もう一つの演奏会曲目解説(2008年)

作成日:2023-01-22
最終更新日

以下、解説になっていない解説です。

バッハ チェンバロ協奏曲第 5 番ヘ短調 BWV.1056

1685年は、ドイツでバッハとヘンデルが生まれた年である。 バッハはドイツで教会音楽を多く作り、 ヘンデルはイギリスに渡りオペラに本領を発揮したが、 ともに器楽作品でも傑作を多く残している。

バッハは、チェンバロを独奏楽器とする協奏曲を多く作ったが、 これらはほとんど既存の協奏曲を編曲したものである。 同じ楽想を、独奏楽器の特徴を活かすように編曲することによって、 より豊かな音楽をバッハは切り開くことに成功した。 この精神は今も受け継がれている。

バッハは、 1729 年からの約 10 年間で多くのチェンバロ協奏曲を完成させた。 この期間、ライプツィヒ大学の学生団体である コレギウム・ムジクムで、バッハは指導者として、 また演奏者として活躍していた。

この第 5 番は小規模ながら密度の濃い作品である。 第 1 楽章は、端正な伴奏の上でチェンバロが優雅に振る舞う。 第 2 楽章は、チェンバロの装飾が美しいアダージョである。 この第 2 楽章は、名コーラスグループであるスウィングル ・シンガーズによるスキャット唱法で歌われ、 有名になった。 これは、バッハの時代からの編曲の流れが続いている好例といえる。 第 3 楽章は小気味よいリズムでチェンバロと弦が掛け合う、 楽しい楽章である。従来の版より弦はピチカートが多いが、 これは今回採用した新バッハ全集の指定による。 音色の変化を楽しんでいただきたい。

ヘンデル 合奏協奏曲ニ長調 Op.6-5

ヘンデルは、 本曲を含む Op.6 の合奏協奏曲全 12 曲を 1739 年の秋、わずか1ヶ月で書き上げている。 この旺盛な作曲意欲を支えた背景は 2 つある。 一つは、今までオペラに向けてきたエネルギーを器楽作品に注ごうと決めたこと、 もう一つは、合奏協奏曲という分野で傑作を残したイタリアの作曲家、 コレルリへの対抗意識があったことである。

全 12 曲はそれぞれの個性をもつが、 なかでも本曲はヘンデルの作品の特徴である華々しさと荘重さで、 評価の高い作品である。

全 6 楽章は、緩-急-急-緩-急-緩で構成されるが、 自作の劇音楽を転用したり、 有名な作曲家の楽想やスタイルを取り入れたりしている。 にもかかわらず本曲は、 合奏協奏曲の特性が活かされていて、 ヘンデルの魅力にあふれた傑作となっている。 バッハの作品の解説でも述べたとおり、 編曲行為が音楽を豊かにする好例といえよう。

バッハの場合は演奏による編曲を紹介したが、 本曲では、楽譜に書かれた編曲がある。 現代日本の作曲家である早川正昭氏は、 「日本の四季」と題して、ヴィヴァルディの「四季」同様、 それぞれの季節をタイトルとする弦楽合奏曲を作った。 氏の作品は、日本で歌い継がれている旋律を バロック時代の有名作品のスタイルを取り入れて編曲したものである。 たとえば、「日本の四季」の「秋」の第1楽章は、 文部省唱歌「虫のこえ」の旋律と本曲の第5楽章のスタイルとを組み合わせて編曲している。 両者の冒頭3音が同じであること、ヘンデルのトリルが虫の鳴き声を思わせることから、 よく考えた組み合わせといえるだろう。

以上 2 曲とも、編曲に焦点を当てて解説した。 皆様もオリジナルばかりでなく、編曲に興味を抱いてくだされば幸いである。

演奏会の案内があります。

まりんきょ学問所八重洲室内アンサンブル2008 年演奏会