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            2016年・虫の写真と詩

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   シンジュキノカワガ


 わが風貌を なんとみるか

 なんとみるかや 大和の民よ
 わが出現を 吉とみるか 凶とみるか

 迷わず 脇目も振らず
 始皇帝の背後を護りしわが身よ

 されど なれど
 流れ流れて 幾代経て 見ず知らずのこの国へ

 わしの出現を
 はじめとみるか おわりとみるか

 大和の民よ 混在を恐るるか
 易経をひもとくがよし
 己の純粋を 重用するを止めよ


             ~~2016年12月30日~~
                    (写真・西沢糸信)

  

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  ヒダリマキマイマイの誕生


 雨に濡れた石の門を
 漂うように下りていく

 透きとおった乳色の殻は
 荒波をまだ知らない

 陸の海月

 
ただひとつだけ
 母さんがどのような場所で
 暮らしていたのか
 それだけを知っている

 そして
 自らもその場所へ向かうために
 陸の海月は
 ゆらゆらと漂っていく


             ~~2016年11月25日~~
  

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  ルリタテハ・3齢


 あら 毛虫よ! 毒蛾になるのね!

 街では
 誤解の声が なじる声に聞こえ
 ぼくは固まり 無口になる 

 はよう 大人になりんさい
 瑠璃色の美しか蝶になりんさい

 
鄙には
 まだ あの小声の励ましが
 花壇の隅に残っているだろうか

 もう一度聞きたいよ
 ぼくの在りようを詠った
 すこしかすれた静かな声を


             ~~2016年11月11日~~
  

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  ルリタテハ・前蛹


 最後の線香花火
 全身からほとばしる 瑠璃色の力
 
 柔軟だった体が 思春期とともに
 折れ曲り こわばってくる
 
 
君だけではないさ
 わたしだって そうだった

 硬く 固く 堅く 自分をまもるために
 薄汚れたものから離れ
 逆さまになりたかった


             ~~2016年11月11日~~
  

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  アオマダラタマムシ


 自転車事故に遭いまして
 後ろ脚を一本無くしました
 幸い命には別状ありません

 事故ではなく 別の病で
 命が危ないところだったと
 いわれたことのある方が

 脚を一本無くすぐらい
 どうってことないでしょと
 明るく軽く申されました

 そうでしょうか
 そうでしょうか
 
そういうものでしょうか

             ~~2016年10月16日~~
  

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  ミヤマフキバッタ


 捕まってもいいものかしらん
 蝗(イナゴ)だと思い込んでいるヒトに
 佃煮 佃煮!と
 呼び立てるほどのヒトに

 捕まった方がいいいものかしらん
 蝗ではなく飛蝗(バッタ)で
 佃煮にならなくはありません と
 一応名乗るべきかしらん

 頭の硬いフキバッタ
 苦み走ったいい男



             ~~2016年9月14日~~
  

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  ベダリアテントウ


 日だまりのなかで いつのまにか
 ひとりぼっち

 ついこのあいだまで
 たべものもたくさんあったのに
 たべるものも どこにもなくなり
 ひとりぼっち

 みんなどこにいったのだろう
 いつのまに!

 いつのまにか じぶんもいつのまに!に
 なってしまいそうで
 白いうすいベールをかぶり

 いつのまに! が
 どういうふうにやってくるのか

 じっとまっている


             ~~2016年8月28日~~
  

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   螢


 この結婚に
 一年一生の充実が潜みます

 苔の褥の卵時代
 水棲巻き貝を頂く幼虫時代
 空中を飛ぶ成虫時代

 みんながこの結婚を目指し
 淡い光を放ち続けます
 
 はかない生涯ではありません
 迷いのない充実の一年一生です

 30年生きるのも100年生きるのも
 みんなおなじこと
 生涯に光を放つ時間はみんなおなじ


             ~~2016年8月28日~~
  

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   オオマルハナバチ


 ぷうううう~~ん と飛ぶだけで
 「きゃっ ハチ!」
 黒い巨体というだけで
 クマンバチ!と誤解する

 どうにかならない? その浅慮

 ぶうううう~~ん と 近づくだけで
 「きゃっ お願い!
 ベリーの受粉を手伝って
 林檎の受粉を手伝って」

 「きゃっ こっちには来ないで
 受粉するのがあなたの仕事よ」

 どうにかならない? その 身勝手

 そう思いながらも
 鷹揚なオオマルハナバチ
 きょうも巨体で飛び回る


             ~~2016年7月16日~~
  

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  カナブン

 生き生き生きたいのは
 山々なれど

 山には猛毒のヘビがおんにょろ
 里には猛毒のトリカブトぶっとく
 森には猛毒のツキヨタケぬらり


 カナブン ぶんぶん考える
 道々 おちこち  ゆくしかあるまいのりてぃ

 鋼鉄の羽根の下に
 かっちり畳んだ薄翅隠し

 道々 おちこち ゆくしかあるまいのりてぃ


               ~~2016年6月30日~~

  

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  オオカマキリ・卵嚢

 山吹の緑に包まれ
 あと一週間もすれば
 わらわら ぴょこぴょこ
 赤ちゃんが生まれてくる

 去年の秋の君たちの母さん
 まったくいい場所を選んだものだ
 肉食系の賢い母さんだった

 わらわら そうだよ
 ぴょこぴょこ あたりまえ

 卵嚢のなかのざわめきが
 咲き残りの山吹の気持ちを
 風のようにくすぐっている


               ~~2016年5月18日~~

  

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  トラフコメツキ

 車道をわたるとは無謀だよ コメツキ
 絶対にわたると 言い張るけれど
 おのれを知らぬ暴挙に見えるよ
 その頑なさは絶滅への一歩だよ

 きのうもおとといも
 人間の車道は 半端じゃなく非情
 きょうもあしたも 揺るぎなく危険

 それでも 車道をわたるのかい?
 それなら わたしが橋になろう
 掌の橋で君を向こうにわたすから
 心地よいノックでこたえてくれな!
 コッツン コツッ と叩いてくれな!


               ~~2016年5月7日~~

  

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     ツマキチョウ

 三鷹駅ホーム
 ヒトに危険を知らせる黄、黄、黄の帯
 その傍らで 命尽きたツマキチョウ

 同じ黄色でも
 菜の花畑ではないものがあることを
 教えてやりたかった、君に

 勘違いした冷たい場所で君は逝き
 わたしが来るのを待っていた

 きのうも独りぼっちのツマキチョウに
 出会ったばかりのわたしを
 君はここで待っていた

 わたしの胸のなかで
 彼女ともつれ合って舞うために
 菜の花畑の春の使者になるために

               ~~2016年4月20日~~

  

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     フナムシさん?

 あなた フナムシのお仲間ですか?
 海のゴキブリって ニックネームの?

 門司港の埠頭で 偶然お見かけし
 心配する友を置いてきぼりにして
 追いかけずにいられなかった あなた!

 赤銅色に日焼けした 遠い日の誰かに
 そっくりのあなた!
 紛れもなく 海のゴキブリさん?

 強い潮の香りに包まれながら しばし 呆然と
 あなたがいそいそと下りていった 直角の岸壁を
 岸壁に打ち寄せる海の泡を見つめていましたっけ


               ~~2016年3月5日~~

  

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     クジャクチョウ

 クジャクのように あでやかで
 クジャクのように 人目を引きつける

 さりながら さりながら
 クジャクのように さりげない

 あでやかでしょう が さりげない
 きれいでしょう も さりげない
 
 サクランボ狩りのハウスに
 閉じ込められたことを 恨むでなく
 順番に浮かれる客を なじりもせず

 イラクサの香りのする
 自然のなかへ もどる時を うかがっている


               ~~2016年1月16日~~

  

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     オビババヤスデの代々木線

 富士の麓で大群をなし
 中央線を止めるのは あたしたちの親類

 亜種っぽ 亜種っぽ しゅっぽっぽ

 北杜の森で大発生し
 小海線を止めるのも あたしたちの親類

 亜種っぽ 亜種っぽ しゅっぽっぽ

 でも あたしたちは 止めはしない
 神宮廻りの 代々木線
 
 種っぽ 種っぽ しゅっぽっぽ

 おしゃれな車両の貨車を引き
 洞のトンネル駆け抜ける
 種っぽ 種っぽ しゅっぽっぽ~~!


               ~~2016年1月11日~~

  

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      七星てんとう

 おめでとう!みなさん

 すこし うれしい人も
 すこし かなしい人も
 おいで!薔薇の艶やかな香りをかぎに
 
 うれしいけど
 うれしいと(いまは)いえない人も
 かなしいけど
 かなしいと(いまは)いえない人も
 
 おいで!薔薇の透き通る甘さをかぎに

 ことしはきっと
 折れ曲がらない うれしさと
 折れ曲らない かなしさが やってくるよ

 おめでとう!みなさん


              ~~2016年1月8日~~

  

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