八重洲室内アンサンブル:弦楽合奏と協奏曲

作成日:1998-05-09
最終更新日:

総論

以下に述べることは、八重洲室内アンサンブルと直接の関係はない。 そもそもなぜ弦楽合奏なのだろうか。そして、弦楽合奏と協奏曲とはどんな関係にあるのか。 弦楽合奏で協奏曲をしたいと思ったときに、どんなレパートリーがあるのか、 それを知りたくなったので調べてみた。以下、独奏楽器以外の楽器をたんに伴奏と呼ぶ。

弦楽合奏の魅力

弦楽合奏は、クラシックの分野では地味である。どうしてだろうか。

花形はオーケストラで、管楽器、弦楽器、打楽器のすべてが活躍する。管弦楽ともいう。 もう一方の花形は独奏曲や独唱曲である。一つのパートを一つの楽器が弾く重奏曲も奥が深い。 では、管弦打楽器の中で同質の楽器で合奏するのはどうだろう。 管楽器の合奏は吹奏楽と呼ばれる。弦楽器の合奏は弦楽合奏という。打楽器の合奏を表すのは打楽器アンサンブルだろうか。 なお、言うまでもなく女声や男声で合わせるのは合唱である。混声合唱、女声合唱、男声合唱などがある。 打楽器アンサンブルはそのまとめ方が難しいこともあり、ごく少ない。その次に曲も演奏団体も少ないのが弦楽合奏ではないだろうか。

弦楽合奏は構成する楽器の同質性が高い。それが落ち着きを表現するともいえるし、きらびやかさに欠けるとも言える。 作曲家としては腕をふるいにくい分野だろう。それでも、私のように落ち着きのない人間は、 落ち着いた中に華を求める弦楽合奏が好きだ。

弦楽合奏を伴奏とする協奏曲

協奏曲という分野がある。一つ、あるいは少数の独立した楽器が表に出て、オーケストラをあるときは伴奏として、ある時は対等の立場で遇する。 それゆえに独立楽器の輝かしさが特徴である。ふつう協奏曲の伴奏はオーケストラなのだが、ではいっそのこと弦楽合奏にしてはどうか、 と考える人はけっこういた。そのような曲がいくつかあるので紹介しよう。

合奏協奏曲

以下個別の協奏曲を議論する前に、合奏協奏曲の分野を見る必要がある。 これは、個別に見ないとわからない。 ヴィヴァルディはおそらく、協奏曲の伴奏はすべて弦楽器だけだっただろう。

ところが、ヘンデルの合奏協奏曲集 Op.3 では、オーボエ2本が入ったり、ファゴットが入ったり、 フルート(フラウト・トラヴェルソ) が入ったりする。これらの管楽器は一部分で独奏楽器として(一人1パートで)演じる箇所がある。

あと、広い意味ではバッハのブランデンブルク協奏曲も合奏協奏曲の仲間といえるだろう。 第 1 番、第 2 番、第 4 番、第 5 番は独奏楽器が活躍する。

さて御託を並べる前に、ぜひとも訪れてみてほしい WEB サイトがある。弦楽館(gengaku.jpn.org) と名付けられたサイトでは、重奏曲とともに弦楽合奏曲を網羅している。もちろん、弦楽合奏を伴奏とする協奏曲もふんだんに紹介されているのだが、 これから紹介する曲の記載がないのが残念である。わずかではあるが、その補遺と思ってほしい。 以下の紹介で「曲の感じ」の選択肢と「難易度」の選択肢は上記弦楽館を踏襲している(もちろん私は弦楽館の管理人ではないので、ご了承願いたい)。

弦楽器系

弦楽器の独奏

弦楽合奏がバックにいるのだから、弦楽器の独奏というのが一番先に考えられるし、実際に多い。 バロック時代のヴァイオリン協奏曲といえば、ほぼ自動的に伴奏は弦楽合奏となる。 古典期以降のヴァイオリン協奏曲では、伴奏は小規模でも 2 管編成のオーケストラと考えていた。 ハイドンのチェロ協奏曲第1番の伴奏は、ホルン2本、オーボエ2本と弦楽5部である。 ところがハイドンのヴァイオリン協奏曲第1番の伴奏は弦楽器+通奏低音である。通奏低音、ということはチェンバロである。 こちらはまだバロックの名残を引きずっていた、ということだろうか。

古典派以降で弦楽器の独奏、弦楽合奏の伴奏という曲があれば知りたい。

管楽器

合奏協奏曲に関しては先に取り上げたので省く。また、バロック系の協奏曲も省く。 なお、最初に書き洩らしたが、バッハの管弦楽組曲第2番は、 実質上弦楽合奏を伴奏としたフルート協奏曲といってよい。

フルート

ジョリベのフルート協奏曲第1番がある。

オーボエ

ベッリーニにオーボエ協奏曲がある。オペラの作曲家として有名なベッリーニなので意外である。 他にも、イベールのオーボエ協奏曲や、ヴォーン・ウィりアムスのオーボエ協奏曲も伴奏は弦楽合奏である。

クラリネット

フィンジのクラリネット協奏曲が知られている。

ホルン

シェックのホルン協奏曲の伴奏が弦楽合奏である。

ファゴット

残念ながら見当たらなかった。協奏曲そのものではなくとも、弦楽合奏を伴奏にした実質的な協奏曲はありそうな気がする。

サクソフォーン

グラズノフの作品に、アルト・サクソフォーンと弦楽のための協奏曲 変ホ長調 Op.102 がある。

トランペット

調査中

トロンボーン

調査中

チューバ

調査中

打楽器系

シベリウスのアンダンテ・フェスティーボは弦楽合奏のみで行われるのが通例だが、末尾にティンパニを任意で入れることができる。 また、同じくシベリウスのラカスタヴァ(恋人)は、弦楽合奏に加え打楽器としてティンパニとトライアングルが入る。

ヨハン・シュトラウス2世とヨゼフ・シュトラウスとの共作であるピチカートポルカは、 弦楽合奏に鉄琴が入る(私が見た映像ではタンバリンも入る)。

鍵盤楽器系

鍵盤楽器系は、バッハのチェンバロ協奏曲が、弦楽合奏のみの伴奏としては最初で最後かもしれない。 他には、ピエトロ・モンターニ ( Pietro Montani ) のピアノ協奏曲ホ調 (Concerto in MI) というスコアを私はもっている。 1933 年の作で、12 分程度である。これは知られていないかもしれない。

ハープ

ハープを独奏楽器、弦楽合奏のみを伴奏とするのは見当たらない。ただし、ヘンデルのハープ協奏曲は、 オーボエを必要とするものの、オーボエ2本はそれぞれ1stヴァイオリンと2ndヴァイオリンとまったく同じメロディーを奏する。 したがって、音色の問題さえ考えなければ、オーボエ抜きでも可能と考えられる。八重洲室内アンサンブルでは、 ハープ(オルガン)の代わりにピアノで、演奏したことがある。

複合系

管楽器とピアノ

ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番がピアノとトランペット、弦楽合奏という大胆な編成をとっている。 正式な曲名も、「ピアノとトランペット、弦楽合奏のための協奏曲ハ短調」である。 作曲年は 1933年、 演奏時間は約 20 分程度である。 ショスタコーヴィチの多彩な作風のうち、皮肉や諧謔が最も強く出た作品といえる。自作、他作からの引用も多い(が政治的な意図はない)。 また、ショスタコーヴィチに頻出する和声やメロディーの「転び」や「裏切り」も頻出する。 第1楽章の冒頭では、ピアノで下降するハ長調の音階がハでなく嬰ハで宙にうき、嬰ハ長調の音階で上昇したのち和声が G7-Cm で解決する。 何と人を食った出だしだろう。その後の第一主題はベートーヴェンのピアノソナタ「熱情」の冒頭だ。

打楽器と鍵盤楽器

カバレフスキーのピアノ協奏曲第4番はピアノとスネアドラム、弦楽合奏というこれまた大胆な編成をとっている。

プーランクには、オルガンと弦楽、ティンパニのための協奏曲がある。プーランクにしてはシリアスな面が強調されている。

参考サイト


まりんきょ学問所八重洲室内アンサンブル > 弦楽合奏と協奏曲

MARUYAMA Satosi