THE TWAIN SHALL MEET

『ザ・トゥエイン・シャル・ミート』:A:1.モンタレー 2.ジャスト・ザ・ソート 3.クローサー・トゥ・ザ・トゥルース 4.ノー・セルフ・ピティ 5.オレンジ・アンド・レッド・ビームズ B:1.スカイ・パイロット 2.ウィー・ラヴ・ユー・リル 3.オール・イズ・ワン

『ウィンズ・オブ・チェンジ』に続いてエリック・バードン&ジ・アニマルズがリリースしたのは、シングル「モンタレー / エイント・ザット・ソー」(1967年11月、全米15位)だった。アメリカ盤シングルのファースト・プレスは、B面曲を「エイント・イット・ソー」とクレジットしてあるらしいのだが、手元に無いので確認はできなかった。国内盤はこのアメリカ盤に準じた形でリリースされているが、イギリスでは発売が遅れ、翌1968年5月、「エニシング」をB面にしてシングル・リリースされている。モンタレーとは、言うまでもなく1967年6月、モンタレー・ポップ・フェスティバルのこと。エリックが感銘をうけたアーティスト達の名が歌われ、そしてその度に、それぞれのアーティストを思わせる演奏が随時挿入されている。単純にこのフェスティバルに感動したともとれる内容だが、エリックの「If you wanna find a truth in life, don't pass music by」という言葉には、音楽の力で、世の中を変えることができる、という思想を持っていたことが見てとれる。まさにエリックはこのとき、ヒッピーたちの中に身を投じ、サマー・オブ・ラヴを高らかに宣言していたのだ。その考えは、次の『ザ・トゥエイン・シャル・ミート』(MGM SE4537)によりいっそう明らかとなっている。

『ザ・トゥエイン・シャル・ミート』は、まずアメリカで1968年3月にリリース。イギリスではそれに2ヶ月遅れの5月にリリースされている。イギリス盤オリジナルは手元にないので確認がとれないのだが、アメリカ盤オリジナルではタイトルを記載した面が裏側に来るようなデザインになていた。今再発されているCD、または独ポリドールから再発されたレコードは、すべてタイトルを記載した面が表になっている。万華鏡のようなモザイクの中に、表と裏に色違いで同じものが配置され、ジャケットの中央右よりのところには、このアルバムのテーマとしてエリックが考えていたという

「Peace, Games of life, War, Aftermath, Realization, Awareness and a reprise on Peace」

を表すデザインが施されている。 ところが、国内盤では『野生の若者たち』(MGM/日本グラモフォンSMM1161)というタイトルで、何故かアメリカ盤『Eric Is Here』のジャケットが使われていた。日本のレコード会社は、あまりこのアルバムの内容については考えていなかったようだ。


当初は『Man Going To War』というタイトルが予定されていたというこのアルバムは、ファーストに比べると地味だが、だいぶまとまりのある構成になっている。先に述べたテーマにもとづいてアルバムを制作した成果だろう。その一大コンセプト・アルバムのオープニング・チューンは、「モンタレー」。エリックがモンタレー・ポップ・フェスティバルを単なる音の祭典以上に考えていたことが伺える。「ジャスト・ザ・ソート」と「オレンジ・アンド・レッド・ビームズ」は、ヴォーカルをエリック・バードンではなく、ダニー・マッカロックがとっている。「オレンジ・アンド・レッド・ビームズ」はダニーのソロ・アルバムでも演奏されており、このことから、この2曲は彼の作品だったことがわかる。内容としては、いかにもサイケデリックな、不条理な世界が歌われている。「クローサー・トゥ・ザ・トゥルース」、「ノー・セルフ・ピティー」には、やはり東洋思想的な視点から、宇宙の真理に近づこうとするエリックのメッセージが込められている。A面の構成は、前作の『ウインズ・オブ・チェンジ』のメッセージをさらに発展させたものとして考えることができるだろう。そしてそのメッセージは、B面において具体的に「反戦・平和主義」として現れてくる。


「スカイ・パイロット」(sky pilot=従軍牧師)は、当時アメリカが引き起こしたベトナム戦争を背景にした、痛烈な反戦歌。「Sky pilot, how high can you fly? You never reach the sky」という一節は、我が国の与謝野晶子の「君、死にたもうことなかれ」の一節、「すめらみことは…」を思い出させるものだ。間奏での効果音が戦場での焦燥感、不安感、絶望感を演出し、バグパイプの音色は宗教的な祈りを連想させる。「ウィー・ラヴ・ユー・リル」とは、反戦歌として有名な「リリーマルレーン」を題材としたもの。しかし、平和への祈りというよりは、戦争の絶望的な悲しさを連想させる曲だ。最後にエリックは、「オール・イズ・ワン」で「I am part of you, you are all of me」と歌い、すべての人に友愛と平和を訴えている。「Twain Shall Meet」 ― このタイトルはつまり、分かれている人々(Twain=Twoの古語)に、ひとつになって欲しいという願いをこめたものだったのではないだろうか。そう考えると、この奇妙なジャケット・デザインも納得がいく。エリックの姿勢は、不器用なまでに真摯なものだった。だが、それが受け入れられたかといえば、それははなはだ疑問だ。

ちなみに、これは国内盤のジャケット。

野生の若者達(JAPANESE EDITION OF "THE TWAIN SHALL MEET")

ERIC BURDON

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