LOVE IS

『ラヴ・イズ』(MGM SE4591-2)A:1.リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ2.アイム・アン・アニマル3.アイム・ダイイング・オア・アム・アイB:1.リング・オブ・ファイアー2.カラード・レインC:1.ラヴ・サムバディ2.時は流れてD:1.ジェミナイ ― マッドマン


『ラヴ・イズ』は1968年10月、ハリウッドのサンセット・スタジオで録音されているが、詳細な日時については不明。エリック・バードン&ジ・アニマルズ初の2枚組オリジナル・アルバム(CDでは一枚に収まっている)となっており、内容的にも、そのボリュームに見合うだけの密度の濃い傑作だ。このアルバムは、一曲あたりの演奏時間がながくなっているが、これは録音したものが2枚組には短く、かといって1枚では収まらなかったので、無編集でリリースすることによって2枚組としての体裁を保ったためだと言われている。ところが、イギリスでは「時は流れて」と「ジェミナイ ― マッドマン」を割愛して、一枚のLPに編集した形でリリースされてしまっている。

『エヴリ・ワン・オブ・アス』がリリースを見送られたことといい、イギリスではエリック・バードン&ジ・アニマルズのプロモーション活動はほとんどまじめになされていなかったと言えるだろう。もっとも、『ラヴ・イズ』がリリースされた12月(日本では翌年1月)にはエリック・バードン&ジ・アニマルズは既に解散していたし、エリック・バードンはこの頃行われたオリジナル・アニマルズ再結成時に、「ポップ・ミュージックの世界からは離れて、映画に専念したい」というような発言をしているから、レコード会社がプロモーションを真剣に行わなかったとしても無理のない話ではある。


「リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ」は、アメリカのヒット・メーカー、バリー&グリニッチ作、フィレス時代のアイク&ティナ・ターナーのヒット曲。エリック・バードン&ジ・アニマルズは、スペクター・サウンドの典型とも言えるこの曲を非常に鋭角的な演奏でカヴァーしている。疾走するようなギター・プレイとエレクトリック・ピアノが曲の躍動感を生み、豊かな奥行きを感じさせる。

唯一の自作曲となる「アイム・ダイイング」は、エリックとズート・マネーの輪唱や、バンド・メンバーの乾いたコーラスによって、アシッド・ロックとも言える奇妙な雰囲気をかもしだしている。おそらくは様々なプレッシャーにさいなまれていたエリックが救いをもとめるかのように歌ったものではないだろうか。

「リング・オブ・ファイアー」は1963年、カントリー歌手のジョニー・キャッシュがヒットさせた曲。しかし、アニマルズのカヴァーは原曲の持っているイメージを完膚無きまでに叩きのめしている。ジョニー・キャッシュのヴァージョンは、実にのどかで晴々とした恋の歌といった感じだが、エリック・バードンの歌唱は狂おしくも切ない恋を感じさせる。

「カラード・レイン」は、トラフィックのナンバーとして有名な曲だが、アニマルズのカヴァーもまた素晴らしい。この魅力的なギター・ソロを弾いているのは、誰あろうアンディ・ソマーズだ。

「ラヴ・サムバディ」は、ビー・ジーズのヒット曲。数多くのアーティストがこの曲をカヴァーしているが、エリックのソウルフルなヴォーカルもまた、この曲に実によくマッチしている。もっとも、人によってはあまりにも大げさで仰々しいと感じてしまうかもしれないけれども…。

ブルース・ナンバー「時は流れて(As The Years Go Passing By)」は、ダブル・ギターのアドリブやワウ・ペダルを使用した表情豊かな演奏に加え、エリック・バードンの本領発揮といった、感情をため込んで歌い上げる絶品のヴォーカルを味わうことのできる名演奏。この曲こそエリック・バードン&ジ・アニマルズの最高傑作だと言う人が多いのもうなづける。

しかし、このアルバムで特に注目度が高いのは、やはり「ジェミナイ ― マッドマン」だろう。全長17分あまりにも及ぶこの大作は、趣向を凝らしたこのアルバムの中でも、特に変化と仕掛けに富んでいる。S.ハモンド作とクレジットされた「ジェミナイ」は、スタジオ録音こそ残ってはいないものの、ダンタリアンズ・チャリオット時代のズート・マネーとアンディ・ソマーズにとってはほとんど必須のレパートリーだったという。「マッドマン」は、ダンタリアンズ・チャリオットがリリースした唯一のシングル曲。ほんの少しテンポが早くなり、リード・ヴォーカルをエリック・バードンがとっていることの他はほとんどそのままのカヴァーだ。このことから、「ジェミナイ ー マッドマン」は、ズート・マネーとアンディ・ソマーズがダンタリアンズ・チャリオット時代にはひとつの作品として完成させられなかったものを、この場において完成させたものだと考えることが出来る。

そして、エリックの個性はここではそれほど強く感じられない。そしてそれはこのアルバム全体を通しての印象でもある。『ラヴ・イズ』はとても出来の良いアルバムだけれども、『エヴリ・ワン・オブ・アス』に比べると、エリックの存在は非常に希薄だ。これはやはり、ズート・マネーとアンディ・ソマーズが単なる協力者の立場ではなく、エリックの力と拮抗している状態で作られたアルバムだったことが原因だろう。ズート・マネーとアンディ・ソマーズの加入によって、この名作を作り上げたエリックだったが、それと同時に自らのアイデンティティーの喪失というディレンマに悩まされることになったのかもしれない。

ERIC BURDON

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