けっこうダイナミックです。


遥と呼べば

 新太郎は生まれてもう1年と3ヶ月経った。彼の名前は何度くらい呼んだだろうか。一日30回呼んだとしても、もう既に一万回以上は呼んでいることになる。
 それに対し遥はやっと3ヶ月、しかも一日に30分位しか会えない為、数えるほどしか呼んでいない。しかも長男新太郎がいるため、遥への面会はほとんど一人の時が多い。そんな状態で遥に声を掛けるのは非常に勇気がいるものなのである。これが家内と二人で来た時などは全く平気なのだが、一人だと何となく照れくさくって、ささやくような声しか出せないのである。
 そんなこともあってか、遥に会いに行って声を掛ける時、思わず
『おい、しんたろ〜』
 慌てて言い直すのである。
『お〜い、は〜るかぁ〜』
 別に悪気があってやってる訳じゃないんだけど、口癖のようになってて、つい無意識のうちに出てしまうんだな‥‥‥。
 これから遥が退院して四六時中一緒にいるようになれば、きっとこんな事も無くなるだろう、とひとり無理に思っている私なのである。でも、四六時中一緒にいるとは言ったものの、平日は仕事で家にいないことに気づくのであった‥‥‥。
 早く大きくなって、退院して家に帰る事が出来れば、これからた〜くさん名前を呼んであげられる。そのことを今から密かに楽しみにしている私なのである。
 そんな日が早く来ることを楽しみに、今日も元気よく小さな声でささやくように
『おい、しんたろ〜』
 じゃなくって、
『お〜い、は〜るかぁ〜』
2002.04.11 夜