WINDS OF CHANGE

『ウインズ・オブ・チェンジ』:A:1.ウィンズ・オブ・チェンジ 2.ポエム・バイ・ザ・シー 3.黒くぬれ 4.ペスト 5.イエス・アイ・アム・エクスペリエンスト B:1.サンフランシスコの夜 2.マン ― ウーマン 3.ホテル・ヘル 4.グッド・タイムス 5.エニシング 6.イッツ・オール・ミート

 1967年の2月には、エリック・バードン&ジ・アニマルズはアメリカ・ツアーを行い、その合間にデビュー・アルバム『ウィンズ・オブ・チェンジ』(MGM E/SE4484)のレコーディングを開始している。このセッションは実に6ヶ月にもおよび、その間の4月にはオーストラリア・ツアー、6月にはモンタレー・ポップ・フェスティバルに出演している。この年の6月にはビートルズが『サージェント・ペパーズ』をリリースしており、最終的にはその影響もかなり強く受けているだろう。

ただ、具体的にいつ、どこで、どの曲がレコーディングされたのか、ということについての資料はないから、9月にリリースされるまでの間にどのような過程を経てこのアルバムが作られたのかは、今もって謎だ。この6ヶ月のレコーディングの中からまず8月にアメリカでリリースされたのが、エリック・バードン&ジ・アニマルズ最大のヒット曲「サンフランシスコの夜(San Franciscan Nights)」(全米9位、全英7位)。アメリカでは「グッド・タイムス」をB面にしてリリースされたが、イギリスでは「グッド・タイムス」は「エイント・ザット・ソー」をB面曲に、そして「サンフランシスコの夜」は「Greatefully Dead」をB面としてそれぞれ別々にリリース、「グッド・タイムス」は全英20位のヒットとなっている。「エイント・ザット・ソー」は日本とアメリカでは「モンタレー」のB面としてリリースされているが、「Greatfully Dead」はイギリス盤シングル「サンフランシスコの夜」のB面としてしかリリースされていない。いずれもシングルのみのレアな曲だが、「Greatfully Dead」はブートレッグ『Animalistic』で聴くことができる。「サンフランシスコの夜」は、ヒッピーたちの都と化したサンフランシスコ賛歌。「includes indians」という歌詞に、エリックの人種を越えた友愛を求める思想が感じられる。「グッド・タイムス」は、エリック・バードンがアルコール漬けだったニューキャッスルでの日々を後悔して歌ったものだと言う説もあるが、大酒のみの日々を、この頃のアシッド漬けの日々と比べたものだ、という説もある。「When I think of all the good times that I've wasted,having good times」という歌詞は、今も僕が大好きで、しかもどう解釈すべきか悩み続けている歌詞だ。無駄に過ごしてしまった「グッド・タイムス」というのは、酒びたりの日々を指しているという解釈で間違いはあるまい。そんなことをしている間に、もっとできることがあっただろうに…と考えているとき、アシッドで「グッド・タイムス」を過ごしているのだとしたら、なんと皮肉な話だろう。もっとも、アシッドをすばらしいものだと考えていたとしたら、一気に胡散臭くなってしまうけれども。ちなみに、この曲で酒飲みの日々を表すために使われている効果音は、フランク・ザッパの「America Drinks & Goes Home」で使われている効果音と同じ。トム・ウィルスンがらみでこのようなことになったのだと思うが、チェックしてみるのも面白いかもしれない。

 1967年9月、ようやくエリック・バードン&ジ・アニマルズのファースト・アルバムが発表される。それは彼らが活動を開始してから、11ヶ月も経ってからのことだった。

このアルバムからは、各国ともに同じオリジナル・アルバムがリリースされるようになっているのだが、それでも多少の違いはあるので、簡単に説明しておこう。まず、アメリカMGMからリリースされたオリジナル盤は、見開きにエリック・バードンからバンド・メンバー、プロデューサー、ロード・マネージャーへのサンクス・ワードが書かれたダブル・ジャケット仕様。イギリスでは、これがシングル・ジャケットになり、見開きのメッセージがジャケット裏に記載されていたが、写真の類はすべてカットされていた。日本国内では、『サンフランシスコの夜』(MGM/日本グラモフォン SMM1152)というタイトルで、同じジャケットを使用してリリースされていた。しかし、アメリカ・オリジナル盤にあったメッセージは記載されず、しかもジャケット裏は全く違うデザインになっている。さらに不可解なのは、A面とB面が完全に逆になっていることだ。察するに、このアルバム最大のヒット曲、「サンフランシスコの夜」をA面にしたかったのだろうけれど…。この時期の国内盤には、ときどきこういうおかしな編集(?)をしたものがみうけられる。


『ウィンズ・オブ・チェンジ』は、エリック・バードン&ジ・アニマルズのアルバムの中では最も頻繁に再発されているものだが、残念ながら、その出来はお世辞にも良いとは思えない。正直な話、僕がこのアルバムで好きなのは、ストーンズの「黒くぬれ」のカヴァーと、「グッド・タイムス」くらいのもので、他の曲については積極的に聴きたいと思うことはほとんどない。初めてこのアルバムを聴いたとき、「これが、アニマルズ?」という意味での驚きはあったが、内容的には何の驚きもなければ、楽曲自体、それほどの魅力も感じられなかったのだ。「黒くぬれ」を除くすべての曲にメンバー全員の名前がクレジットされているのも、なんだか素人くさい感じがして、いやだった。全アルバムを通して聴けるようになったのは、本当にここ何年かのことだ。そして、僕が最終的に得た結論は、『ウインズ・オブ・チェンジ』はアルバムとしては決して成功作ではないが、エリックの心情を知るうえで、興味深いメッセージだったということだ。


「ウィンズ・オブ・チェンジ」では、デューク・エリントン、ロバート・ジョンソン、ビリー・ホリデイからチャック・ベリー、エルヴィスを経てビートルズ、ストーンズ、そしてフランク・ザッパやジミ・ヘンドリクスへと至るロックの「変革」が語られている。このタイトル・ソングが最初にきていることから分かるのは、エリック・バードンはまわりが変化していく中で、自分たちもまた変わるのだ ― いや、変わらなければいけない、と考えていたことだ。「ポエム・バイ・ザ・シー」「ペスト」「ホテル・ヘル」から分かることは、エリックは思想的に、無常観のようなものを強く持っていただろうということ。ドラッグの他に、東洋思想や宗教のもつ死生観にかなりの影響を受けていたものと思われる。A面最後の「イエス・アイ・アム・エクスペリエンスト」は、ジミ・ヘンドリクスの「アー・ユー・エクスペリエンスト?」へのアンサー・ソング。エリックがジミにかなり心酔していたことがわかる。「マン ― ウーマン」「エニシング」は、サマー・オブ・ラヴに傾倒していたエリックの心情を赤裸々なまでにさらけ出していて、聴くのが恥ずかしくなるくらいだ。「イッツ・オール・ミート」は、このアルバムの最後を飾る歌であると同時に、個人的には最も注目すべきではないかと思う歌。ここでは、マディ・ウォーターズ、ジミー・リード、レイ・チャールズといったエリックのアイドルたちとともにラヴィ・シャンカール、エリック・クラプトンの名が語られ、「it's all meat, on the same bone」と歌われる。「Don't you listen to none of them jive, hip squares try to tell you where the blues is from, 'cause the blues is from the whole wide world, deeper than the soul of man」という歌詞からは、次のことが想像できる。まず、エリックは、ブル−ズは決して黒人に特有の音楽ではなく、誰にでも ― 自分にでも、歌えるものだということを主張している。黒人の音楽とか、白人の音楽とか、そういったものはブルーズという骨についた肉の違いであって、骨 ― つまり、根幹となる部分にそんな差別はないのだ、と。そして、どんなに表面が変化して見えようと、骨となっている部分は同じなのだ、ということ。だから、自分は黒人音楽を捨ててサイケデリックに走ったのではなく、サイケデリックを演奏する自分もまた、骨である部分がブルーズであることには変わらないのだ…という主張だ。エリックは黒人になりたかったとよく言われているが、僕はむしろ黒人だとか白人だとか、その他の人種も含めてそんな差別が存在して欲しくないという思想を、自分の歌にこめていたと考えたい。最初はもちろん黒人音楽への憧れがきっかけだったと思うけれども、やがてそんな差別をなくしたいという思いが、彼をサマー・オブ・ラヴの動きに傾倒させる理由となったのではないだろうか。

ERIC BURDON

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