熱伝導方程式の思い出:日本応用数理学会誌2009年3月号

作成日:2009-11-23
最終更新日:

学生の演習と現場の課題

学生時代は応用物理を専攻していたから、熱伝導方程式を解くという演習も行なった気がする。 そういえば、学生1年のときの物理の実験も思い出した。 レンガに熱伝対を入れて、温度の位相差や温度の立ち上がりの応答曲線から熱伝導率を実験的に測定する、 という、時間がかかる実験も行なった。まだ偏微分方程式さえ勉強していないのに、 熱伝導方程式を解かせるという無謀なことを行なうのか、と憤慨しながらもくもくとデータを取っていた。 1980年代前半のころだ。

その後、1980年代後半から社会人となり主に画像処理の研究開発をしていたが、周辺領域である数値計算にも首を突っ込んだことがあった。 当時の課長が熱が好きで(装置産業にとって、熱と温度は扱いにくいが大事なテーマである)、 いろいろなシミュレーションをポケット電卓で行なっていた。その上司の研究中で、現場で適用され、成功した研究があるからということで、 成果を論文に出すようにある機関から圧力がかかった。さすがにポケット電卓の結果を論文にまとめるわけにはいかないから、 それなりの計算ができる担当者ということで私に指名があった。そこで、現象を理解するために熱伝導方程式と再会したのだ。

それから先は、岩波講座 応用数学 対象の古典物理の数理の項に書いてあることを参照してほしい。 やはり現場は違う、としみじみ思ったのだった。ちなみに、その論文はショートノートの形で、日本応用数理学会に投稿され、 受理されている。私は第3著者となっている。

理論の驚き

今月の本誌でも、熱伝導方程式が何箇所かで出ているが、ある論文では熱伝導率は適当な変数変換で消去した形で扱っている。 その論文を読むと、常識とは想像できないことが書いてある。たとえば、こんなことだ

無限に長い均質な針金を用意する。ある時間t=0において、この針金の位置 x における温度分布が h(x, 0) であるとする。 このとき、時間 t における温度分布 h(x, t) はどうなるか。十分な時間たつと、平衡状態に至るのだろうか。 どうも、h(x, 0) の形状によっては、いくら時間が経過しても、平衡状態に至らないことがあるというのだ。

基礎研究のおもしろさを思いつつ、現場の研究の泥臭さを思い出した。

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