COBITを読む

作成日: 2003-08-11
最終更新日:

1. COBITについて

ITC でよく言及される参考資料のなかに、COBITと呼ばれる体系がある。 COBIT とは、 Control Objectives for Information and related Technology の略称である.

ITC のケース研修の終了間際に、COBIT 3rd Edition マネジメントガイドライン(日本語訳)が配付された。 この本では、34のITプロセスを明らかにすると共に、 プロセスをコントロールするにはどのような点に 着目すべきかを述べている.

COBIT の文書は、インターネットから手に入れることができる。 このマネジメントガイドラインも、PDF形式の電子媒体なら、無料である。 一方、日本語訳された冊子も市販されているが、これは 6000 円(税別)である。 英語ができると、少なくとも 6000 円得することができる。

ロゴタイプを見ていると、中央のOBIは両端のCとTより小さめのフォントである。 ここでは、ロゴタイプに従ってみた。

2. COBIT訳文の検討

さて、ITCの本来の姿は、このマネジメントガイドラインを読みこなして、 実務で使いこなすというものだろう。ところが私はできない。いちゃもんをつけてお茶を濁すにとどめる。


p.82 の下から5行目 p.84 「4:管理測定されている」の最後から2番目の行 「退化テストを行っている」とある。この「退化テスト」は、 regression test の直訳であり、テストの名前としてはふさわしくない。 「回帰テスト」または「繰り返しテスト」が適した訳語である。

回帰テストとは、システムのバグを直したときに、 従来のシステムで検証してきたテスト項目が問題ないかどうかを、 再度同じテスト項目で検証することをいう。 「繰り返しテスト」は保田勝通氏が提唱した訳語である。 負荷テストのために繰り返し同じ入力をするテストと混同の 恐れがなければ、回帰テストより望ましい訳語である。

註1:すくなくとも、ISACA(情報システムコントロール協会)内部では、 regression test に対して 「回帰テスト」または「復帰テスト」という訳語を考えているらしい。 コンピュータ用語の英語日本語対照表(Microsoft Word 形式) がある。(2004-07-30)

註2:他のページによれば、「リグレッションテスト」、 「レグレッションテスト」、あるいは「退行テスト」 ということばを当てている。 (2006-10-29)


p.83 KGIの最初のリスト「導入ミスや受入信認のマイルストーンの削減数」はおかしい。 「導入および受入信認のマイルストーンにおける失敗の削減数」だろう。英語では "Reduced number of missed installation and accreditation milestones"である。


p.98 5. 最適化の段落 KGI, KPI と CFS とあるが、最後は誤りで正しくは CSF(主要成功要因)。


p.114 下から2行目 自動分散制御(distribution)は、訳語が不正確。 「自動的な配付制御(distribution)およびアップグレードのプロセス」 と訳すのが、まだましだろう。 なお、ディストリビューションという名前は、 特にLinuxの配付・バージョン管理プログラムの種類を指して使われることが多くなった。


p.121 DS11 成熟度モデルの0:不在の段落、 「データは企業の資源であり,資産であるとは考えられていない」は、 少し不自然だ。 データは資産ではないが、資源である、という意味ではない。 「データは(企業の資源であり,資産である)とは考えられていない」 のようにかかるわけだから、「データは企業での資源・資産であるとは考えられていない」 とすればいい。あるいは少しくどくなるが、 「データは企業での資源であるとも、また資産であるとも考えられていない」 といえばいいだろう。 (ここまで 2003-08-11)


3. KGIとKPI

私はCOBITがわからない。たとえば、KGI (Key Goal Indicators)とKPI (Key Performance Indicators)の区別である。 中身の違いは、goal と performance の違いである。わかるといえばわかりそうだが、 まだ腑に落ちない。そこで、次のように整理することにした。

ある時点 t で測定できるものは、KPI である。KPIは、時間の経過とともに、複数測定しなければならない。 仮に、KPI を、t1、t2、...、tm、と m 回測定したとしよう。 これらのm回から、目標に向う傾向が測定できたとする。これが、KGI になる。

その証拠に、KGI と KPI の書き方をよく見てみると、 KPI は単に「頻度」や「時間」といった絶対量で出ていることが多い。 一方、KGI は「短縮度」や「減少度」というように、相対量や変化量として表されている。 これに気を付けて考えてみれば、KPI から KGI へ、あるいは KGI から KPI への道筋がわかるだろう。

注意しなければいけないのは、 KPI も相対量や変化量として記述する必要が生じることがあることだ。 たとえば、Appendix IV にある「汎用的なプロセスマネジメントガイドライン」を見てみよう。 KPI の一つに 「エラーややり直しの量」とある。 仮に、一年間の始めと終わりにこれらの量を計測していたとしよう。 そして、エラーややり直しの量が1年で半減したとしよう。これはいいことだろうか。 仮にその会社が左前で、受注した仕事の量が半減したとしたら、 実はエラーややり直しの量が半減したからといって喜べないのは明らかだ。

今のはわかりやすい極端な例だが、実際問題、 負荷がベースロードとしてどれほどかかっているかを測定するのは大変だ。 普段の仕事量を把握する仕組みもまた、作る必要がある。

また、成熟度モデルのレベル0の職場では、「エラーややり直しの量」を正しく測ること、 それ自体がKPIとなるであろう。KGIは「把握できたエラーややりなおしの割合」になる。 そのとき「把握できなかったエラー」をどう捉えるのかが重要な問題となるだろう (2004-02-11)。

4. COBIT訳文の検討(続き)

訳文を読んで不思議に思ったことがある。いちいち、能力(キャパシティ)と書いてあるページがある。 少し調べてみると、能力(capabilities)と書いてあるページもあった。 どうして一方がカタカナで、もう一方がアルファベットなのかわからないが、 ともかく能力と訳される単語が少なくとも2種類あることがわかった。 更に調べたら、ability や competence も能力と訳されていることがわかった。 これら4種類の単語の「能力」は、どのような違いがあるのだろうか。

これらについての訳語を考える上で、 柳瀬陽介氏による、 コミュニケーション能力論における「能力」関連諸概念という草稿がある。 参考になるのではないか。(2004-07-30)

5. その後の動き

2014 年 9 月現在、COBIT 5 が最新である。日本語版のフレームワークのみ、PDF で無料で入手することができる。 ただし、電子メールほかいくつか個人情報を入力しなければならない。 また、COBIT 3 でのマネジメントガイドラインに相当する資料は、 COBIT 5 ではどうなったかわからない。少なくともこのフレームワークには、マネジメントガイドラインに相当する項目までは書き込まれていない。 (2014-09-20)。

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MARUYAMA Satosi