日本応用数理学会誌2004年3月号

作成日:2004-03-30
最終更新日:

行列式とパフィアン(1)

広田良吾氏の解説である。 本稿では、日本の和算家、関孝和が行列式を最初に研究した人物であること、 そして、関の行列式の研究は実際には終結式、 すなわち連立代数方程式が共通解をもつことを調べるための行列式であったことが述べられている。 なぜ連立代数方程式が研究対象となったかというと、『遺題継承』という伝統のためだという。 『遺題継承』とは、ある和算書の問題を後の人が解き、解いた人がその解とともに更に新しい問題を考えて出版する、 その繰り返しのことをいう。

私が驚いたのは、 関は、ある問題の6変数の連立方程式の解法として、 残りの5変数を消去した1変数の方程式が、1458次方程式になることを示したことである。 よく1458という数字が出てきたものだ。

私としては、JavaScript で終結式の計算をするとか、`n` 次正方行列の行列式を計算するとか、 工夫しないといけないのだが、残念ながらそこまでする元気がない。

以下、MathJax の検証を兼ねて、 関による終結式を広田氏の解説に従い記す。

`m` 次と `n` 次の代数方程式がそれぞれ `f(x) = 0, g(x) = 0` で与えられたとする。 ただし、`m >= n` とする。ここで関は、 これらの代数方程式から `n - 1` 次の `n` 個の方程式を導いている。以下、`m = n = 3` とする。 3 次の代数方程式

`f(x) = a_0 + a_1x + a_2 x^2 + a_3 x^3 = 0`, (1)
`g(x) = b_0 + b_1x + b_2 x^2 + b_3 x^3 = 0` (2)

を考える。式 (2) に `a_3` を掛け、式 (1) に `b_3` を掛け辺々引くと `x^3` の項が消える。すなわち、

`a_3g(x) - b_3f(x) = (a_3b_0 - b_3a_0) + (a_3b_1- b_3a_1)x + (a_3b_2 - b_3a_2)x^2 = 0`. (3)

を得る。次に `f(x), g(x)` を書き直して

`f(x) = a_0 + a_1x + x^2 ( a_2 + a_3 x) = 0`, (4)
`g(x) = b_0 + b_1x + x^2 ( b_2 + b_3 x) = 0` (5)

と読み直す。式(5) に `a_2 + a_3x` を掛け、式(4) に `b_2 + b_3x` をかけて引くと `x^3` の項が消える。 すなわち、

`(a_2 + a_3x)g(x) - (b_2 + b_3)f(x) = (a_2b_0 - b_2a_0) + {(a_2b_1 - b_2a_1) + (a_3b_0 - b_3a_0)}x + (a_3b_1 - b_3a_1)x^2 = 0` (6)

を得る。同様に `f(x), g(x)` を書き直して

`f(x) = a_0 + x(a_1 + a_2 x + a_3 x^2) = 0`, (7)
`g(x) = b_0 + x(b_1 + b_2 x + b_3 x^2) = 0` (8)

と読み直す。式(8) に `a_1 + a_2x + a_3x^2` を掛け、式(7) `b_1 + b_2x + b_3x^2` を掛けて引くと `x^3`の項が消える。すなわち

`(a_1 + a_2x + a_3x^2)g(x) - (b_1 + b_2x + b_3x^2)f(x) = (a_1b_0 - b_1a_0) + (a_2b_0 - b_2a_0)x + (a_3b_0 - b_3a_0) x^2 = 0` (9)

(3), (6), (9) のこれらを関は換式と呼んだ。この換式の係数をそれぞれ次のように書き直す。

`A_0 + A_1x + A_2x^2 = 0`
`B_0 + B_1x + B_2x^2 = 0`
`C_0 + C_1x + C_2x^2 = 0`

この換式が解を持つ条件として 3 次の行列式

`|(A_0,A_1,A_2),(B_0,B_1,B_2),(C_0,C_1,C_2)|`

が導入される。(この式が 0 となることが解をもつことの必要十分条件である)。 すなわち 3 次の行列式は三つの 2 次代数方程式が共通解を持つための条件式であった。 現在、このような共通解をもつための条件式は終結式と呼ばれている。

関は行列式は世界で最初に研究した人物として知られている(ライプニッツより 10 年前)が、 終結式の概念の発見も世界初であった。ヨーロッパで終結式が現れるのは関の発見の 80 年後であるという。

論文誌のとびらの言葉

バートランド・ラッセルの「知識と叡智」(Knowledge and Wisdom) という随筆がある。とびらの言葉の筆者にとって、 人生に指針を与える書であると言っている。

さて、「地球シミュレータ」という、速いコンピュータがある。 このコンピュータの性能を活かすためには、 今までの考え方を切替えなければならない。 例えば、今までの高度なアルゴリズムを捨て力任せのアルゴリズムを採用する、 などの転換が必要となる。 これを、ラッセル流に解釈したらどうか、という提案である。

私には、難しい。その場その場で何が適切か考える姿勢を持つ、 それだけで手一杯だ。

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MARUYAMA Satosi