日本応用数理学会誌1997年6月号

作成日:2006-08-18
最終更新日:

逆問題

論文誌に逆問題を取り扱った論文がある。配管の温度分布履歴逆問題、という表題で、 配管などの外表面のみの計測データから内部の温度分布を非定常状態で同定することを目的としている。 しかし、残念ながら最初の式から理解できなかった。熱伝導方程式なのに理解できないというのは情けない。 さて、まえがきにはこうある。

火力や原子力発電プラントの配管などでは内部の流体温度の変化に伴う配管の温度分布により熱応力が生じる。 また条件によっては熱衝撃になることもある。 このような応力変動による配管の疲労寿命を把握するためには、 その温度分布の履歴を直接監視することが有効である。 このとき、配管の強度を損なわないでこれらの評価を行うためには、 表面温度の計測だけからその温度分布を把握する必要がある。

原子力の安全な運転に、この論文は生かされているのだろうか、心配である。

理解しようともがいてみる

まず、最初の式を写してみよう。自分で意味を補わないといけない。

2次元の熱伝導方程式を考える。時刻 `t` における位置 `bbx` における2次元閉領域 `Omega` の温度 `u(t, bbx)` を求めたい。 ここで境界条件は次の通りである。`Omega` の境界 `Gamma` は、 それぞれ連結な2種の境界 `Gamma_o` と `Gamma_q` に分かれていて、温度 `u_o` と熱量 `q_o` は任意の時刻 t について観測可能である。また、熱伝導率 `k = k(bbx)` も既知である。 すなわち、 熱伝導率 `k > 0`, 観測値 `u_o(t, bbx), q_o(t, bbx)` が与えられている。ここで添字は ゼロではなく、オーである。 次の式を満たす `u, q, f` を求めよ、という問題である。

`(delu)/(delt) = nabla k * nabla u " in " Omega`
`u(t, bbx) = u_0(t, bbx) " on " Gamma_0`
`k(delu)/(deln) = q_o(t, bbx) " on " Gamma_o`
`k(delu)/(deln) = q_q(t, bbx) " on " Gamma_q`
`u(0, bbx) = f(bbx) " in " Omega`

記法

記法はASCIIMathMLを、 表示はMathJaxを用いている。

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MARUYAMA Satosi