平成十三年(2001


壽福寺や記憶の雪の門低く


雪しづく実朝の墓かげりゐて


応募
ラブレター還暦過ぎし筆初め


登頂者の至福魔法瓶(テルモス)湯気立てて


山頂の汁粉大鍋なみなみと


冬萌えや光を糧に吾歩む


嶺吹雪く我が祈りなほ届かざる


黙す人ひとり雪崩の生き残り

ストックに替へて絵筆を春の嶺


雪間より水はるけくも橋洗ふ


この園にわが小道なし浅き春


成せしより為さざる思ふ白玉梅


城ありて商ひ立つる草の餅


六地蔵残し廃道芽木光る


春暮るる釣り糸の先魚跳ねて


お水取り過ぎて句帖も華やかに


代馬(しろうま)の日毎に肥り田植え了ふ


雪渓を映す水田みどり透く


朝焼けて光輝卯波に乗りて寄す


奥多摩夜行登山
夏の星薄明に富士滲み出づ


錨草下山のカメラ引き止むる


芝刈り機過ぎしを追ひて風通る


村廃れ清流淋漓水芭蕉


目が合ひし蜥蜴馳せ去り午後ひとり


苺ミルク匙光る先観覧車


軽鳧(かる)の子の一羽遅れて夕日浴ぶ


雷轟くさだめの扉打つや斯く


激雷に山小屋震ふランプの灯


甲州君恋温泉
「君恋」へ標(しるべ)選びて越す青嶺


樹林帯抜けて清涼風を聴く


木の葉木莵(ずく)しんがりで聴く修験道


相場落つひと扇ぎゐて暑を言はず


緋の衣脱ぎたき日あり花ダリア


覇府遥か涼風過ぐる切通し


安達太良山系箕輪山下山中、家人右脛骨折
山に萎ゆ妻の帽子に赤とんぼ


妻の苦も背負ふ下山や乱れ萩


秋風裡救援のぬし名も告げず


脚萎えの妻の背白しそぞろ寒


臥す妻へ旅の誘い鳥渡る


みちのくの宿へ約問ふ白露かな


歳勝土遺跡ニ句
墳墓みな地に帰し蟻も穴に入る


小かまきり遺跡自衛の濠と柵


隣る葉も己が色染め黄落す


火宅抜け遺跡見てゐる秋日和


蕨山金毘羅社焼失
山神社黙す礎石に初時雨


鋸断ちし木目白々と冬に入る


冬木立甲斐連山を引き寄する


手をとれば小春へ一歩快復期


木漏れ日に二人影伸ぶ冬の坂


眠る山駱駝の色に暮れ残る


鍋囲む陽だまり山行歳つまる


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