みんなのあおむし
あたらしい家にひっこしたので、かほは あたらしいようちえんに ゆくことになりました。はじめての日。
「きょうから おともだちがひとりふえます。かほちゃんです」
みんなが かほのかおをみつめています。かほは、けいこしたとおり、おおきなこえでいいました。
「いわなみかほです。なかよくしてね」
かほは まわりを見ました。へやのようすも みんなのかおも これまでとちがいます。なみだがでそうになりました。
そのとき、だれかがせなかをつつきます。かほがふりむくとほそい目のおとこの子がぺろりとしたをだしてみせました。
じゆうあそびのじかんになりました。だれも かほのほうを見ません。ひとりぼっちのかほが すなばにいると、だれかが かほのせなかにすなをかけました。びっくりしてふりむくと、ふたりのおとこの子が「いーっ」と口をつきだしました。
「いじわるしないで!」
へやにもどったかほに、ふとったおとこの子がちかづいて
「これプレゼントだよ」
と、スカートにあおいものをくっつけました。それはゆっくりうごきはじめました。
「きゃあ、きもちわるい!」
さけんだのは、かほのとなりにいたおんなの子です。
「いやだ、そんなむし。みたくない」
まるいかおのおとこの子が おおごえをだしました。かほのまわりに こどもたちのわができました。
「はじめての子をいじめちゃだめだよ」とせのたかいのおとこの子がいいました。「こんなむし ふんずけちゃえ」
「だめ。そんなことしちゃ」とかほがいいました。「このむしは きれいなすがたに かわるんだから」
「うそいってらぁ」
と、おおきい目のおとこの子がいいました。
「ほんとよ。おとうさんといっしょに そだてたことがあるもの」
「うそつき、うそつき」
おとこの子ふたりがおどりはじめ、おんなの子たちはかおを見あわせました。かほの目になみだがうかびました。
「あっ、もしかして…」と、せのたかいおとこの子がいいかけると、「これは はらぺこあおむし?」といろじろのおんなの子がききました。
「そう。あおむし」
「えっ、ほんと?おもしろ―い。どんなになるか、みんなでそだてようよ」
「みんなで、えさをあげなきゃ」
こどもたちはくちぐちに、もってくるえさをいいました。「りんご」「いちご」「オレンジ」「チョコレートケーキ」「さくらんぼのパイ」「アイスクリーム」「チーズ」「サラミ」「「すいか」などなど。
「だめ。そんなものたべないよ」とかほがいいました。
「どうして?えほんのあおむしは たくさんたべたよ」
「ほんとのあおむしは はっぱしかたべないの。あしたキャベツをもってこようっと」
まいにち あおむしのかごをのぞいて こどもたちがいいました。
「つまんなーい。ちっともかわらないよ」
「もっともっとおおきくならなきゃだめ」とかほがいいました。「着ているものが小さくなって四かいも着がえるの」
みんなのあおむしはどんどんおおきくなり、なんども皮をぬぎました。
そして、ある日─
「えさをたべなくなったよ。うごかなくなった。しんじゃうのかなあ」
「おとなになるためサナギになるの。もうすぐ チョウにかわるよ」
つぎのつぎの そのつぎの日のあさ─。
かほたちのへやで ひめいがあがりました。
「たいへん。アリがいっぱいたかっている」
「チョウになりかけたところで しんじゃったんだ。かわいそう」
「どうしてなの?こんなことひどすぎる」
こどもたちに せんせいがいいました。
「サナギからでても、はねがかわくまでとべないの。うごけないうちにおそわれたのね」
「かごをそとにださなければよかったんだ」
「ぼくたちのしっぱいだね」
「わたしたちのせいで しんじゃうなんて」
こどもたちはみんな うしなわれたあおむしのいのちを惜しみました。
「ねえ、もういちどやってみよう」とかほがいうと、「そうだよ」「こんどはうまくやろう」というこえがつづきました。
「こんどこそ、チョウをとばそうね」