たんぽぽジェット
パパから手紙がきました。
「しゅうちゃん、おうちのさくらは咲きましたか。こちらではもう海で泳いでいる人もいますよ」
しゅうちゃんはびっくりしました。ぼくは、まだセーターを着ているのに…。
ママがいいました。「パパがお仕事をしている沖縄は南の島だからあたたかいのよ」
「行ってみたいなあ」
「夏休みになったら行きましょうね」
飛行機で行くんだって。早くパパに会いたいなあ。しゅうちゃんは待ちきれません。ジェット機の絵を画用紙にかきました。
「ジャンボだから大きいんだ。エンジンは四っつ。」
白いどうたいにタンポポの花をいくつもかきました。つばさの方にもたくさんかきました。「タンポポジェットのできあがり」
その夜、しゅうちゃんのへやに月の光がさしこみました。机の上におかれたままのジェット機の絵が青白くうかびあがります。やがて、エンジンがうごきはじめました。
「用意はよろしいか? しゅっぱつですよ」
耳もとでささやかれ、おどろいたしゅうちゃんの目の前に、金色の目が光り、はりがねのようなひげを四本ずつ口のりょうがわにのばした顔がありました。
「あ、タマ!」
いつも日なたぼこをしているネコが「どうか、キャプテンとよんでください」といいながら、そでぐちの金すじを見せました。そのすぐあと、キャプテンタマのそうじゅうするタンポポジェットはものすごいスピードで飛び、あっという間に沖縄につきました。
「パパ! 会いたかったよ」
パパはおどろきました。「しゅうじゃないか。ひとりできたのかい? 大きくなったもんだ」
しゅうちゃんとパパは美しい海岸へ行きました。砂の一つぶ一つぶが星のかたちをしています。海はすきとおっていろいろなサンゴが見えました。はるかかなたまで広がる青い水は、とおくで空につながっています。白い砂浜に反射した日の光りが明るいリズムでおどっています。しゅうちゃんはパパの手にぶらさがりながらいいました。
「ねえパパ。ママが迎えにくるまで、ここにいてもいい?」
すると、いつのまにかそばに来ていたキャプテンタマがいいました。
「とんでもない。夜明けまでにかえらないと大変ですよ」
パパも残念そうにいいました。
「かえらないとママが心配するからな。でも、またおいでよ、ね」
しゅうちゃんはママへのおみやげに星のかたちの砂を一つかみポケットに入れました。
タンポポジェットが飛び立ってしばらくすると、しゅうちゃんは眠ってしまいました。どれくらいたったのか、目を覚ますとあたりはしずかです。
「もうついたの?」しゅうちゃんがきくと、キャプテンタマがこたえました。「まだ飛んでいますよ」
「だって、エンジンの音がきこえないじゃないか」
「エンジンはもうとまっています。ねんりょうがなくなりましたから」
「それじゃ、ついらくするよ! かえりのねんりょうをつまなかったの?」
「つみたくても、タンポポジェットは、ねんりょうを入れることができません」
「どうして? そんな飛行機はないよ。」
「しゅうちゃんが、飛行機の絵に、ねんりょう取り入れ口をかき忘れたからですよ」
「大変だ。どうすればいいんだろう」
「心配はいりません。いま飛行機は音もなく飛んでいるでしょう? しゅうちゃんがタンポポの絵をかいてくれたおかげです」
「タンポポの絵がねんりょうになるの?」
「朝になればわかります。でも、少しでも軽くするために、おみやげを捨ててください」
しゅうちゃんは星の砂を空中にまきました。
「しゅうちゃん。いつまでねているの?。いいお天気よ。パパから電話があったわ。しゅうが沖縄にきた夢をみたって」
飛び起きたしゅうちゃんは、にわの芝生を見ておどろきました。「わーい。ぼくがまいた星の砂はぼくんちに落ちたんだ」
「ほんとに、天から星くずがふってきたようね。暖かくなったから、冬の間に芽生えたイヌノフグリが花をつけたのよ」
「あれえ!ぼくの絵、どうたいやつばさにかいたタンポポの花が、いつのまにか白いふわふわに変わって飛行機をとりまいている!」
「わたげよ。タンポポは花がおわると実をむすび白いふわふわのわたげを風にのせてとおくに飛ばすの。ふんわり浮かんで飛ぶのね」