記事にされた人たち

Vol.272


お好み焼き 福ちゃん

 

 大阪市の観光案内には名所旧跡と文化伝統が列挙されてある。これらはよそいきの文化である。リアル大阪を知りたいなら路地がいい。
 日本一長い天神橋商店街は天六付近。このあたりは一本道を入った路地裏に「昭和」の大阪が残っている。お好み焼「福ちゃん」もそんな路地にあった。
「昔はここらに遊郭がありましてん。子どもの頃はそっちの方に行ったらあかんとゆわれてました。そやけど、高校生になったらそこが何するところか分かるし。まあ、環境は抜群でしたわ」
 福ちゃんの店の並びにはクリーニング屋がある。その開けられた窓からJ・コルトレーンのジャズが流れていた。
「近所付き合いもええですよ。阪神が勝つとクリーニング屋さんとは朝からタイガースの話で盛り上がります。負けたら黙って会釈するだけですわ。そんな近所も店の横や後ろも立ち退きはって、この界隈もどんどん寂れていきますねん」
 福ちゃんの店には小さなホワイトボードが掛けられてある。そこに福ちゃんが1日1言を書く。例えば「バレンタインデーでっか。関係おまへん」から開幕したばかりなのに阪神が勝つと「阪神Vマジック点灯」といった具合である。
「趣味は競馬と阪神タイガースとカラオケでんな。それとサッカー日本代表の試合は見ます。あとは飲むことぐらいですわ」
 福ちゃんは缶チューハイをちびちびやりながらお好みを焼く。チェーン店のファーストフード化されたお好みの味とは違う。福ちゃんのお好みはこの世にたった1枚しかない味なのである。このような庶民の味は食べ飽きることがない。
「自分が小6の時やったかいな。天六のガス爆発事故があった昭和45年か、その翌年です。叔父が最初に店をやり始めたんです。そのあとを継いだ自分の母の名前が福栄で、そこから福ちゃんになりましてん」
 福ちゃんは三代目。北陽高校を卒業したあと21歳までサラリーマンをしている。
「独立しようとあちこちの店で修行してきました。そのあと39歳から、この店を継いでます。そやけど、最近は歳でんな。この前は耳が突然聞こえんようになって入院したし、ギックリ腰やし」
 福ちゃんの店には味のある客が多い。近所のお馴染みさんやトラきちに巨人ファン。ソムリエも医者も外人まで食べに来る。小さな空間が庶民フォーラム(広場)になる。
「ほんま、みなさんのおかげですわ。おおきにです」
 官僚&組合なれ合い天国の大阪市が推奨する大阪文化を見学するよりも福ちゃんとこでお好み焼きの1枚でも食べる方が大阪文化がよく分かる。大阪の観光資源は福ちゃんのような人にある。
(日刊ゲンダイ2005.4.13掲載)     (写真・日刊ゲンダイ 川西正治)

「福ちゃん」
電話 06-6358-5692
地下鉄「天神橋六丁目」2番出口からすぐ。
住所 大阪市北区国分寺2-2-1
月曜休み。行く前に電話して確認して下さい。
05.9.29阪神タイガース優勝した時はビール半額だった。

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