セイちゃんのお迎え

「ねえ、へんだとおもわない?」
「ぜったい、へん!」
「あんなにいやがっているもの」
「たすけなきゃね」
「わたし、こうばんへいってくる」
 ぼくはないた。とてもなきたかったんだ。ママがむかえにこないんだもの。

「もしもし、あなた。そのこをどうしたんですか?」
「どうって、むかえにいったんですよ」
「どこへ?」
「さくらほいくえんですよ」
「ちょっと、こうばんまできてください」
「こんなにないているんで、はやくつれてかえらないと…」
「てまはとらせません。わけがわかれば、すぐすみます」
 へんなぼうしのへんなおじさんが、いろいろしゃべるから、ぼくはないた。へんなところへつれていかれてもっとないた。

「あ、おじいちゃんにひきわたした?そうですか。わかりました」
「ねっ、えんちょうさんも、せつめいしたでしょ?私も、ほいくえんにとうろくしてあるんだから」
「しつれいしました。ぶっそうなよのなかですからねんのため… それにしても、おじいちゃんなのに、どうしてこんなになくんですかねえ。もしかして、あなたにせものでは…」
「なにをいうんですか。わたしだって、なぜなくのか わからなくてこまってるんだ」
 いつまでしゃべってるんだよ。ママのところへかえりたいよう。ぼくはもっとないた。
「おなかがへってるのかも」
「さきほどミルクをのんだと、ほぼさんがいっていたが…」
「おむつがよごれてるのかな」
「なるほど。おまわりさんよくきがつくね」
「わたしにもこどもがいますから」
「あ、うんちがたくさん…。とりかえは、したことがないなあ。おまわりさん、したことは?」
「ありますよ」
「おねがいできませんかねえ」
「いまはちょっと。こうむちゅうだから…」
「そりゃそうだな。これはけいさつのしごとじゃない」

「おたずねします。このへんに、たちばなせいさくじょって こうばがありますか?あら、あかちゃん。あ、だめだめ。そんなやりかたじゃ。ちょっとかわって…」
 なんだかママのようなひとが、やさしくしてくれたので、ぼくはあんしんしてちょっとわらった。
「あれ、わらってる」
「おんなのひとがいいんだ。このこはおとこだからな」
「おんなのこなら、おとこがいいのかな」
「なにをくだらないことをいってるんです。あかちゃんが、あんしんできるかどうかですよ」 
「おせわになってありがとうございました。あの、おたずねの たちばなせいさくじょはうちのちかくですから、もしよければ、ごいっしょしましょう」
「あらよかった。おねがいします」

「いつもおむかえを?」
「いや、きょうはとくべつ。むすめからきゅうなでんわで、かないもるすだったから」
「あれケータイが…。ちょっとしつれいして。はい。 わたし。え、…こまったわ。もういっけんだけしごとがのこってるの。すぐにはむりよ。ねつは?おいしゃさんにつれていかなくては…。できるだけはやくかえるから」
「あなたもおこさんを?」
「ははにあずけてきましたの」
 しごと、しごとってやだなあ。ママはまだかな。もういちどないてやろう。
 
 せいちゃんのなきごえは、そらのうえの『あかちゃんコール』にとどきました。「このこはだいじょうぶ。ママはいえにむかってる」
 せかいじゅうのあかちゃんのなきごえがとどいても、ひとりづつききわけられます。
「このこは、ねつがたかくなっているようだ。びょういんの やかんうけつけがおわるまえにママにかえってもらおう」
 ここは、まいにちおおいそがしです。

「せいちゃーん」
 あ、ママのこえだ。かえってきた。うれしい。ママだいすき! 

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