朝のエレベーター
「おはようございます」
駅員さんにあいさつして、改札口をぬけた雄太の目の前にプラットホームから降りてきたエレベーターの扉が開きました。
乗りこんだのは、おじさんとおばさんの二人だけ。
おかあさんから
「駅のエレベーターは子どもが使うものではありません」
と言われているけれど、今日は図書室の本三冊ぶんランドセルが重いし
「いいや、乗っちゃえ」
雄太のうしろからもう一人が駆け込んでエレベーターの扉がしまりました。
「うへっ!ケバイお姉さん」
さいごに乗った人を見て雄太はびっくりしました。その人は、雄太が前に博物館で見た大昔の土人形そっくりでした。地面に掘った穴に屋根をかけて人が住んでいた時代の人形です。
説明文には「大昔の人が見た宇宙人の姿ではないかという説もある」と書いてありました。
もりあげた髪、大きな鏡をはめこんだ眼鏡、首から何重にも垂らした金色のクサリ、腕にまきつけたぴかぴかのかざり、雄太の制服より小さなショートパンツ、真っ赤なくつ。
「なんだいそのナリは。恥ずかしくないのか」
と、大きな声でおじさんが言いました。
「このごろの若いひとはねえ、まわりのことはおかまいなしなんだから」
と、おばさんが加わりました。
雄太はふんがいして言いました。
「そんな…。みんなと違う服装だからといって、いじめるのはよくないと思います」
二人はだまりました。そのときエレベーターが止まって扉が開きました。お姉さんはいそいでホームに出てゆきました。
雄太は、おとうさん、おかあさんも卒業した小学校に通っています。乗り込んだ次の駅で本線から分かれて三駅目が終点。駅から学校まで雄太の足で六分です。
いつものように終点で降り、改札口に向かって歩いていた雄太は
「あれっ、やばいかも」
と思いました。あのお姉さんが改札口のそばにいるのが見えたからです。こちらを向いています。
「なにか変…」
でも、改札口はほかにありません。
足どりがにぶった雄太のほうへお姉さんが近づいてきました。思わずあとずさりした雄太に向かってお姉さんは頭を下げて言いました。
「さっきは、ありがとうございました」
あっけにとられている雄太に眼鏡をとったお姉さんは言いました。
「びっくりさせてごめんね。制服を見てこの駅で会えると思ったから待ってたの。きちんとお礼が言いたかったから」
「あの…」
きっと涙のあとでしょう
「目のまわりが少し汚れている」
と言おうとした雄太は、言いかたをかえました。
「あの、さきにトイレに行くと良いと思うけれど…」
あっけにとられているお姉さんを残して、改札口の駅員さんに
「ありがとうございました」
とあいさつした雄太は学校へ駆けてゆきました。
昼休み。雄太は図書室へ借りていた本を返しにゆきました。
「あら、もう三冊とも読んだの?早かったわね。どれがいちばん面白かった?」
と図書先生にきかれて、雄太は答えました。
「『みにくいアヒルの子』です。みんなと同じでないといじめる。人間と同じ話なんだもの」
「そうね、この童話はアンデルセン自身のことを書いたんだという人もいるんだから」
「それより、先生。今日ぼくは妙な人に出会ったんだよ。見かけは昔の人が見た宇宙人。エエッと思うほど変な格好なんだ。けれどホントはとても良い人」
「まあ、何の話かしら」
雄太は朝のできごとを話しました。