日本応用数理学会誌2000年6月号

作成日:2006-08-18
最終更新日:

逆問題

<特集>逆問題である。私は逆問題ということばに興味を持っているのだが、この特集はほとんど読んでいない。 たとえば、「非破壊検査の数理」という論考がある。読んでみたのだが難物である。 まず、サーマルトモグラフィによる未知境界形状決定を調べてみよう。

サーマルトモグラフィとは、熱の測定によって物体の内部を探ることである。 熱伝導物体内部に欠陥があるとしよう。このとき、物体表面に熱源をおいて, 表面での温度と熱流束を観測することによって欠陥の形状や位置を決定することが、 サーマルトモグラフィにおける逆問題である。

物体は 2 次元に限定し、以下 `Omega` とする。また、定常熱伝導現象を考察することにする。 そして物体の外側の表面を `Gamma` とする。 内部境界、すなわち欠陥表面は自己と交差しない滑らかな閉じた曲線であり、かつ一つのみとする(これを `gamma` とする)。

議論を簡単にするため,物体は一様であり,熱伝導係数などは規格化してすべて1 とする. 外側の境界 `Gamma`は温度が規定されている部分 `Gamma_1` と、 熱流束が規定されている部分 `Gamma_2`に分割されているものとする. さらに,内部欠陥表面を通して熱の出入りはないものとする. このとき, 位置`(x, y)`における温度 `u(x, y)` はつぎの方程式を満たす.

`Delta u(x, y) -= (del^2 u) / (del x^2) (x, y) + (del^2 u) / (del y^2) (x, y) = 0, quad (x, y) in Omega `
`u(x, y) = varphi (x, y), quad (x, y) in Gamma_1`
`(del u) / (del n) (x, y) = psi (x, y), quad (x, y) in Gamma_2`
`(del u) / (del n) (x, y) = 0, quad (x, y) in gamma`

ここで `varphi` は `Gamma_1` で規定された温度, `psi` は `Gamma_2` における熱流束, `del/(del n)` は法線微分を表す。

ここで、`varphi, psi, gamma` が分かっていれば、`u` を求めることができる。これが順問題である。 なお、`gamma` がわかっているとは、`gamma` の位置と形状が分かっていることで、たとえば `gamma` が円であれば、その中心と半径がわかっていることである。

一方、この論文で考えようとする問題は次のようなサーマルトモグラフィによる逆問題である。

『`Gamma'` を `Gamma_1` の適当な部分集合とする. このとき, `Gamma'` での熱流束 `(del u)/(del n) (x, y)` から `gamma` を決定せよ。』

以上が記事の内容の序の口である。ふと思ったことは、「熱流束を測るセンサーがあるのか」ということだった。 寡聞にしてしらなかったが、熱流束を測るセンサーはある。熱流センサーともいう。

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Maruyama Satosi