5.引越し大作戦

  そうときまれば、実行あるのみ。

 実家の両親は、不安定な生活をしている次男が安定している長男と一緒に
住むと言うのだから、万万歳だ。もちろん、「俺のアパート潰れんねんで」
などという、無粋なことは一言も言っていない。

…さて。

 まず、兄の住居に居候するのなら、白物家電、昔なら「三種の神器」は
必要ない。…わからない世代の為に説明すると、冷蔵庫、洗濯機、テレビ
(あ、テレビは白物と違うか)。そして、ステレオは二人で1セットにまと
めればいいから、パワーアンプは売り、売り物にならない貰い物のCDプレー
ヤーは捨て、スピーカーは自分の物を兄に献上し、兄のスピーカーは捨てて
もらうことにする。随分惜しいが、止むを得ない。

 次に、漫画。大量にあるのだが、どうするか。

 「んー。やっぱ『鉄人28号』は、売ったら最後だよなあ。」

○文社のいいかげんな文庫版全25巻のことだ。これが現在唯一のまともな
復刻だとしたら、横山光輝先生も浮かばれない。本当に、何とかして欲しい。
…まあ、とにかく。これは田舎へ送ることにした。ほとんどの漫画は、同じく
田舎送り。桑田次郎の漫画など、泣く泣く送ることにする。みんな、すまん。

 次に、CD。これはソフトケースのおかげで、スペースは約3分の1。それで
も多いが、持っていけないことはない。レコードは、散々悩んだが結局売ら
ずにおいた。これは、後に批判の対象となる。

 ビデオは、随分棄てた。カセットも、棄てまくった。LD、DVDは全部残した。
そもそも、最低限のものしか買っていないからだ。

 本は、大半を田舎送りに。一部、手元に置いておきたいものだけ残すことに
する。オーディオは、アナログ関連のものとLDプレーヤー、カセットデッキを
残しておく。後でアンプ付ヘッドフォンを買って、レコードは一人でも楽しむ
ことができるようにしよう。そうしよう。

 イス、テーブル、机など、家具は全て棄て。パソコンラックだけは、机代わ
りにもなるので残しておく。本箱なんかは皆棄てだ。もっとも、とびきり安く
買ったCDラックは勿体無いので、ばらして運ぶことにする。台所の押入れの
隙間に、うまく納めることが出来るだろう。と、ここまで仕分けたところで…

「…棄てるものだけでも…」

ざっと、2トントラック1杯分くらいはあった。誇張ではなく。引越しならば
出て行くときに合わせて自治体の清掃局に頼めたかもしれないのだが、まだ時
間があったので重要度の低い物から少しづつ棄てていくことにする。
雑誌等は、持っていくところへ持っていけば雀の涙ほどのお金になりそう
だったが、面倒なので棄てた。勿体無い話だが、このときはそうも言って
いられなかった。棄てたくは無いが、手元に残す必要はないと判断したものは、
漫画同様、徐々に田舎送り。帰省したときにでも、整理するとしよう。

 ばしばし棄てる、送る、という作業を進めていたある日。田舎の親父から電話が入った。

「なんや、これ?いらんもんか?」

「え?いや、棄てたくないから送ったんやけど。」

「そうか。いらんもんは棄てろよ。」

「いや、そやから。」

 不安は絶えなかった。

続く