結末を読んでしまった者には本物の満足感はない。
いつの日か私も小説に出てくる名探偵のように、ストーリーの中から手がかりを見つけ、一発で真犯人を挙げたいものだが、今回も結果的に推理を放棄して物量的手段に頼ってしまったわけだ。


こうして点火系統の大半の部品を交換する結果になったが、部品代も全部で2万円位でおさまり、また部品も発注後翌日には受け取ることが出来たので経済的、時間的な負担は少なくてすんだ。
恐らく古い軽トラックを乗り続けているユーザーも多く、部品の需要もあるから、一件あたりの部品コストも安いのであろう。
しかし、これが最新の軽トラのように燃料噴射装置付きの場合であったらどうであったろうか。
もし、今回のように怪しい部品を片っ端から交換したりすれば、かなりの価格になってしまうはずだ。
コンピュータの自己診断機能を使ったとしても、断線とか短絡とか極端なセンサー類の故障しか見つけることは出来ない為にめったに役に立たないし、コンピュータ自体が怪しいということも良くあるが、それは高価である。
結局、故障診断と部品交換を繰り返す迷路に入り込むを恐れて、故障故障探求を諦めてしまうことになるのではないだろうか?
たとえ、簡単かつ安価な部品が原因の場合でもそうなりかねない。
また、プロの修理屋さんの場合でも、故障原因を突き止めきれないで見込みで部品を交換した場合に、それが間違いあったら、お客さんからお金をもらうことは難しいという事情もあり、慎重にならざるを得ない。
仮に、慎重に時間をかけて故障探求に成功した場合でも、それに費やした時間と技術、知識にふさわしい報酬を得ることは難しい。
何故なら通常は、故障の原因となった部品交換に伴う工賃と部品代しか請求しないからだ。
例えば今回のイグニッションスイッチだったら部品代3000円くらいとその交換工賃3000円位しか請求しないのが普通だ。
もちろん、良い技術を持ち良心的な仕事をしている整備工場もあるだろうが、何事も良い仕事して良い報酬を得ることが出来るから長続きするのが常で、良い仕事をして少ない報酬というのは、何処かにそのしわ寄せが出るものである。