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       虫めづる姥やの虫の写真と詩(2018年〜2023年)

☆★☆

 
    クロコノマチョウ

  別離の哀しみが三つ重なり
  くらくらする目に
  飛び込んでくる飛翔の暗さ
  
  若葉の香りのする眩しい日溜りのなか
  傷んだ目に好もしい暗い飛翔

  他のチョウたちは
  具え持つ華麗さを
  隠さないものなのに

  クロコノマチョウの飛翔は
  暗いすばしこさで慰めをくれる


          
 2023・5・5   里山にて



 
    字書き虫(ハモグリバエ)

  緑の葉群(はむら)がぼくらの国
  一葉の極薄の空間がぼくらの棲み処

 火群(ほむら)を逃れた葉を食しながら
 飛び立つ日の希望を文字にしていく

 停戦
誠実から遠く
 終戦虚実の上塗り

 平和
手に負えそうもないけれど
 挑戦するのはこの文字しかない

 ぼくらが書き残す迷いぬいた平和

 葉表を突き抜け 空に向かって

 透けてくれますように!


          〜〜2023年1月7日〜〜

     ☆彡「野川ほたる村だより」34号掲載☆彡

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    冬虫夏草・クモタケ

  わが庭の賓客
  キシノウエトタテグモさまに

  寄生するのは何者ぞ
  まかりならぬわ 許せぬわ

  息まいてみても 日ごと伸びるわ
  純白の胞子を 飛ばすわ飛ばすわ

  すわ! 一大事
  わが庭はクモタケだらけか

  キシさま どうか、ご無事で
  巧みに避難なさいませ!


              〜〜2022年10月10日〜〜



☆★☆

 
    ウスキツバメエダシャク

  みずほ銀行のお知らせ版を
  読ませたくないのではありません
  尾状突起をひけらかす
  というのでも ありません

  なぜか ここにいる というしあわせ
  なぜか たのしい  というしあわせ

  人が忘れてしまった
  なぜか ここにいると愉しい
  を、甘い白さで見せてくれる


              〜〜2022年8月15日〜〜



 
    ハイイロヤハズカミキリ

  細い竹筒のなかで
  誰からも干渉されずに
  灰色の日々を過ごしていた
  
  心のどこかでは
  そりゃあ、いつかは緑の林へ
  飛び立つ日がくることも知ってはいたさ

  だけど、そんな日は
  突然やってくるものなんだな

  何にも不自由を感じていないときに
  突然やってくるものなんだよ

  ぜんぜん驚きはしてないさ
  灰色は何事にも驚かない色なのさ

              〜〜2021年6月4日〜〜

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     ナガヒラタムシ

  何億年もの昔から
  人類よりも大昔から
  地球を知っているご先祖に
  きっちり並ぶ鱗を託されたのでしょう

  託された重さをさりげなく背負い
  里山にいたのでしょう

  ここの風はどうでしょうか
  慣れないビニールの光は?

  つぶらだけどきりりとした目
  すこし戸惑っているようで
  違和感を感じているようで

  申し訳ないです 人類のはしくれ

               〜〜2021年3月13日〜〜

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     ゴマダラカミキリ

  あなたが兄さんに捕まると
  わたしの頭はきゅっと固まるのよ

   一本よこせ こいつに髪を切らせるんだから 

  スポーツ刈りの頭しか持ってない兄さんたら
  わたしの長い髪を欲しがるんだもの

  ギシックギシ

  あなたは少しためらってわたしの髪を切る
  兄さんに叱られないために

  ギシックギシギシ

  顎を鳴らしてわたしの髪を切る
  もう捕まらないでね わたしの兄さんには

               〜〜2020年7月1日〜〜

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     ツマキチョウの蛹

  凛として ひとり
  作春から今春まで
  一年をまるごと抱え
  
  身体は早くも ざわめくけれど
  淡雪が降るわ 雨が降るわ
  こんな日には羽化はしない

  凛として 耐える
  一年を耐えたものにも
  透けた身体での一日は長い

  それなのに迷いもせず
  身じろぎもしない
  蛹のなかの静かな 凛々

               〜〜2020年4月1日〜〜

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     テングチョウ

  春がきたのにコロナコロナコロナ
   ヒトのあなたはコロナの行方を憂える
   凌げるヒントがチョウのわたしにあるのに
   
   わたしの存在に気がついてくれたお礼に
   チョウの呪文を教えましょう

   緑のなかに コロナは来ない

   チョウのわたしには緑の木がいっぽん
                緑の草花がいっぽん
   ヒトのあなたには緑の木がろっぽん
                緑の草花がろっぽん

   思い返してみてください
   コロナがはびこるのは緑がないところ

   雪が降り積もった街だったでしょ
   コンクリートで囲まれた部屋だったでしょ

  緑のなかに コロナは来ない


               〜〜2020年3月1日〜〜

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     ツマグロヒョウモン・妻

  妻だから黒い? のではありませんよ
   黒いのは褄 端っこが黒いだけですよ
   それだけで 悪に近いですか?
   黒って悪ですか?

   褄の黒さが際立ち過ぎやしないかと
   白い帯模様を入れているのに?
   それでも悪っぽいでしょうか?

   スミレが好きな方にとって
   わたくしの子どもたちは天敵
   どうか 見逃してください
   
   どんなに母親があくどい色をしていても
   子どもたちのスミレ好きは純粋
   どうか 大目に見てやってください


              〜〜2019年10月15日〜〜

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     ガガンボ

  刺さないのに
   許されぬ悪事を働いた人さえ
   刺さないのがガガンボなのに

   ガガンボのボは母のボ
   ガガンボは蚊の母

   そのように思われ続け
   長い歴史を背負ってきた

   それだからか
   脚が半分千切れても
   壁に張り付いて耐え得るのは


                〜〜2019年4月16日〜〜

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     ベニカミキリ

 紅色のスカーフを買ったけど
 幾つになっても似合いそうもありません
 似合うのはあなたしかいないと思って送りました

 そんな手紙が添えられていた紅色のスカーフ
 うれしくて くすぐったかったあの日……
 ……十数年が流れ

   ここにいた ここにいたのよ 似合う虫が
   かぐや姫のように竹から生まれる虫が

 形見を遺して逝ってしまった 園子さん
 清楚な人だったのに
 これから長い物語を書こうとしていたのに

 似合うと思い込んでくれたようには
 幾つになってもなれていはいない  ただ
 遺された紅色を思う気持ちが強まるばかり


               〜〜2019年3月23日〜〜


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   ユウマダラエダシャク

  雨が降っていますが
  今日から梅雨入りですが
  ふらら ふららと おかまいなしですね

  羽の向くまま 気の向くままに
  夕べの庭を
  ふらら ふららと 飛び回りますね

  目隠しのマサキは 大きくなった
  斑入りのマサキも 背が伸びた
  目ざとく 嗅ぎ取って

  ふらら ふららと 産卵なさるおつもりですね


 
              〜〜2018年6月6日〜〜

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   ヤマトシジミ

  たとえ 色が褪せていても
  たとえ 羽が破れ傘のようでも
  君を好きだという思いだけは誰にも負けない

  君は眩しいほど美しく
  触覚の先まで溌溂としているけれど
  ぼくに不似合いというわけではない

  ぼくと交わりながら 君はゆったりと
  ゲンノショウコの花の蜜を吸っている
  これこそが 現の証拠



 
              〜〜2018年6月2日〜〜

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   ジガバチ

  ♀〜〜ミントの畑で出会えるなんて  うれしいな
  ♂〜〜どんな子を産むつもりだい?
  ♀〜〜わたしたちにそっくりの子に決まってるでしょ

  ♂〜〜自我 自我 自我の ジガバチかい?
  ♀〜〜似我 似我 似我の ジガバチよ


  ♀〜〜さあ、もう 飛び立つわ
       巣を掘って  青虫狩って 眠らせて
       静かにそっと 卵を産んで……

  ♂〜〜青虫をぼくらの子に育てるのかい?
  ♀〜〜お馬鹿さん 青虫の身体を借りるだけ

  ♂〜〜そうか ぼくらの子どもは 超自我か
  ♀〜〜そうよ 超似我 超似我 超似我よ


 
              〜〜2018年5月16日〜〜

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   キハラゴマダラヒトリのボーイ

  よく晴れた日に
  思春期風の歩き方をする
  毛虫のボーイに出会った

  どちらへお出かけ?とたずねると
  ぴたりと止まり 長い思案の後に
  五里霧中 デス とのお返事

  は? こちらも ぴたりと立ち止まる

  毛は晴天デスが 気持ちは霧中 デス
  しかも ぼくのデスは
  ディーイーエーティーエッチのデスでは ありません
  思春期風のデス なのデス

  ああ、ある ある わたしもそう デス
  今日も立派に思春期 デス

  ふたりは ゆっくり歩き出す
  思い思いの 思春期の方へ


 
              〜〜2018年4月5日(清明)〜〜

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   ナガサキアゲハ

  はじめまして  ピンカートン
  海峡を越えて はるばると

  さりげなく織り上げられた 漆黒の翅
  ほどよくちりばめられた 銀色の鱗粉

  長崎から 東京へ
  悪し様な風評は さておいて

  まあまあ ようこそ  ピンカートン
  今夏には マダーム バタフライと
  ツーショットを 撮らせてね


 
                〜〜2018年1月27日〜〜

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   クロアゲハ

  あんな夏もあったよなあ

  屋根より高く舞い上がり
  事も無げにホバリング
  選んだあげくの花から 蜜を吸う

  あんな夏があったよなあ

  ぜいたくでもなんでもない
  ありがたいこととも思わず
  軽々とやってのけた夏

  あんな夏があったことを
  覚えておいたほうがいいのだろうか
  多分 覚えておいた方がいいのだろう

  軽々とは出来なくなる日が
  間近な身だからこそ
 
 
 
               〜〜2018年1月26日〜〜


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