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      友だちの部屋(はたちよしこ)




      空港ピアノ

    TVに「空港ピアノ」という番組がある
    空港の待合いに ピアノが置かれ
    「どうぞ」と書かれているのだろう
    通りがかる人は ふと バッグをおいて弾いていく

    その日は マルタ島の空港だった
    ピアノを弾いていくのは
    足を怪我してプロサッカーを諦めた人
    元鉄道員の人
    赤ちゃんを抱っこ紐のまま弾くピアニスト
    人々を助けたいというギリシャの医大生
    だれもが いつか夢中で弾いている

    その一人がいった
    ピアノを弾いていると
    マイナーなことも
    ポジティブのことも表現できる
    なにかをみつけ 向かい合い
    自分を広げていけると

    ピアノのそばには
    出発を待つ人のソファがある
    人びとは聴くともなく聴いている
    そして やがて去っていく
    けれど いつか
    この空港のピアノを 思い出すだろうか
    明るい希望のように


      わたしに

    風はかぞえられますか
    雨はかぞえられますか
    世界中の虹をかぞえられますか

    一本の樹のすべての葉
    ミズスマシの輪
    地層にねむる恐竜たち
    生まれ死んでいく魚たちをかぞえられますか

    波に運ばれてきた貝殻
    貝殻を拾った人たち
    その足あと
    その声
    その瞬き
    また あしたねといいあった時を
    かぞえられますか

    呼びなれた名
    帰ってくる返事
    そのなにげないときを

    かぞえられないものばかりが
    わたしに
    いとおしく ふれてくる


                〜〜「小さな詩集」20号(2019年4月・終刊号)掲載〜〜


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      ある日

    街の中を歩き回り
    疲れてしまった
    ふと 見ると宅配便の店があったので
    入っていた

    ――わたしを 静かなところに宅配してください
    とたのんだ
    すると 係の人は
    はい わかりました お待ちくださいと

    風が吹いている
    わたしは なにをさがしていたのだろう

    ――すみません また 今度おねがいします
    というと
    は―い わかりました
    と 係の人は いそがしくしていた

    外に出ると
    百合の花が咲いていた
    細い葉っぱが 階段になっていたので
    登っていくと
    白い明るい部屋があった
    いい香りがして
    きょうが ゆっくり暮れていった


                 〜〜「小さな詩集」19号(2018年10月発刊)掲載〜〜


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      切符

    寒い駅まえで
    道行く人に 梅の一枝を配っている
    梅咲く地への 旅の誘いらしい
    わたしも いつかと
    紅梅のつぼみの一枝をもらった
    
    そして
    改札を通りぬけようとしたとき
    つぼみが ぱっと開き
    咲いた
    一瞬 確かに
    花びらの開く音をきいた

    きっと 梅は
    じぶんの切符を みせたのだろう
    春への切符を


      車のサイドミラー

    小さな女の子が
    サイドミラーをのぞきこんでいる

    しばらくながめていたが
    うれしそうにいった

    ――こんなところに
      小さな空があったのね


                 〜〜「小さな詩集」18号(2018年4月発刊)掲載〜〜


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      コピー機の上に

    小さな虫がのっている
    虫は しばらくじっとしていた

    それから 思った
    ーーじぶんを コピーしてみようっと


      切手

    わたしだけでは どうしようもない


      

    大きな雲と
    小さな雲が流れていく

    雲にも親子があるのだろうか

    いっしょに
    帰って行くところがある気がする


      

    貨物列車が 霧を運んでいく


                 〜〜「小さな詩集」17号(2017年10月発刊)掲載〜〜


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    ふむ ふむ
    春の匂いがする

    どこからか わからない
    風が はこんでくる心地よい匂い

    人類が生まれたとき
    はるか遠くからくる
    生まれるまえの 水の匂い

    水辺から
    こどもたちの
    ひかりまみれの声がひびいてくる

    わたしは
    春の
    強く やさしいものを
    受け取ろうと

    オオカミのように
    ふむ ふむ
    呼吸する


      桜蕊

      樹の下に 散らばっているのは
    マッチ棒のようです
    春を 点したのですね


                 〜〜「小さな詩集」16号(2017年4月発刊)掲載〜〜


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      困った

    道を訊ねた
    ていねいに教えてもらったのに
    また わからなくなった
    振り返ると 教えてくれた人が
    じっと こちらを見ていた


      立て札

      「ペンキぬりたて!」
    立て札は 胸を張っている
    ――わたしがいなければ 大変ですよ!


     線路

     本線――――困った! 電車のダイヤが乱れているらしい
    引き込み線―引っこんでいるから わからない


       

    洞窟――――暗いなあ 暗いなあ
    コウモリ――ぼくたちが 羽ばたくから
          暗がりは 薄くなっているんだよ


      身をもって

    崖下に
    立て札が落ちている
    「落下注意」と 書かれていた


                 〜〜「小さな詩集」15号(2016年10月発刊)掲載〜〜


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      青い空

    あるひ からっぽがやってきた
    わたしは うれしくなって
    からっぽのなかに つぎつぎといれた

    なんかいもの しっぱいや
    だれかをきずつけたこと
    いつも まよっていること
    とうとう
    じぶんまで ほうりこんだ

    しずかな なかで
    ふと 青い空をおもった
    
    そのとき
    いっぱいになったからっぽが
    ほうりこまれたものを
    つぎつぎに なげだし
    わたしも ほうりだされた

    どこまでも
    青い空が ひろがっていた


       おへそ

      舟の形をしている
    闇を
    かすかに乗せて


     

     風は 少し急いだのだろうか
    落葉には 緑色が残っている

    葉は
    少し窪み
    舟の形になっている

    ふいに わたしは
    風におされ
    舟に 乗りこんでいた

    川を 進んでいく舟
    わたしは
    どこへ 流されていくのだろう


                 〜〜「小さな詩集」14号(2016年4月発刊)掲載〜〜


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     秋へ

     観覧車は
    澄んだ水色の空を
    汲み上げていく

    座席に忘れてきた
    わたしの麦わらぼうし

    夏にあげる!


      夕暮れ

    電光掲示板に
    予報の文字が流れていく
    ――明日の天気は晴れ

    そうですか
    空は
    じぶんの予報をみている


                 〜〜「小さな詩集」13号(2015年10月発刊)掲載〜〜


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      胃

     田と月
    こんなに美しい字だった

    植えたばかりの水田に
    月の光が
    ふりそそいでいるのだろうか
    それとも
    さわさわと実った穂を
    月が見つめているのだろうか

    しばらく 胃が痛かった
    ふと はじめて
    胃という字を思った

    田と月
    こんなに美しい字だったことに
    はじめて 気がついた

    田を月が照らしている


      乗継駅

    外に一軒の小さなみやげもの店があるだけの駅
    一時間の待ち合わせ
    改札の待合い所には 大きな石油ストーブが燃えている
    本を読む人や 目を閉じている人たち
    しーんとして 燃える音だけがしている
    わたしはひっそりと わたしの時間を乗継いでいく


                 〜〜「小さな詩集」12号(2015年3月発刊)掲載〜〜


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     粉雪

     クリスマスカード売場は
    多くの人であふれていた
    カウンターの端で
    一人の青年が クリスマスカードを書いている
    
    なにげなく 見ると
    ――おばあちゃんへ …………
    と、うつむいた青年の髪はぼさぼさだった

    外に出ると
    いつの間にか粉雪が降っていた

    おばあさん
    クリスマスには
    お孫さんからお便りが届きますね


     準備体操

    ――えっ いま 準備ですか?
    身体が つぶやく
    わたしはいつでも 本番なのですが……


     納得!

    こころにも 骨があって

    わたしを しゃんとさせる


                 〜〜「小さな詩集」11号(2014年10月発刊)掲載〜〜


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     し−ん

     プールに
    まぶしいひかりがさしている
    平泳ぎしているわたし
    
    泳いでも 泳いでも
    きょうは
    浮かび上がってこない気持ち

    ぷく ぷく
    しーん

    手と足は こんなに
    春の四隅に ふれているのに


     

    飛び込み台から
    あなたの身体は飛ぶ
    青空から
    足を引きぬき
    力強い直線になり
    プールを流れる雲の中へ

    あなたがつくる
    水の輪
    それから
    あなたは 雲をぬけだし
    水を滴らせながら
    まだ 空の青に染まった足で
    わたしの方へ走ってくる


                 〜〜「小さな詩集」9号(2013年10月発刊)掲載〜〜


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     ヘビ

    短すぎる
    と、じぶんではおもっています
    いつも ぐいぐいのばしています

                    
*ルナールの詩(「蛇」長すぎる。)



     さびしさの角度

    月が
    分度器のかたちをしている
    わたしは
    すこし 首をかたむける
    ――いま 測ってくれた?


     小石

    わたしの周りで
    影は 一日ゆっくりうごいていきます
    わたしが回しています


     風の市

    ――橋のむこうの枯野原で
      いま 風の市がでているよ
    猫がいっていた

    枯野原には なにもなかった
    ふしぎな ざわめきの中
    わたしは 風にぶつかりながら歩いていた


                 〜〜「小さな詩集」8号(2013年4月発刊)掲載〜〜


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    信号待ちの向こうに
    海のような空 
    
    (海は ずっと旅をしている)
    海辺に住む祖母がおしえてくれた
    貝殻も
    流木も
    巻き貝の中の坂道も
    旅をしている海からの手紙
    
    いまごろ 海には
    白い帆が
    春を迎えに出ているだろう

    空は届けてくれる
    街の真ん中のわたしに
    青い海を


     

    野原は びっくりばこ バッタがとびだした!


     噴水

    中に明るい部屋をみつけた


     夜の台所

    卵焼き器は 月の光を焼いていた

                 〜〜「小さな詩集」7号(2012年10月発刊掲載〜〜





     わたしに

    風はかぞえられますか
    雨はかぞえられますか
    世界中の虹をかぞえられますか

    一本の樹のすべての葉
    ミズスマシの輪
    地層にねむる恐竜たち
    生まれ死んでいく魚をかぞえられますか

    波に運ばれてきた貝がら
    貝がらを拾った人たち
    その足あと
    その声
    その瞬き
    また あしたねといいあった時を
    かぞえられますか

    呼びなれた名
    返ってくる返事
    そのなにげないときを

    かぞえられないものばかりが
    どうしようもなく
    いとしく わたしにふれてくる

             〜〜「日本児童文学」(2012年9、10月合併号掲載〜〜


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     真冬の夜の出来事

    眠っていたへびは寝返りをしました。
    巻き方が逆になりました。
    夜は少しだけ 逆もどりして
    また しーんとなりました。


     春へ

    落椿――引っ越しました。じぶんでも急なことでした。
        あそびに来てください。

    砂浜――子どもに長靴ではんこを押された。

    巻貝――海へのひみつの急な坂道。

    まるむし――冬を消すケシゴムを買いに行く。

    みのむし――冬空の余白にぶらさがっていました。

    かめ――首がやわらかになる。

    からす――科学誌が「始祖鳥の翼が黒かった」と発表。
         そうでしょう。そうおもっていました。

    平均台――端は春野原につづいています。

    旅――じぶんという荷物がやわらかくなる。

    春という字――雪除けに
           わら囲いされた牡丹の花。

                 〜〜「小さな詩集」6号(2012年2月発刊掲載〜〜


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    青空の奥に
    どんな強い風が吹いているのだろう
    雲は
    引っぱられ
    ちぎれ
    ひろがり
    その動きをいっときも止めない

    雲自身も
    じぶんに戸惑っているのだろうか
    
    だれかを愛し
    どうしようもなく
    途方に暮れたときのように

    どんな強い風が吹いているのだろう
    わたしの心の空に


     

    鳥は
    落蝉をくわえて 飛び上がった
    蝉の羽が琥珀色に光った
    
    夏は こぼれることなく
    鳥に
    空高く運び去られた

                 〜〜「小さな詩集」5号(2011年10月発刊掲載〜〜


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     トカゲ

    岩の上で
    日本列島のかたちをしている
    どこの県にも
    夏の風が吹いている


    
 ミノムシ

    枝にぶらさがっていると
    風がゆらしにきます
    ゆらしたままいってしまうので
    じぶんで止まらなければなりません
    じぶんを止めるってむずかしいこと
    少しゆれているのがわたしです


     記憶

    からだじゅうに
    海水を滴らせながら
    砂浜に上がってくる瞬間
    
    からだをめぐる
    はるかなヒトの記憶
    憶えていないのに

    海水を滴らせながら
    ヒトがはじめて歩く瞬間が
    わたしのなかにある

                 〜〜「小さな詩集」4号(2011年4月)掲載〜〜





     カネタタキ

    闇に
    穴をあけてしまった
    あっちにも こっちにも
    
    そこから 少しずつ
    秋がしみ込んでくる


    
 セミ

    空を向いて死んでいる
    ずっと 背中しかみせなかったよね
    いま 空のふとんをかぶっている


     紙魚(しみ)

    本は
    静かですね
    
    じっと はさまれていると
    じぶんでも
    いるのかどうかわからなくなります

    句読点がすきです
    わたしに
    似ているようで…
    
    ここは
    なんページでしょうか

                 〜〜「小さな詩集」3号(2010年11月)掲載〜〜


               
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      キリン

    キリンが歩くと
    首は
    空を拭いていく
    

    キリンの歩いたあと
    空が美しい
    
    

    

       風

    夢の中で
    石けりの石をみつけた

    手にkのせると
    石のまわりに
    そよいでいた風がついてきた
    
    

                        
〜〜「小さな詩集」2号(2010年4月)掲載〜〜
 





      

    ぶあつい闇の中で
    虫が鳴いている
    

    虫は ときどき
    ヒゲで
    おおきく
    闇を かきまぜる
    
    
さびしさが固まらないように



     吹雪の夜

    吹雪は 闇をちぎっていく
    はげしく
    じぶんを手離しながら

    川は
    ちぎれた闇を
    透きとおるまで洗う
    
    なぜ こんないとしい時があるのか
    こんな日
    わたしはこころを入れかえてもいい


                        
〜〜「小さな詩集」創刊号(09年11月発刊)掲載〜〜
 





      枯野

    葦のゆれるなかを
    わたしは

    胸まではいって歩いている
    風がはげしく吹いてくる

    だれかがいっていた
    枯野は 寂しくて
    人の顔をほしがるのだと
    わたしはつぶやく
    
     わたしの顔をあげるよ
     じぶんのことが
     じぶんでも わからない
     だから わたしの顔をあげるよ
     
    枯野の風が
    顔にはげしく吹きつける
    目や鼻をさわって確かめているのだ

    ふいに 折れ曲がった葦が
    遮断機のように前をふさいだ
    だれかが わたしの名を呼んでいる
    だんだん大きくなる
    なつかしい声

      枯野はつぶやいている
    
(顔を棄てるならもらうよ)

    わたしは走る
    枯野から
    わたしの顔をとりもどすように
    わたしをはげしく呼ぶ声の方へ

    ふりかえると 風が止っていた

                      〜〜「日本児童文学」誌09年11、12月合併号に掲載〜〜
 


                
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      ふうせん

    おとこの子は
    手にもっていたふうせんの
    ひとつを
    空へ飛ばしてしまった

    ぽかんとしているあいだに
    もう ひとつの
    ふうせんも飛ばしてしまった
    
    ──いっしょに 飛びたかったのね
    そばで 母親がいっている

    おとこの子と母親は
    いつまでも
    空を見上げていた



       風景

    列車の窓から
    下校の小学生がみえる
    ベビーカーを押しているおかあさん
    プラットホームで電車を待つ人たちがみえる

    風景のなかの人たちは
    みんな
    しあわせそうに過ぎていく
 
    もう 永遠に
    出会うことのない人たちが
    わたしに
    やさしく過ぎ去っていく

    あるとき わたしも
    だれかの
    しあわせな風景かもしれない



           ままごと

       白詰草にすわって

       花を摘む

       手はままごとを憶えている

       白い花を

       ごはんにしたこと

       こころは忘れていたのに

                           〜〜詩誌「カヤック」18号より〜〜



       はじまり      

     走ってきたバスは
     終点の
     ロータリーで
     乗客を降ろした

       それから
     ゆっくり
     半円をえがきながら

     バスを待つ人たちの
     始発点に
     やってくる


         
──いいな
       こんな はじまり


     からっぽのなかで
     空気だけが
     光っている

     わたしにも
     できそうな気がする

                                   〜〜詩誌「カヤック」18号より〜〜
                            〜〜「日本児童文学」誌07年1、2月合併号に掲載〜〜


        追伸


       はるのゆきは
     ふゆの てがみの追伸

     ──あなたのところに はるがいきますよ

     ほんとうに つたえたいことは
     みじかい
     ひとこと

     空が ひろがっている


                          
〜〜詩誌「カヤック」18号より〜〜

                                  

     つり橋


     人が 渡っていく
     たったひとりの人に ゆれている

     ひとりの人の 重さを
     敏感に 受け止めてゆれている

     わたしの 奥深くにも
     川が 流れている

     たったひとりの人に
     ゆれている つり橋がある



 

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