新連載 "アナログのお作法"(改) 
 

 アナログの復権という言葉を聞きます。しかし世はデジタル時代。
LP盤をハラハラするような方法でかけている人がじつに多い!
そこで、事始めは、大切なレコードをきちんとかける基本から・・・
ベテランでも、つい忘れがちな事がある。ぜひ、お読みください。

    
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はじめに(アナログ・プレイヤーの構成とその機能) ***********
    

ターンテーブル

モーターの力により、レコード盤を一定の回転数で回転させる
トーンアーム カートリッジを支えながら、レコード盤のミゾに追従して動かす
カートリッジ レコード盤のミゾに刻まれた振動波形を電気信号に変換する

レコード盤には、音が振動波形で刻み込まれているので、アナログ・プレイヤーは
上の部品をセットにして、盤の音ミゾから、音楽情報を拾い出すギアなのです。
そこで、振動波形に含まれている音楽情報の全てを拾い出し、忠実に電気信号に
変換させるには、以下に説明する丁寧なお作法と調整が大切になるのです。
    

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しかし、アナログの作法にも、いろんな流儀があります。歴史の古いものだけに、各人の思い入れも強い。
まず、プレイヤーは水平に設置しよう、ということから始めますが、これさえも異論が出るかもしれません。
プレイヤーは傾けて置きなさい!ハイエンド・マニアご用達のエプソン(\何百万もする!)などは、初めからターンテーブルを傾けて作ってある。理由は、回転する軸には、必ずガタ(すき間)があって、ターンテーブルはスリコギ運動を起しているはずだ。これを傾けることによって、軸は傾斜側の壁面に寄りかかることになり、ミクロのグラつきもなく回転する、という明快な理屈です。
しかし、一般のプレイヤーを傾けると、アーム・バランスはどうするか、インサイドorアウトサイドフォースにどう対応するかなど、他の部分の見直しも必要になります。ベテランの応用的作法といえるでしょう。ここでは、あくまでも基本的作法で、正確に水平に設置しましょう。

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設置する位置は、アンプのトランス側、CDプレイヤー、蛍光灯などから離して置くこと。これは電気的な誘導を拾わないため。
スピーカーからも離して、床の根太が通っているようなしっかりした場所で、頑丈な台に乗せること。これはハウリング
(*1)を避けるため。
左図のように、床の振動からも切り離すのが理想的で、なるべくこの状態に近づける努力をする。インシュレーターは補助的手段です。
ハウリングまで起きなくても、LPの音ミゾ以外の振動をシャットアウトした時の効果は、体験してみないと信じられないかもしれません。
昔、ある技術者がハウリングを避けるには、スピーカーの±を入れ変えると良いというような解説記事を書いて、音楽ファンの反論を浴びたことがあります
(ステレオサウンド第2号)。スピーカーを逆位相にすれば、低音が出なくなって、おかげで音圧による振動も減る、という無謀な策なのですが、プレイヤーの設計者としては、これほどまで振動による悪影響を訴えたかったのでしょう。

*1)ハウリング スピーカーの音をカートリッジが拾い、それが増幅されて、更に大きな音になり…この繰り返しで、大きな鳴音を生じること。ごく微細なハウリングは、エコー効果の様で分りにくく、再生音全体の明瞭度が失われるため注意が必要。

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さて、カートリッジはアームのヘッドシェル(先端の着脱する部品)に取り付ける訳ですが、左右にゆがまず、垂直方向にもまっすぐに付けることは言うまでもありません。
同時に、オーバーハング何ミリとか、トラッキング・エラー修正という説明が出てきます。ターンテーブル中心軸より、針を何ミリ前に出して取り付けろという意味で、シェル内でも、アームによってはベース部分でも、カートリッジを前後に動かせますが、どうも正確に測りにくい。理屈どおり、次のような方法がベターです。
LPのミゾは、針の軸方向がターンテーブル軸と常に直角になるように(常に接線方向に)音が刻んである。従って、針先は、常に軸と直角を保って(接線に平行に)トレースして音を拾うのが望ましいが、一端を固定したアームでは、2箇所以外では角度が狂ってしまう。これをトラッキング・エラーといい、トレースの線速度が遅くなって、わずかの狂いでも歪みやすい最内周で、エラーがゼロになるよう調整すると影響を少なくできる、というのが理屈。
そこで、写真のように厚紙に軸穴をあけて、半径の線とそれに直角にLP最内周(半径6.5〜7.0cm)
(*2)の接線を画く。この接点に針を置いて、カートリッジ(ヘッドシェル)が接線に平行になるように、前後の位置調整をすれば良いということになります。
曲の初めしか聴かないという音マニアが、同じ要領で最外周に接線を引き、その位置でエラー・ゼロにするバリエイションだって可能です。

*2)LP最内周について 半径6cmの内周いっぱいまで音ミゾを刻んだ盤はめったに無いため、内周のアベレージを6.5〜7.0cmに設定するのが実用的だといえる。

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カートリッジがついたら、高さ調整です。どのアームでも、軸受け部分に高さが調整できるネジがあります。これで、LPに適正針圧で針を下した時に、カートリッジの背面(アームのパイプ)がLP盤面と平行になるように、ゲージなどを当てて調整する。
このことは、針のバーティカル角度
(*3)とか、針圧への影響という説明になることが多いのですが、もう一つの重要な意味があります。
アームを上げ下げして、真正面から見るとよく分りますが、針先はまっすぐには上下しません。水平以外の位置では、左図のAのように、左右に傾いてしまう。針が傾いてトレースすると、クロストーク特性
(*4)の悪化、歪みの増加、音ミゾの片減りなどが起る。こうならないのは、軸受方向が、針の方向と直角になっているBのようなアームだけ。しかし悪いことに、市販アームのほとんどは、Aのタイプなのです。
あまり過敏になるのは禁物ですが、たかがアームの高さ調整の持つ重要性は、きちんと理解しておきましょう。

*3)バーティカル角度 カッティング針は上下方向の切り込みにも、垂直ではなく、ある程度の傾きも持たせてある。再生時も、この角度を守るのが望ましく、多くのカートリッジはこの角度を15度に設定してある。
*4)クロストーク特性 R(L)側の音がL(R)側に混入する度合い。クロストークの信号は、ステレオ感の減少だけでなく、歪みが多いので音質を悪化させることになる。

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少し気を抜いてもいい仕事?に、ラテラル・バランサーの調整があります。アームの右側と左側の重量バランスを揃えるために、サブの重りを付けたり、写真のようにメインウェイトを偏心させ、これを動かしてバランスを取る、もっともらしい構造のアームがあります。
針圧0、インサイドフォース・キャンセラーも0で、アームを宙に浮かせて、プレイヤーを傾けると、アームが左右どちらかに流れる。そこで、バランサーを動かして、流れが止まるように、厳密に調整しないと悪影響が出る!はたしてそうなのでしょうか?
もともと、重量バランスをわざと崩して針圧をかけるのが、一般的なスタティック・バランス型
(*5)です。このアンバランスが、傾いた方向に流す力を生んでいるので、もはやラテラルのバランスなど無力同然なのです。まして、調整後に針圧をかけると、またバランスが狂ってしまう構造のものさえある。針をぶつけて壊さない程度で、ほどほどにしておきましょう!
ラテラル・バランサーを本当に必要とするのは、1点支持型とかSMEのナイフエッジのように、置いただけの微妙な軸受けや、現在では数少ないダイナミック・バランス型
(*6)を完璧に使いこなす場合だけだといえます。

*5) スタティック・バランス型 後部のウエイト等を移動させて、重力で針圧をかける方式。針圧分だけ重量バランスを崩してトレースすることになる。現在の主力製品の多くは、この方式になっている。 
*6)ダイナミック・バランス型 スプリング等の力で針をレコード面に押さえつけて、針圧をかける方式。現在では、オルトフォン、SMEのMarkX、リンのEKOS、イケダ、FRのFR-64S等、少数の製品だけになっている。

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多くのアームには、インサイドフォース・キャンセラーという機構が付いていますが、この調整も訳が分らないとやっかいです。
左図のように、アームの曲げ角度と回転の摩擦で引っ張られて、針が内側に引き込まれる力がインサイドフォース。アームの横流れや針圧の左右不均衡が生じるので、キャンセルする装置が付いている。シカケは糸づりやテコ式の重り、マグネットの磁力などを利用して、引き込まれると同じ力を逆に加えて、引き戻そうという理屈。
力の量はどう測るか?説明書があれば、その目もりを頼りに合わせれば良いし、分からない場合は、下敷きのような平らな板を円形に切って、LPと同じように適正針圧でかけてみる。針は内側に滑っていくので、滑りが止まる量までキャンセラーをかける。こんな雑な調整法で良いのは、もともとLPのミゾは複雑な形状だし、偏心のある盤もあるから、引き込む力は刻々と変化する。どんなキャンセル量を設定しても、正確にはいかないという割り切り方なのです。
一方、キャンセラーの動きには、シカケ側の摩擦による初動感度の鈍さや、重りの質量による慣性や、作用に対する反作用の発生が、音楽のタイミングとズレを生じて、有害無益という意見もあります。
くれぐれも、量を控えめに調整する方がベターです。そして、キャンセラーという厳格な意識ではなく、欧米の呼び方”アンチスケーティング
(*7)というような大らかな考え方こそ大切でしょう。

*7)海外製品の説明書ではバイアス・アジャスター(偏り調整)などとも呼ばれるが、キャンセラーという振りかぶった説明は少ない。

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最後になりましたが、針圧調整。アームによって多少、方法は変りますが、基本は皆な同じです。
まず、針の保護カバーが着脱式ならはずし、インサイドフォース・キャンセラーをかけない状態にして、後部のウェイトを動かし、アームを水平にバランスさせる(これで針圧0)。そこから、スタティック・バランス型ならウェイト(または針圧用のサブウェイト)を前方に動かして、カートリッジ規定の針圧をかける。ダイナミック・バランス型なら、スプリングの力を調整する目盛を動かして針圧をかける。
その針圧は規定範囲の重めが安全だと言われますが、どうもフィーリング的な話が多い。そこで、初歩的理屈から・・・
カートリッジ針の概念図は、左図のように、バネで本体に取り付けられている。バネが伸びきった状態では、針がそれ以上、下に動かないので、適当に押して縮めておく必要がある。これが適正針圧。しかし、LPのミゾから見れば、例えば1gの針圧なら、左右の壁に45度の角度で二分されて、0.7gずつの圧力しか掛からないことになる。また、針がLPのビニール壁を押して、凹んだ面で接することになるが、針圧を増すと、凹みも大きくなって接触面積が増えるため、単位面積あたりの圧力は針圧に比例しては増えない。
凹みは、ある範囲内なら元に戻るので、弾性変形と呼ばれ、LPの色が変る程の圧力で変形させても、一夜で完全に戻ったという報告すらあります。これが、重めの針圧を怖がらないための理論武装。
一方、そ生変形と呼ばれミゾが破壊されて戻らない変形があります。これは、同じ箇所を何度も繰り返してかけたり(スタジオ放出のLPにご用心)、軽すぎる針圧でかけた場合に起りやすい。軽針圧によるミストラッキングは、針が飛び跳ねながらミゾにぶつかっている状態なので、圧力に関係なく破壊・そ生変形が起きてしまう。これが、軽すぎる針圧を絶対に避けるための理屈。
音としては、スクラッチノイズの質が変化したり、高音域が妙に繊細になったように、うっかり誤解することさえあるので要注意です!しかし、こんなところも、アナログの微妙さ、面白さなのかもしれません。
次回は、SMEのアームを例に、もっと本格的な使いこなし術を・・・

 ●参考文献:プレイヤーシステムとその生きた使い方(誠文堂新光社)
  レコードとレコードプレイヤー(ラジオ技術社)
   オーディオソフトウェア講座(共同通信社)他