ミツバチの橋


  その国のまんなかには深い川が流れいくつもの橋がかかっていました。

ある年、いく日も大雨がふって川があふれ、ひとびとはおそれて家の中にとじこもっていました。ようやく晴れ間がのぞいて外に出たひとびとは、橋がみんな流されてしまったのを知りました。鉄の橋もコンクリートづくりの橋も流れの中に脚を残しているばかりです。困ったことになりました。両岸の行き来ができなくなり、国がふたつに分かれてしまいます。

そのとき、喜びのさけび声がきこえてきました。

「ハチの橋が残っているぞ!」

ただ一つ木製の吊り橋だけが残っているのを見つけたのです。

「これで国はひとつにむすばれたままだ」

「古い吊り橋なんて、何のために残してあるんだろうとおもっていたけれど、こういうとき役に立つんだなあ」

こどもたちがたずねました。

「この吊り橋をどうしてハチの橋っていうの?」

町いちばんのお年寄りがこたえました。

「この橋は、ハチの知恵を生かして作られたというむかしばなしがあるんじゃ」

「どんなおはなし?ねえ、はなしてちょうだい。おねがい」

「この橋がはじめて作られた千年もむかしのはなしだ…。じゃあ、はじめるか」

            一

そのころこの国は、川をはさんでにらみ合う二つの国に分かれておった。ときどきあらそいもおきたから、おたがいに攻め込まれないよう用心しておった。だから、橋はひとつもかかっていなかったんじゃ。

川の東がわ、フランツ王のおさめる国に王子がひとりおった。甘やかされて育ったので、とてもわがままなフィリップという王子じゃった。それまで、何でも望みをかなえさせてきたフィリップだったが、とうとうおもい通りにならないことが、ある舞踏会でおきた。

「美しいひめぎみ、ぜひわたしにダンスの相手をさせてください」

「ごめんなさい。あなたとは、おどれませんの」

フィリップはびっくりして、こうつぶやいたそうな。

「なんということだ。わたしをこばむとは…」

そのようすを見ていたのがフィリップの友だちでな、こういったそうな。

「知らないのか。マルガレーテひめはルドルフ王のむすめだぞ。きみとはおどらないさ」

そのひめぎみは、川の西がわ、フィリップの国とにらみあう王国の王女だったのじゃ。生まれて初めて望みがかなえられなかったフィリップは怒ったのなんの。このままではすまさない、といきり立ったということだ。

「わたしをルドルフ王と戦わせてください」

いきおいこんで訴えるフィリップの顔をじっとみていた父のフランツ王は、こういったそうな。

「フィリップよ。わたしのあと王位を継ごうとおもうなら、もっとかしこい王子にならねばならぬ。戦ではものごとは解決しない。戦はにくしみを生むだけだ。長くつづく二つの国のあらそいをなくす方法を考えてみよ。あらそいがなくなれば、マルガレーテひめがおまえをこばむこともないだろうから」

さあフィリップは困った、困った。こんなにむつかしい問題は考えたこともなかったからな。でも、マルガレーテひめの美しい顔もわすれられん。いうことをきかなかったひめさまが気になる。どうしたものか。かんがえながらフィリップは城の中を歩きまわっておった。

「王子さま、どうなさいました?」

声をかけたのはミツバチ係のヨーゼフじゃった。そのころはどの城にもたくさんのミツバチが飼われておった。蜜をとるばかりではないぞ。ミツバチが戦いに役立ったのじゃ。まだ鉄砲や大砲のない時代でな、戦には剣、槍、弓矢が使われておった。そのほかに投げつける武器もあってな。そのひとつがハチの巣だったのじゃ。攻めるほうが城の壁にとりついたところへ投げつけると怒ったハチがとびだす。つくりばなしじゃないぞ。千百年も前の記録が残っているが、イギリスのチェスターを攻撃したデーン族とノルウエーの北欧軍が、巣を投げられハチの襲撃になやまされたと書いてある。ミツバチ係というのは武器をととのえる大切な仕事をしていたのだな。

「二つの国があらそいをなくすにはどうすればいいのだ?」

フィリップにたずねられたヨーゼフはこうこたえたそうな。

「双方がお互いを信じ、助け合うようになれば、おのずからなくなります」

「そんなことができるはずがない」というフィリップに、ヨーゼフは一つの計画をおしえて、こういったそうだ。「王子さまならきっとできます。わたしもお手伝いしますから」

           二

フィリップは、フランツ王に「この計画を進めさせてください」とおねがいにあがった。王は「これはいい考えだ」とおもったそうな。でも、こうもかんがえた。「フィリップひとりなら失敗するだろう」けれども、またおもい直した。「かしこいヨーゼフの助けがあればうまく行くかもしれない。おもいきって王子に苦労させてみよう」

そこでフィリップとヨーゼフはとなりの国へでかけることになった。けれども二つの国をへだてる川を舟で渡ることは禁じられていたそうな。もし舟を出したら両岸から矢がとんでくる。フィリップとヨーゼフは何日もかけて遠い国へ旅をし、そこで浅瀬を見つけてようやく川を渡った。それからまた何日も旅をしてやっとルドルフ王の国についたそうじゃ。旅をしながらヨーゼフからたくさんのことを学んだフィリップは、少しずつ考え深い王子にかわっていったということだ。

さて、ルドルフ王の国について、やれやれとおもったとたんふたりは王の兵士に見つかってしまった。そして、捕らえられて王の前に引きだされたんじゃ。

「フランツ王の王子フィリップだと?この国に何の用があってきたのだ」

「戦をなくすためです」

「なんとたわけたことを…。どうすれば戦がなくなるというのだ」

「王さまの国とわたしの国はとなり同士なのにとても遠い国です。二つの国をへだてている川に橋をかけたら、人も物も自由に行き来できて両方の国がゆたかになります。両国をへだてる川が、ひとびとの心もへだてています。橋ができれば、ひとびとの気持ちもなごみ、おたがいにまじわって信頼も生まれ、おのずからあらそいもなくなるでしょう」

「だまされないぞ。橋をかけてこの国に攻め込もうという計略だろう」

「戦をなくしたい気持ちはけっしてウソではありません。そのしるしに、まずわたしの国の城で飼っているミツバチをすべてさしあげます」

城をまもる武器をわたすというので、ルドルフ王はフィリップの計画をくわしくきいてみる気になったんだな。フィリップにくわしく説明させたあとで王はこうきいたそうな。

「いうのはたやすいが、むつかしい仕事だ。いったいだれが橋をかけるのだ?」

「どうか、わたしフィリップにお命じください。といっても、ひとりではできません。王さまの国のひとびとにも働いてもらわねばなりません。もちろん、わたしの国のひとびとにも」

「おもしろい。やってみよう。まず、ミツバチをすべてひき渡すこと。それから工事にかかれ。ただし、フィリップは橋ができあがるまでこの国にとどまること。もし、失敗したら死刑にする。必死で仕事をすすめよ」

           三

さっそく準備がはじまったのはいうまでもない。ヨーゼフは川の東がわにもどってフランツ王になりゆきを報告し、ゆるしをもらって飼っていたミツバチすべてをルドルフ王の城に運びこんだということじゃ。

それからフィリップと二人で工事の計画を作りあげた。深い川なので杭を打つのもむつかしい。そこで吊り橋をかけることになった。その計画は、すべてフランツ王のもとにもとどけられた。川の両側で工事をすすめなくてはならないからな。

 王は、フィリップのことを心配して、みずから東がわの工事をかんとくすることにしたそうな。川向こうから助けようとおもったのじゃな。

作業の連絡のために両国から一艘ずつ舟を出すこともきめた。電話などない時代だから、いちいちひとが出向かなければならなかったのでな。

「まもなく作業がはじまるが、きっと怠けるものがでてくる。働くひとをしっかり見張らなくてはならない。大男を十人ばかり集めよう」

川の西がわで工事をすすめるフィリップがこういうと「とんでもない」とヨーゼフがこたえたそうな。「そういうやり方ではひとを動かすことはできません。ミツバチの女王は何も命令しないのにハチは自分でかんがえて働いています。けっして怠けたりしません。大勢のひとをまとめてゆくのはミツバチ流にかぎりますよ」

「じゃあ、どうすればいい?」

「まず、くわしい説明をしてよくわからせます。なぜ橋がいるのか。橋ができるとどんなにいいことがあるか。どのような橋をつくるのか。かかる日数、そのあいだの暮らしをどうするのか。全体をみんなに知らせます」

「そのようなことで怠けものがいなくなるのか?」

「大切なことがひとつあります。王子さま。あなたのことをこの国のひとびとは何も知りません。あなたが命令してもだれも従わないでしょう。おもうようにひとを動かしたかったら、ミツバチの女王のように働くひとびとから敬われ愛されなくてはなりません。あなたへの敬愛が怠けものをなくすのです」

「そうか。やってみよう。それで、あとは自分でかんがえて自由に働け、というわけだな?」

「そうはいきません。たくさんのひとが働くのですから、役わりをきめなくてはなりません。ミツバチの巣の中は、巣をつくる建築係、その材料をつくる係、女王の世話をする係、こどもを育てる係、巣の温度をたもつ送風係、掃除係、巣を守る門番、蜜をくさらせないで保存する科学者、蜜を集めてくる係というように、仕事をわりふっています。これもミツバチ流がいいとおもいますよ」

「それはいい。しかし、わりふりはだれがきめるのだ?」

「ミツバチは仕事をじゅんばんにかわってゆきます。巣の中の仕事からはじめ、さいごに蜜をあつめる係になって外にとびだすのです」

「よし、ミツバチ流でいこう。いろいろな仕事をするうちに、だれがどの仕事に向いているかということも、それぞれにわかってくるだろうから」

           四

いよいよ工事がはじまった。石をきりだす係、木をきりだす係、それを運ぶ道をつくる係、木のかわをむく係、ふといロープをあむ係、それぞれに手分けして、計画ぜんたいをおもい起こしながら、みんな働いた。いまなにが必要かをかんがえて仕事をすすめる。そして、ときどき係をこうたいしたということだ。

フィリップは全体をみていた。仕事が早くすすむ係からおくれている係にひとをまわしたり、力の強いひとと手先の器用なひとをそれぞれ得意な仕事にかえるなどしたのだな。調整役ということだ。工事をすすめていると、すり傷や切り傷をつくるひともでてくる。すると、ヨーゼフがハチミツを使って手当てしたということじゃ。ハチミツにばい菌を殺す成分があることをしっていたのだな。

一日の仕事がすむと、フィリップは、つかれたひとびとにハチミツを醗酵させてつくった蜜酒をふるまったそうな。それから、筋肉痛をおこしたひとの腕や足にヨーゼフがミツバチの体からひき抜いた針を刺して手当てしたともいう。

川の東がわでも工事がはじまった。数日ごとに両側の工事のすすみぐあいがみんなに知らされたから、ひとびとは「むこうに負けるな!」「おくれをとるな!」といっそう働いたとつたえられておる。

フィリップは、朝はひとより早く仕事にかかり、それぞれにやさしく声をかけ、小さなことも誉め、はげまし、もめごとを治め、夕方だれよりもおそくまで仕事をつづけた。だれもがフィリップの努力をみとめ、働くひとびとの間で人気が高まっていったそうだ。

お祭りのようなさわぎが伝わって、とうとうマルガレーテひめも様子を見にでてきたそうな。ひめはそのにぎやかな雰囲気がとても気に入った。工事をながめているうちに、あのわがまま王子のフィリップがいつのまにかりりしい若者になって働いているのをみつけたのじゃな。「あんなにすてきなひとだったのか」と心をひかれ、そばにいたくなったそうな。そこで、まいにちフィリップの顔がみられるように、侍女たちにも手伝わせて工事現場の子守り係をひきうけることにした。こどもたちのおやつにはな、ハチミツ入りのクッキーをつくったという。そのおかげで、小さいこどもをもつ母親たちも工事の手伝いができるようになったということだ。

さて、工事はすすんだが、問題もでてきた。

両岸に石組みの塔をたて、そこから川をこえてロープを渡すのだが、このロープはじょうぶな鉄がいいとみんなはかんがえた。しかし、そのころは、じょうぶな鉄線をつくることができなかった。そこまでの技術がなかったのでな。重い鉄のくさりを使うしかない。ところが、くさりを長く伸ばしてゆくと重すぎて両岸の石組みでささえきれないことがわかったのじゃ。

そこで木のつるや木のかわをよじりあわせたロープを渡すことにした。しかし、植物のロープは雨にぬれると朽ちやすいだろう?ながくもたすにはどうすればよいか。ヨーゼフは蜜蝋をぬって防水することを提案したのじゃな。蜜蝋というのは、ハチが巣づくりのためにハチミツからつくる蝋のことだ。そのころは教会のローソクづくりにもつかわれていた。とはいえ長いロープにぬるにはたくさんの蝋がひつようになる。飼っているミツバチの巣だけではたりないぞ、どうしよう?。

「こどもたちに集めてもらおう」といったのはフィリップだったそうな。たくさんの少年少女が集められた。ハチの巣をさがして蝋を集めるためじゃな。

国中から集まったこどもたちに蜜蝋の採り方を教えたあとでヨーゼフはこういった。

「わたしたちは、蝋をハチから分けてもらうのです。けっしてすべてをうばわず半分はのこしてください。そうしないとハチは生きてゆけません。ハチがいなくなると、花から花へ花粉のはこび役がへって木の実も成らなくなります。すると餌がへって鳥が困ります。鳥がへると虫がふえて作物がみのりません。タネが鳥にはこばれることもなくなり、木が生えなくなります。生き物はつながっているのです。ハチも人間も生き物としてつながっていることをわすれないように」

            五

やがて、こどもたちの努力がみのって蜜蝋で防水されたロープが両岸に渡される日がきた。二本のロープで二つの国がむすばれる。「いよいよ吊り橋ができるのだ」と、ながい工事につかれたひとびとも元気をとりもどしたそうな。

両岸が二本のロープでつながれたのをみて、それまで「橋などできるものか」「失敗にきまっている」と工事を横目でみていたひとたちも「手つだわせろ」とおしかけてきたそうな。仲間はずれになりたくなかったのじゃな。そのなかにルドルフ王の王子カールもいた。フィリップの失敗をねがうカールは、こうきいたそうな。

「おい、この橋は王の石像を渡せるくらい丈夫なのだろうな」

「それはむりです。この橋は、ひとりで担げる荷物をもったひとを渡すようにつくられます」

「なんだと!きいてあきれる。そんなものは、おれの国では橋とはよばない」

「重い荷物も渡そうとかんがえると、ぶあつい踏み板がひつようになります。そうなると板の重さだけで橋の中ほどが垂れ下がります。植物のロープで支えきれる重さには、かぎりがあるのです」

「つまり、おまえにはできない、ということだな。やはりおまえは失敗したのだ」

勝ち誇ったカールは、さっそくルドルフ王に告げ口したのだな。王はフィリップを呼んできいたそうな。

「失敗すれば死刑だという王のことばを忘れたわけではなかろうな?」

「よくおぼえています。三日だけおまちください。カールも満足する橋につくりかえる工夫をしてみせましょう」

フィリップのはなしをきいたヨーゼフが知恵をだした。

「いいかんがえがあります。踏み板をハチの巣構造にするのです」

ヨーゼフの提案は、薄い板でつくった中空の六角柱をつないでハチの巣形にし、それを薄い板でサンドイッチのように上下からはさむと軽くて丈夫な踏み板ができるというものだ。ためしに作ったハチの巣板と厚い板をくらべてみると、軽いハチの巣板の方がずっと丈夫なことがわかった。踏み板が軽くなった分だけ重い荷物を渡すことができるわけじゃな。もっとも、この板は雨にぬれると厚い板より朽ちやすい。そこで、すき間にハチが巣づくりにつかうプロポリスというゴムのような脂をうめこみ、ロープと同じように蜜蝋で防水することにしたのじゃ。

三日ののちフィリップは、ルドルフ王の前でこの板の見本をつかって橋の強さを実験して見せた。その結果に王が満足したので、カールはだまるしかなかったそうな。

これまでじっと工事の進行をみてきたルドルフ王は、しだいにフィリップをすばらしい若者だとおもうようになっていたようじゃ。カールの告げ口でフィリップをよんだのも、橋の強さをどう工夫するのか試したかったからなんだな。その答えがみごとな案だったので、すっかりフィリップが気に入ったようなのじゃ。

          六

「橋は、もうすぐできますわね」と、すこしさびしそうにいったのはマルガレーテひめだった。「できるのががもっと先だといいのに…」

「どうして、そんなことを…」

と、たずねるフィリップに、ひめはこういったそうな。

「橋ができあがれば、あなたは川の向こうへお帰りになってしまう…」

「でも、これからは橋があります。いつでも会いにくることができます」

「それでも、いまのように毎日おそばにいて、お顔をみることができませんわ」

「しばらくのしんぼうです。わたしはかならず、あなたを乗せるための白い馬をひいてお迎えにまいります」

マルガレーテひめは目をかがやかせていったそうな。

「きっとよ。その日をまっていますわ」


やがて、両国のたくさんのひとびとの努力で橋が完成した。

それぞれの国のこどもたちをつれて二つの国の王が両岸から渡り初めをし、橋の中央でしっかり手をにぎったということじゃ。

フランツ王がいったそうな。

「これでわれわれ両国は永遠のきずなでむすばれた。これから先両国にあらそいはない」

ルドルフ王がこたえたそうな。

「この橋は永久に両国をむすび、わざわいから救う役割をはたすだろう。そのしるしに、フィリップ王子とマルガレーテの結婚をおゆるしねがえないだろうか」

          七

結婚式で王子と王女は神にこう誓ったということじゃ。

「自然を大切に、生きるものすべてと人間の調和をまもり、ふたりは永久に愛し合います」

華やかな婚礼がすみ、手を取り合って寝室に入ったフィリップとマルガレーテは

「この幸せはミツバチがはこんできたようなものだ」

と感謝して蜜酒で乾杯したという。そして、それを一ヶ月つづけたそうじゃ。新婚のひと月を『ハネムーン』とよぶようになったのは、それからじゃそうな。

まもなくフランツ王は王位を王子にゆずると宣言したという。

「いったい、どうなさいました」とたずねる大臣に王はいったそうな。

「ミツバチの女王はあたらしい女王が生まれる前に巣をゆずって遠くに旅立ってゆく。それがミツバチの子孫をさかえさせるもとになっている。いまやフィリップは立派な王子に成長し、ひとびとをたばね、みちびき、国をおさめることができる力をしめした。老いた王がいつまでも王位にあることは国の発展をさまたげることになる。若い王がこの国をゆたかにするだろう」


新しい王はヨーゼフにこういったそうじゃ。

「賢明なるヨーゼフ。大臣として王をたすけよ」

ヨーゼフはこう答えたそうじゃ。

「わたしはハチに学んだにすぎません。学んだことはフィリップ王にすべておつたえしました。もはや王をおたすけできる知恵はなにも残っていません。わたしは、これからもハチの世話をしてすごしたいとおもいます。どうかミツバチ係をお命じください」

 長いむかしばなしがおわりました。

「このはなしが語りつたえられてゆくうちに、この吊り橋は、いつのころからか『ハチの橋』とよばれるようになったのじゃ」

「橋はもとのままなの?」

「千年の間には何度もかけかえられたさ。でも『この橋は永久に国をわざわいから救う』という王のことばがつたえられて、もとの形がそのまま残されている。踏み板はいまでもハチの巣の形でつくられるのじゃよ。たしかハニーカム構造とかいったな」

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