変化することとしないこと

作成日:2002-04-07
最終更新日:

1. IT を正しく恐れる

寺田寅彦という科学者がいた。寺田は数々の名言を残しているが、 ここで思い出すのはこんなことばだった。 「物事を必要以上に恐れたり、全く恐れを抱いたりしないことはたやすいが、 物事を正当に恐れることは難しい」 ここでいう物事とはどんなことがあてはまるだろうか。ここではまさに IT というのがぴったりである。 どのようなことを正当に恐れないといけないのだろうか。

2. 見えない姿、聞こえない声

先に書いたように、商売をする上では、お客さんとの応対はもちろん、 取引業者との交渉や相互の受注、発注を欠かすことができない。 こういったときに用いる道具は対面による交渉・商談のほかに電話やファクシミリがある。 電話は姿こそ見えないものの、声の表情があるし、動きがある。ファクシミリは 電話のもつリアルタイム性は少ないが、 印刷された文書だけでなく、手書きの原稿やイラストが送れるので自由度がある。

ところが、電子メールはどうだろうか。添付文書で図や原稿を送ることはできるが、 基本はデジタル化された文書である。顔の表情はおろか、声色もわからないので、 不気味である。

今でも電子メールに慣れていない方がいるのは、当然だといえる。 電子メールばかりの相互交流を不安に感じるのは無理からぬことだ。事実、 メル友との間で仲がこじれて事件になる、ということもある。

3. 不安と過信とのはざま

電子メールに不安を感じる方は、まず顔の見える家族や付き合いのある近所の方と 始めてみるのがいいだろう。最初から利害関係の大きなお客さんや取引先と電子メールで やりとりするのは、荷が重い。

最初は受信から始める。受信ができるようになれば、送信する。送信の文句も、 決まりきったものから始める。「下記の件、了解しました」と「下記の件、詳しく説明願います」 のどちらかでもよい。電話を併用するのもいいけれど、 電子メールの問いかけに対して電話だけでは相互交流はなりたたない。 電子メールには電子メールで回答する、というのが最小限必要な礼儀であろう。

そうこうすると、電子メールも慣れてくる。慣れ過ぎてくる。 電話で面談で催促しなければならないところ、 電子メールだけ出して読んで回答をするのを待つだけの受け身の姿勢になりがちである。 催促はやはり声色のわかる電話、表情のはっきりした面談で行うべきものだ。

そうして、何度も失敗を重ねるうちに、 電子メールと面談、電話、ファクシミリの使い分けもだんだんうまくいくようになる。 それでも、人間関係の修行は一生続く。それは、IT 化が進んで道具が進歩し、 多様になっても、変わらない。

まりんきょ学問所情報技術と経営 > 変化することとしないこと


MARUYAMA Satosi