「…あれ?」
メンフィスの入り口付近。そこで、道に迷った。
それも、ただ迷ったのではない。3人いる中で、唯一刀舟だけが
興味を示していたグレイスランド。そこへ行く道に迷ってしまった。
しかも、当の刀舟は、まるで地図が読めなかった。
「針の筵って、こんな状態のときに使う言葉だろうか」
それは後から思うこと。このときは、ただただ気まずかった。
しかしまあ、それでもなんとかグレイスランドに到着。相変わらず、
素で期待しているのは刀舟のみ、あとの二人は気の無い様子だ。特に
マークさんは、「美空ひばり記念館とか行くみたいなもんじゃないで
すか」と、あからさまに「カッチョ悪いから嫌だ」と言わんばかりな
様子だ。どのタイミングだったか、S吉が言った次の言葉が、今も僕
の耳にこびりついて離れない。
「いや、プレスリーって、カッコ悪いってイメージあるからな。」
…。
何か1枚、エルヴィスのCDでも持ってきておけば良かった。いや、
それでも彼らにはウケないかもしれない。そうなると余計落ち込む
から、ここは何と言われても我慢しよう。
とにかく、僕はエルヴィスが好きだし、だからこそせっかくだから
ちょいと寄ってみたいなと、そう思ったのだ。それだけのことだ。
そんな嫌そうな雰囲気の中、とにかくグレイスランド見学ツアーに
参加。ツアーの形式は、まず受付で入場チケットを購入。チケットは
確か3種類、見学できる記念館等の種類と数で区別されていた。ちょっ
と考えたが、そんな大した金額の差でもないので全部回ることの出来る
チケットを購入。見学先の数だけ切り取りのできる札がついていて、
それぞれの建物に入場する毎に札をちぎって渡すようなものだった。
その後、確か順番を待ってグレイスランドを回る巡回バスへ。その列
に並んでいる間だったか、乗り込む前には順番に記念撮影をする準備
がグレイスランド経営者(?)のサービスによって行われていた。撮影
は無料だが、出来上がった写真はもちろん有料だ。なんか乗り込む人が
皆撮影しているので、まるで義務のように撮影してもらう一行。もう、
すっかり観光地のおのぼりさん状態だ。
そんなこんなで他の二人の機嫌が直るどころかますます気まずくなっ
たまま、ようやくグレイスランドへ。そして、そこは…
…正直、あまり覚えていない。
まず、今となってはそれほど凄い、というような豪邸ではなかった。
もちろん、今も昔も相当羽振りが良くなくては住めないような家だ
けれど…。よく覚えているのは、テレビが3台並んだ部屋。今となって
はどうということのない大きさのモニターが並んでいるだけだが、当時
としては贅沢なことだったに違いない。
居間なのかなんなのか、他の部屋にもテレビが1台。テレビのある
部屋が二つもあるなんて!でも、今は子どもの部屋にもテレビがある
時代なんだよなあ。そんな贅沢させるから、子どもに堪え性が無く
なってきているのではないだろうか。いや、それはさておき。
他の二人、いやS吉も多少興味を持っていたと思われるのは、
エルヴィスの乗った車。結構写真を撮ったけれど、ここでは代表して
キャディラックを。
で、他にもいろいろ記念品を置いた建物とかにも入ったけれど、他
の二人は一向に盛り上がらない。特にマークさんの嫌がりようときたら、
もうなんと言うか…「俺、そんな悪いことしましたあ?」と真剣に
問い詰めたくなるようなものだった。結局、あまりに嫌そうなのですべて
は観ずに引き上げ。見てないから違うかもしれないが、トロフィーだか
何だかを並べている建物に向かって、「誰が見るか、そんなもん」と
吐き捨てるように言っていたマークさんの姿が今も脳裏に焼きついて
離れない。悪口言うのは嫌だが、これは勘弁して欲しかった。
そういえば、やはり観なかった自家用機(チケットに札が残っている
のは、そのため)の前で、S吉が「プレスリーって、これに乗って自分
の好きなドーナツ買いに行ってたんやろ?」と言っていたことを思い出
した。エルヴィスのイメージなんて、そんなものなのだ。そのことを、
改めて実感した。
続く