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むらこうの 「つぶやき」 コーナー


ちょうチョ

 2001年の夏、藪沢状態となったいつもの川での出来事でした。
 
 ひとり寂しく、じゃなくてひとり楽しく(これもなんか怪しい?)、いつものポイントを叩いて上がっておりました。状況はいつもの通りで、まだここまで魚の顔は見ておりませんでした。似たようなポイントで虚空なキャストの繰り返しはまさに忍耐の釣り?それでも楽しいのだから、やっぱり好きじゃないとこういう事は出来ないものなんですね。
 夏の日、木々が覆い被さり直射日光は避けられてもやはり暑い。山の中ではあっても、セミの声すら聞こえず、聞こえるのは山のざわめきと川の音のみ。はるか前方では大きな黒い蝶が舞っている。そして、ここでも結果は予想されつつも、ある程度の期待を込めてフライをキャスト。ところが狙った(とおぼしき)所にはフライが落ちてこない。見失っちまったかと思いながら、その近辺に目を凝らすもフライが無い。するとその直後不思議な現象が起こったのです。前方に伸びたオレンジ色の#3ラインがするすると上空へ上がって行くではないですか。何が起こった!?正直この瞬間、言いようの無い戦慄が背筋を駆け抜けました。そしてその先をたどると、その数メートル先には先ほどの黒い蝶が!それは小刻みな上下動を繰り返しながら、ぐんぐん上へと上がって行く。そしてそれを追いかけるかのように、その動きにあわせフライラインも上がって行くのです。そう、私はその蝶を“釣って”しまったのでした。元気で飛んでいる所を見ると幸いにも羽根のどこかにフックが引っ掛かったようでした。それにしても、ただヒラヒラと風に舞っているかのような蝶ではあっても、その力強さには驚くばかりだと、この様な状況にあっても感心してしまった次第でした。
 そしてその蝶は、一面に覆い被さる木々の間を縫って上空へ出ると、ようやくフックが外れ、めでたく訳のわからぬ災難から開放されたのでした。私にとってもホッとする瞬間でした。が、何と今度は外れたフックが手の届かない木の枝に“フッキング”。当然、ロストフライとなってしまったのです。あの蝶は
『ザマァミロ!アッカンベー』
と言っているようでした。

 「別に悪気があってやったわけじゃないんだから、許してチョ」