NATOの空爆の論理の破綻を難民キャンプで見た

『派兵チェック』1999年6月15日号に掲載

NATOのユーゴ空爆開始から1ヵ月になろうとするころ、マケドニアとアルバニア の難民キャンプを巡っていた。最初から言い訳になるが、その後、「国連の制裁」下の イラクに行くスケジュールが決定していたので、本来ならNATO空爆下のユーゴにこ そ入らなければならないことを承知の上で、当時ユーゴ側が入国を拒否していた関係で 待ちがどのくらいになるかも不明で、ともかくコソボに一番近いところまで行こうと考 えざるを得なかった。その結果、日本から行くにはマケドニアが一番早く行けそうだっ た。とは行ってもこれまでスコピエに入っていたロシア航空は運航を取り止めていたた め、ギリシャから陸路で入るしかなかったのだが。
 マケドニアは「コソボ問題の飛び火を恐れて」難民の受け入れを拒否しているため、 国境を越えたコソボ難民は、NATO傘下の各軍の設置する難民収容施設にあふれてい た。ここから「第三国」に移送されるのを待つという形で一時滞在していた。「毎日1 0台のバスで難民が運ばれてくるのに、出ていくには三、四台なんだから、キャンプの 人口は増える一方だ」と難民の一人が教えてくれた。確かに、10人入ればいっぱいの テントに15〜6人は普通で、20人を超える数家族が共同生活を余儀なくされていた 。
 4月下旬は寒さが身に染みる上に、雨がちでキャンプ地は泥まみれだ。テントの中も 湿り年寄りや幼児に病気が広がりだしていた。その上コソボでの生活の一切を失ったシ ョックが重なって、絶望的な気分がキャンプを包んでいる。「まるで動物の様だった」 という逃避行を思い出してユーゴ軍を非難するが、そのことが何の解決にも結びつかな いことも知っているようだ。とりわけマケドニアに逃れた人々は、ここからさらに空路 、はるか離れたベルギーやフランス、あるいはトルコ、さらにはなんとパレスチナ難民 を生み出した元凶のイスラエルにまで運ばれるという。故郷からさらに遠ざかるという だけでなく、親族がここで一時なりとも離れ離れになるケースもあり、その失望と不安 がUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の登録を待つ長い列を支配していた。
 一方、NATOは「いよいよ地上軍か」と思わせるアパッチ戦闘ヘリをアルバニアの 首都チラナの国際空港に構えた補給基地に送り込んだ。CNNやBBCといった世界の メディアを十分に焦らせた上で夕暮に他の輸送用ヘリや救急用ヘリと一〇数機の編隊を 組んでアパッチを登場させたのは、それ自体をユーゴへの圧力するメディア戦略なのだ ろう。だが、別な味方をすれば1ヵ月の空爆にもかかわらずコソボ問題を解決するどこ ろか、日増しに自ら解決不能の泥沼にはまり込んでいく姿でもあった。そしてそれはそ こに参集したジャーナリストもアパッチ取材前から囁き合っていた。いや米軍の巨大な 輸送機でぞくぞくと降り立つ完全武装の兵隊にも、これから前線に立つといった殺気よ りも、すでに倦怠のような表情が見て取れた。誤爆を繰り返す「友軍」の失態を見ざる を得ないという意味ではNATOのメディア戦略はうまく機能していないのかもしれな い。「われわれはNUHCRの物資輸送にヘイコプターを提供するなど国連の人道援助 活動も支援しています。」とアパッチを待つ記者団に強調せざる得ない位にはNATO の現場は、この戦争が正義性を欠いたものであることを実感し始めているのかもしれな いと、空爆1ヵ月の段階で感じた。それが誤爆を繰り返しつつも今だに空爆を続ける根 拠を私は知らないが、ただ戦争の論理とはそういうものなのだろうと、あらためて考え ている。
 そしてこのNATOの空爆が続く限り、NATOの言い分とは裏腹に難民が続々と発 生し続けることは確かだ。コソボと国境を接するアルバニア北東部の小さな町クケスは 、私が訪れた時点で、すでに許容量をとっくにオーバーしていた。一説には人口が4〜 5倍になったという説もある位なのに、UNHCRはさらに何十万の難民が流れこむの ではないかと予想していた。ヨーロッパ最貧国と言われ、すでに経済が破綻したような 状態のアルバニアはすでにしかも人口を10パーセント押し上げたというその大量の難 民を受け入れはしているものの対処する機能を持ち合わせていない。難民支援NGO「 ピース・ウインズ・ジャパン」(東京都、電話03−3446−9431)の調査団は 、当初長期的な支援策を考えていたが、同時に緊急で衛生管理、つまりトイレ等の整備 に取り組まなければならないだろうと話していた。平和問題を現場から考えるその真摯 な姿が印象に残った。 一方、5月11日〜15日、オランダで開かれた「ハーグ平和 アピール」に参加したヨーロッパの女性たちは、ユーゴ、コソボに「市民使節を送ろう 」と準備を始めた。ドイツの「兵士の母たち」はNATO参加各国の兵士の母親たちに も呼び掛けて準備を進めると。既にイタリアのグループは今月中に送るとも言っていた 。NATOの戦争は続いているが、一方で「戦争による解決」に対抗する平和運動側の 「回答」もまた進行している。
 新ガイドライン関連法に対抗する論理は、既に実践されているさまざまな非暴力運動 、平和運動の中にあるとあらためて思った。

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