「トースト。何もつけずに、すっぴんで。」
そう言ったのは、エルウッド・ブルーズだったろうか。今回は、
今一番ホットな朝食についての話を紹介しよう。
ニューヨークに滞在したのはほんの3日間だったが、その間、
朝食は毎回「ハンター」とかいう名前のカフェで摂った。朝食
メニューにはいくつかのコースというか、セットがあり、マフィン
だったりトーストだったり。カリカリのベーコンに目玉焼き又は
スクランブルエッグ、ソーセージにコーヒー、オレンジジュース。
ううん、全くイメージ通り。ただ、アメリカ人が食い物にやたら
ケチャップをつけるのは意外だった。ケチャップの容器は、口の
小さな寸胴のガラス瓶。はて、どうやって出すのだろう?
S吉「このケチャップはな、叩いてもでてけえへんで。ナイフで
ほじくってええねん。これがわかるまでにしばらくかかったわ。」
異文化の中で暮らすのは大変だ。
朝食といっても、アメリカ人の食事は大味だ。というか、めちゃ
くちゃ量が多い。はっきり言って、残して捨てることを前提にして
いるとしか思えないほど量がある。しかもジャンク度高し。太って
早死にするわけだ(をい)。
初日の朝に何を食ったかは忘れたが、この日はホットケーキの
セットを頼んだ。それが一番食いやすそうに思えたからだったと
思う。
ウェイトレスのおばちゃんが持ってきてくれたトレーには、4段
重ねのホットケーキと…あと、何があったかは忘れた。確かベーコン
にスクランブルエッグを頼んだと思う。ホットケーキには、バター
が切ってのせてあり…あれ?
「…シロップがないな…。」
ちょっと迷ったが、なに、ここは異国の地。ホットケーキくらいバター
だけで食うのかもしれないと一人合点し、バターを伸ばしてケーキに
くらいついた。
ケーキを食う。ばくばく食う。もぐもぐ食う。
8合目くらいまで行ったところで、S吉が宇宙人を見るような面持ちで
こう話し掛けてきた。
「…なあ、刀舟、シロップつけへんの?」
無いものをどうやって、などと思いながらふっと顔をあげる。そして
S吉の目線の先に目をやってみると…。
「…これ、いつからあったん?」
「最初っからあったって。」
そこには、シロップの瓶が置いてあった。
「え?いや、確かに無かったで。」
「あったって。」
いや、無かった。誰が何と言おうと、それはそのとき、突如として視界に
現れたのだ。
「はっ…こ、これは無角?」
なにー、無角だとぉー!?
無角…盲点を狙って手裏剣を投げつける技。技をしかけられた側は、
あたかも手裏剣が消えてしまったかのように見えるため、これ
をかわすことは至難。伊賀最強の下忍、四貫目が編み出したと
言われている。その技の継承者は不明だが、一説には手裏剣の
達人として名高い毛利玄達が無角の使い手だったとか…。
(民俗書房『日本の古武術 其の四 手裏剣』より)
「いやー。刀舟、ほんまボーっとしてんなあ。」
…早よ言ってよ…。
残りのケーキには、シロップをつけて食った。